静岡県で最も「元気で勢いのある町」が今、ふるさと納税に本格参入する意外な理由とは

 「取られたら取り返すではないが…」。数年前の大ヒットドラマを意識したのではないだろうが、静岡県長泉町の池田修町長はこのほど行われた定例会見でこう切り出し、6月1日からふるさと納税に参加すると発表した。これまで池田町長は現状のふるさと納税制度について「カタログショッピング化している」などと否定的な見解を繰り返し、加熱する‟寄付金獲得競争”からは一歩距離を置いていた。ここにきて大きく方針を転換するに至ったのはなぜなのだろうか。(難波亮太)

ふるさと納税への本格参加を表明する静岡県長泉町の池田修町長(5月28日、長泉町役場)
ふるさと納税への本格参加を表明する静岡県長泉町の池田修町長(5月28日、長泉町役場)

3年連続ワースト

 静岡県東部に位置する長泉町は、人口約4万3000人。人口減少や地方の過疎化が社会問題となる中で、町の人口は微増を続けている。最寄りのJR三島駅から新幹線で都内まで1時間以内というアクセスの良さから若い世代の移住者も多い。民間の有識者でつくる「人口戦略会議」は2024年に同町を「自立持続可能性自治体」(※編注1)と認定。これは県内唯一で、簡単に言えば「元気で勢いのある町」ということだ。
 財政面も安定していて財政の自立度を表す「財政力指数」も1983年度以降、「1」を超えている。交付税に頼らなくても自分たちでまかなえているのだ。
 地方と都市部の税収の格差是正のために始まったふるさと納税制度だが、近年は返礼品競争が激化。各自治体は返礼品の開発や中間事業者との協力体制を構築。魅力的な返礼品を提供できない自治体には寄付は集まらず、他の自治体に流出していまっている。
 長泉町には現地体験型などの返礼品はあるものの、そもそも本腰を入れていないのでその数はほんのわずか。昨年度の寄付額は約1500万円。一方、流出は22年度が約1億6000万円、23年度が約1億9000万円、24年度が約2億3000万円と年々3000万円ほど増加していて、全国の町村で3年連続ワーストだ。
 赤字の一部を地方交付税で補填する制度はあるが、同町は不交付団体のため適用されない。そのため、いざという時は住民サービスを維持するために自治体にとって貯金と言える財政調整基金を取り崩さなければならない。町では2019年からの3年間でコロナ禍関連の予算執行もあり約10億円貯金を減らしている。今後、小中学校の整備事業といった大型事業が控えていて、このまま黙って貴重な税収が流出していくのを見ていられる状況ではなくなってきているのだ。

返礼品に加わる特産の長泉メロン(長泉町提供)
返礼品に加わる特産の長泉メロン(長泉町提供)

豊かさがデメリット⁉

 町民の所得が高い、ということも流出が止まらない要因となっている。ふるさと納税は高所得者のほうが税控除の恩恵を受けやすい。町によると町民の平均課税所得は約401万円で県内断トツ1位。2位の三島市とは1割ほどの差があるという。さらに、納税義務者2万3671人に対し、ふるさと納税の利用者は4544人。利用者の割合も2位以下の自治体を5ポイントほど突き放し突出しているのだ。
 財政基盤が安定していて、人口も増えている。他の自治体からすればうらやましがられる状況が、ふるさと納税に関しては皮肉にもデメリットになっているのだ。
 池田町長は「今のふるさと納税制度はおかしいと今でも思っているし、これからも制度の是正に向けた主張は続けていく。しかし、あまりにもマイナスが大きくなっている中で、批判をしているだけではなく何か対策をしないと町民の理解も得られない。少しでも取り返したいという思いで方向転換をした。特別な組織体制を作って取り組むということではないが、今後どんどん返礼品を増やしていきたいし、寄付額も増やしたい」としている。
 特産のメロンや四ツ溝柿、あしたか牛など16品目33種類が、6月1日から返礼品として新たに加わっている。

あしたか牛(長泉町提供)
あしたか牛(長泉町提供)

※編注1

自立持続可能性自治体・・・人口の移動が一定程度続くと仮定した場合と人口移動がなかった場合のいずれのケースでも、20~30代の若年女性人口の減少率が20%未満。100年後も若年女性が5割近く残っており、持続可能性が高いと考えられる自治体。人口戦略会議は2024年に全国65自治体を自立持続可能性自治体と発表した。