【リニア】教授の立場で…静岡・難波市長がダイコン使ってボーリングの講義 「県境まで進めても水はほとんど出ない」 静岡市
静岡県 川勝平太知事(5月29日):「難波氏は理事をやめて半年以上になる。この間4回専門部会を開いている。森副知事が直接難波氏の所に行って、科学的・工学的にいまこういう形で議論をしていると説明したいと思っている」
かつての上司と部下の間に見える”すれ違い”。その背景にあるのが、JR東海が建設を進める「リニア中央新幹線」について。
難波市長「県の専門部会での説明断られた」
隣の山梨県では、静岡県側に向かって“ボーリング”が行われていて、6月3日現在で、県境から459mの地点まで進んでいます。ただ、県は「静岡県側の水が山梨県側に流れ出る」ことへの懸念から、県境300mより先からには進まないよう、JR東海に求めていました。
6日午前、会見を開いた静岡市の難波市長。5月末に森副知事と面談したことを明らかにし、そのうえで…。
静岡市 難波喬司市長(6日):「森副知事からは県の算定根拠資料と論文をいくつか渡された。市長としてというよりも、技術者魂としてと言った方がいいかもしれないが、すぐにそれを読んで、県の見解について課題があるということを改めて確認した。7日の県の専門部会で説明させてほしいと申し上げたが、県からは『それはできない』というのが回答だった」
改めて、県の“見解”に疑問を呈した形の難波市長。自身の考えを県の専門部会で説明したいと要望したものの、県からは「専門部会は県とJR東海の間で行われる」ことを理由に断られたと明かしました。
難波教授、一技術者として「見解を説明」
定例会見終了から2時間あまり。笑顔の難波市長はいつもの会見場とは違い、記者クラブに姿を見せました。よく見ると、記者会見の時とは違い、ジャケットを脱いでカジュアルな装い。それもそのはず、ここに現れた難波市長は…。
静岡市 難波喬司市長:「市長ではなく、ここでは理工科大学の客員教授、あくまで一技術者として、見解を述べたいと思う」
「ここにいるのは、市長ではない」。去年10月から静岡理工科大学の客員教授をつとめる難波氏は、一技術者として、県とJRに「物申したい」というのです。
静岡理工科大学 難波喬司客員教授:「県とJRの間の基本認識に差異があると思われるし、今後健全な科学的根拠に基づく対話が進むことが大事なので、それを願って、技術者として資料をまとめて説明させてもらう機会をもらった」
そう語った難波教授が取り出したのは、なぜか「ダイコン」。
静岡理工科大学 難波喬司客員教授:「なるべく視覚的に分かるように…」
記者:「ホンマにダイコンなんだ。ホンマにダイコンなんだ」
難波教授:「本当にダイコンですよ」
ダイコンをトンネルに見立て
色付きの水が入ったペットボトルや、穴の開いた段ボールなども登場し、まるで理科の実験。果たしてどんな説明が行われるのか? 記者たちを前に、難波博士による講義が始まりました。
今回のテーマは「工事やボーリングで湧き出る水について」。県が懸念する県境付近のトンネル湧水について、自身の見解を披露しました。早速、取り出されたのは、あのダイコン。
静岡理工科大学 難波喬司客員教授:「トンネルを上から見ると、そちらから見ても同じだが、長い長方形に見える。こちらから見ているか、この断面を見ているかで全然話が違う。きょうの話の主たるところは、(トンネルを)側面で見ているか、断面で見ているかという話。私は断面で見ている。JR東海と県は側面で見ている。そこで全然見方、議論の土俵が違うということ」
「議論は側面でなく断面で…」
そう、ダイコンはトンネルをイメージしたものだったんです。難波博士は、ボーリングによる湧水を議論するならば、県やJRが考える側面ではなく、断面のデータで行うべきだと指摘しています。
その前提として、地下水がトンネルに流れ出るメカニズムを説明しました。
静岡理工科大学 難波喬司客員教授:「トンネルの中は空気なので、水圧と土圧がかかり、岩の切れ目があると湧水が出るが、それがどういう現象になるかというと、これですね(ペットボトル取り出す)。これひっくり返します。水、ちょっと出ましたけど、ほとんど出てこない。チョロチョロチョロしか出てこない。これ、ちょっと出すぎなんですけど、どういうことかというと、水がちょっと出たが、水が出た分、上から空気と水が供給されないので、ここで圧力が下がって、下に落ちるのを引っ張って(止めて)しまう。だから出ない。ここで空気が供給されない所でこうやったって、水は出ない。だから今、山梨側をずっと掘っているときにほとんど湧水は出てないはずだが、それがこういう現象、(水は)出ない」
JR東海によると、ボーリングによる湧水量は直近1週間平均で、毎秒430mlだということです。
また、客員教授として難波博士は、トンネルにかかる水圧を竹串にたとえ、ボーリングとトンネルの穴の大きさを比較。想定される湧水の量は、大きく異なると指摘しました。
静岡理工科大学 難波喬司客員教授:「ボーリング坑の小さい断面には1本しか刺さらない。ところがこの周りの断面(トンネル)は広いからいくらでも刺さる。断面に入ってくる水の量は、ボーリング坑の面積にほぼ比例する」
ただ、ボーリングによる湧水について、県は、こんな懸念を示していました。
「県境まで進めても水はほとんど出ない」
静岡県 川勝平太知事(5月29日):「JR東海の資料に基づくと、(ボーリングで)先進坑の60%の水が出ると書いてある。それにどう対処するかいうことについて、答えてほしいと言っている」
この県の見解にも、一技術者として疑問を呈しました。
静岡理工科大学 難波喬司客員教授:「ボーリングはこのくらいの太さ、(先進坑は)ダイコンでこのくらいだが、どっちでやってもトンネルの中に入ってくる水の量は変わらないという。感覚的に何か変だと思いませんか、過大だと思う」
そう、言い切った難波博士。その上で、県が懸念を抱く背景には、トンネルを断面でなく、側面でとらえていることがあるとして、竹串を使って解説しました。
静岡理工科大学 難波喬司客員教授:「これ、水が入ると、中のボーリング坑まで入る。こっち(トンネル)も入るわけですよね、ここまで入れると。結局、これが水圧で、トンネルの口径でもボーリングの口径でも、入ってくる水の量は一緒。これにぶつぶつ刺すだけなので。だから、どの断面で受け止めているかの違いで、(水が)入ってくる量は一緒だから、(穴が)細いからと言って、側面から入ってくる水の量がそんなに変わらないというのはそういうこと」
難波博士によると、ボーリングで発生する湧水量は、トンネル(先進坑)工事のわずか0.18%。県境付近まで進めても、水はほとんど出ないと語りました。
「断層破砕帯」は慎重に進めるべき
一方で、県境付近にあるとみられる、地下水を多く含む「断層帯」については、慎重に進めるべきだと、注意を呼び掛けました。
静岡理工科大学 難波喬司客員教授:「断層破砕帯というのは、岩がぐしゃぐしゃになっていて、水と空気が混じったりしているので、結構水が通る」
では、この断層帯に穴をあけるとどうなるか、ペットボトルに穴をあけることで、再現してもらうと…。
静岡理工科大学 難波喬司客員教授:「こうなる。止めるとこうなる。空気が流れるようになっているかだけで、全然現象が違う。だから、これが問題なんですね」
その上で、改めてボーリングを止める必要はないと、持論を語りました。
静岡理工科大学 難波喬司客員教授:「どこまで掘ってもいいとか、掘ると危ないという話は、県とJRの間で話せばいいと思うが、いずれにしても起きている現象はこういうことで、恐らく県もJR東海も、今言ったような側面の議論をしているのか、断面の議論をしているのかということをちゃんと整理をしたうえで議論をしないと、問題が同じ土俵の上に立ったことにならないし、断層破砕帯が心配だったら、断層破砕帯があるところまでボーリングを進めていけばいい。断層破砕帯までボーリングが突き当たって、そこの(湧水)量がすごく多ければ、どうしようかと考えればいい」
(6月7日放送)