「やらまいか精神」を次世代に 熱くたぎる遠州男児の挑戦魂 高校生アワード10月26日開催へ
「やらまいか」とは静岡県遠州地方の方言で「やってやろう」や「やろうじゃないか」を意味する。思い立ったら即、挑む。そんな熱い気風を若い世代に渡そうと10月26日、浜松市内で「高校生やらまいかアワード」が開かれる。発起人は同市内などに居酒屋「濱松たんと」など複数の飲食店を展開するJACKカンパニーの山田拓司(51)社長だ。(難波亮太)

ないものなら作っちゃえ
「僕の浜松愛ですかね」-。アワード開催の意図を山田社長に問うと、少し照れ臭そうに笑いながらこう返って来た。その言葉の裏には“やらまいか”の実践者としての自負があった。
飲食店を営んでいた両親の姿を見て育った山田社長は、18歳で青果市場に就職。しばらく市場で働いていたが「カエルの子はカエルなんでしょうね。飲食をやりたいと思った」。26歳ごろにイタリアンのお店に転職。およそ3年修業した後に独立し「鉄板焼きダイニングたんと」をオープンした。
市場時代に築いた農家との人脈を生かし、地元の食材を使った料理を提供し、店の営業は順調だった。しかし、不調の波は来るもの。借入金の返済に加え、リーマンショックによる不景気。経営は一気に傾いた。
そこで立ち止まらないのが遠州男児だ。一からマーケティングやブランディングを学んだ。「そこではっと気が付いたんです。地元の食材を使うのももちろん大事なんですけど、うちは『浜松の誇り』を商品として売っているんだと」。
そこからは早かった。「浜松には郷土料理と呼べるものがなかったから、じゃあ作っちゃえ」。浜松の特産品を使った料理は数あれど、遠州を冠とした料理はなかったところに目をつけると、遠州の夢ポークを鉄板で一気に焼き上げた「ごろ焼き」や三方原ジャガイモの「三方原じゃがバター」など数多くの「遠州料理」を開発。鉄板焼き屋から改め、現在の「濱松たんと」に。そして鰻屋やクラフトビール事業など多角的に展開するまでに業績もV字回復した。
どんな時も原動力は浜松への愛と「やらまいか精神」だった。

世界に受け継がれる遠州のDNA
「高校生やらまいかアワード」に話を戻そう。簡単に言えば、事業でもイベントでも種別を問わず、浜松が元気になるために高校生がやってみたいことや夢を発表するステージイベントだ。地域とのつながりや、実現可能性、そしてやらまいか精神について、大学教授らが審査し、入賞するとその挑戦を後押ししていくという。
「今の高校生は世界と戦わなければいけないし、そうじゃないといけない。だから僕らのような“やってしまった”おじさんが、若い人たちに挑戦する、やってみようという場を作りたかった。若い世代がどんどんチャレンジをしていけば、浜松のポテンシャルはさらに掘り起こされ、どんどん活気づいていくと思うんです」。そして、そのDNAはいずれ世界へと広がっていくと山田社長は信じている。
トヨタの礎を築いたとされる豊田佐吉は遠州人。他にもスズキやヤマハ発動機など、多くの世界的企業の原点に「やらまいか」は脈打っている。地域の土壌から生まれた気概が、世界を動かす力へとつながっているのだ。
20年以上前に独立した時、作った名刺には「浜松を元気に」と印字した。「本当にそう思っていたかどうかは分かりませんけどね」と山田社長は冗談めかすが、その思いは今も熱くたぎっている。
やらまいか―。その合言葉が、世代を超えて走り出そうとしている。
