「ダムカード」に続け! 大手電力会社が製作した「鉄塔カード」 鉄塔の魅力とは?
ダムに行くと手に入る「ダムカード」や「マンホールカード」はすっかりおなじみの存在となりました。その影響でしょうか、現在、様々なインフラのカードが製作されています。大手電力会社が製作した「鉄塔カード」もその一つ。「ダム」や「マンホール」に比べるとあまりなじみがない「鉄塔」ですが、なぜ製作されたのでしょうか? (取材・文=三浦徹)

「鉄塔カード」は「送電鉄塔」をカードにしたものです。「送電鉄塔」は発電所から一般家庭に電気を届ける送電線を支える塔で、中部電力パワーグリット(中電PG)管内におよそ3万4000基あり、そのうち静岡県内には3500基あるということです。鉄塔にはさまざまな形状があり、「そびえ立つ姿がカッコイイ」と一部で人気です。なぜ、鉄塔カードが製作されたのでしょうか?
●中部電力パワーグリット 送変電部 中司賢一さん:
「鉄塔の魅力を通じて、電力の安定供給を担う送配電事業について、地域の皆様に興味を持っていただいて、さらにそれをリクルート支援につなげたいということで始めました。送電工事に関わる人は『ラインマン』と呼ばれていて、特殊な技術が必要とされる仕事です。100mを超える鉄塔もありますし、山のほうに行くと鉄塔と鉄塔の間に、ドローンを使って電線を張ったりすることもあります。『ラインマン』は全国でも数が減っていて、人材の確保が急務です」
鉄塔カードは東京電力パワーグリットが2019年に製作したのが最初で、現在、国内の大手電力会社9社が鉄塔カードを製作しています。

中電PGでは、2022年5月からカードを製作し、これまでは浜岡原子力館などの施設に置かれたり、イベントで来場者に配られたりしていました。そして7月からは静岡県版と愛知県版の鉄塔カードの販売を始めました。
各県とも4枚の鉄塔カードと専用ケースがセットになったものが500円で販売され、ラインマンをPRする「ラインマンネットワーク」のサイトで購入することができます。
選ばれた4枚はいずれも特徴がある鉄塔で、社内で選ばれたということです。ダムカードなどは基本的に無料ですが、なぜ鉄塔カードを有料で販売しているのでしょうか?。

●中部電力パワーグリット 送変電部 中司賢一さん:
「ダムには人が常駐していて、事務所に行ってダムカードをもらうということですが、鉄塔には常時、人がいるわけではありません。鉄塔ファンは全国にいて、中部管内のイベントに来れない人も多い。『どうすれば手に入るのか』というお問い合わせやご意見を多数いただいたので、販売しようということになりました」
ーー全国にそんなに鉄塔のファンがいるのですか?
●中部電力パワーグリット 送変電部 中司賢一さん:
「鉄塔はいろいろな形状がありまして、電力会社によって鉄塔の形状が全然違います。全国に鉄塔を見に行って、違いを楽しんでいるファンの方もいます。また、送電線は北から南までつながっているので、それをたどる旅をしている人がいたり。鉄塔とその背景を楽しむ人もいる。いろいろな楽しみ方ができます」
カードを見ると、変わった形だったり、色が塗られてたり、鉄塔にも様々な種類があることが分かります。どの鉄塔も、送電線をささえるという役割は同じはず。なぜこんなにいろいろな種類があるのでしょうか?
●中部電力パワーグリット 送変電部 中司賢一さん:
「基本的なものはありますが、鉄塔は立地している地形とか、横断する物件によって形状が変わってきます。例えば雪が降る所だと、着雪の設計をしないと、雪で電線が接触したり、鉄塔が曲がったりすることもあります。自然環境や条件によって高さや強度が異なるので、そういうものを考慮しながら、鉄塔は一つ一つ設計されています」

「鉄塔カード」はこれまで全国で26シリーズが販売されていて、すでに完売しているものも多いそうです。今回、静岡県版と愛知県版は200セットが販売されていますが、残りはわずかだということです。
ーー鉄塔カードの製作に続く新たな展開はあるのでしょうか?
●中部電力パワーグリット 送変電部 中司賢一さん:
「全国での取り組みとして、関西電力送配電などでは鉄塔をめぐるスタンプラリーなども実施しています。弊社も具体的に決まったものはありませんが、例えば鉄道会社と組んでウォークラリーを実施し、そのコースにある鉄塔をまわってもらうといったコラボができないかなと考えています。将来的には自治体などとも連携したい」
ーー鉄塔カードの効果はありましたか?
●中部電力パワーグリット 送変電部 中司賢一さん:
「2024年の新入社員にアンケートをしたところ、4分の1が『鉄塔カードやラインマンサイトで初めてこの業界のことを知った』『興味をもった』という回答でした。弊社のリクルートに一躍買っているということで、効果は徐々に出ています。カードを製作したことで何度か取材も受けました。鉄塔カードがきっかけで、発電所から家庭までの電気の流れを知ってもらい、『将来そんな仕事をやってみたい』という若者が増えればいいと思います」

鉄塔カードの裏にはQRコードがあり、読み込むと鉄塔を撮影した動画を楽しむことができます。また位置情報もあり、記者はカードを頼りに、4枚のうちの1つ、静岡市清水区の「貝島清水線No17」の鉄塔に行ってみました。

通常、鉄塔はアームが左右についていますが、こちらは片側に6本のアームが突き出ているのが特徴。ゴジラの背中のように見えることから、「ゴジラ型鉄塔」と呼ばれているそうです。

鉄塔は間近で見るとすごい迫力。鉄塔の先にうっすらと富士山も見えました。冬になればもっときれいに見えるはず。「鉄塔カード」は鉄塔の形状だけでなく、周囲の景色と一緒になって楽しむことができるのも特徴です。他の鉄塔も尋ねてみようと思いました。
中電PGでは、現在、三重県版の製作をすすめていて、岐阜県、長野県も順次製作予定だということです
