化学物質過敏症に寄り添う…製紙会社の挑戦 洗剤や香水で頭痛やめまいも 特許技術「地球釜」で薬品使わず紙づくり 出会いが変えた現場 静岡・富士市

化学物質過敏症に寄り添う取り組み

 静岡県富士市の製紙工場では、“ある症状”に悩む人たちの助けとなる紙製品が製造されている。1948年創業の老舗メーカー「新橋製紙」。業務用トイレットペーパーやペーパータオルを中心に製造し、全国に出荷している企業だ。この会社が向き合っているのが、「化学物質過敏症」だ。

「無視はできない」出会いが変えたものづくり

 製造工程で使う薬品を減らす取り組みを進める中で、社長の山﨑清貴さんは化学物質過敏症の人と出会った。漂白剤や柔軟剤、香料を減らす方向で製品づくりを見直す中で症状に苦しむ人の存在を知り、「そういう人がいると知ってしまった以上、無視はできない」と考えるようになったという。

 化学物質過敏症は、洗剤や香水などに含まれる成分に過敏に反応し、頭痛やめまい、倦怠感などさまざまな症状が現れるとされる。国内では予備軍も含め、およそ13人に1人が発症する可能性があるともいわれている。神奈川県に住む40代の女性もその一人だ。子どもの頃から症状に悩まされており、特に柔軟剤や化粧品の香りに強く反応するという。

 外に出ると周囲のにおいで体調が悪くなり、その場でしゃがみ込んでしまうこともあるといい、頭が回らなくなるほどのつらさだと語る。それでも周囲の理解を得るのは難しく、「普通の人を装って人間関係を築いている」と打ち明ける。

薬品に頼らない製造へ 特許技術「地球釜」

 新橋製紙では、こうした人たちが安心して使える紙製品づくりを続けている。原料となるのは古紙で、チラシやオフィスから出た紙を中心に、1日およそ40~50トンを再利用している。特徴的なのが、古紙を繊維に戻す工程だ。2023年に特許を取得した「地球釜」と呼ばれる装置を使い、従来のように薬品に頼るのではなく、古紙とアルカリ性電解水を使って長時間加熱することで汚れや色を浮かせる。その後は水洗いをするだけで処理が完了する仕組みだ。薬品を使えば作業は効率的になるが、あえて手間のかかる方法を選んでいる。

“あえて使わない”選択 強度よりも安心を

 紙づくりの現場では、紙を強くするための薬剤「紙力剤」が使われるのが一般的だが、新橋製紙ではこれもできる限り使用を抑えている。その結果、製造途中で紙が破れてしまうなどのロスが出ることもあるという。それでも、「薬品を使えば不良は減るが、この紙が良いと言ってくれる人のために方針は曲げられない」と話し、効率よりも安心を優先する姿勢を貫く。

梱包にも配慮 においを遮断する工夫

 取り組みは製造工程だけにとどまらない。化学物質過敏症の人向けの製品では、段ボールにラップを巻く特別な梱包を行っている。保管や配送の過程で他の荷物のにおいが移るのを防ぐためで、この対策は2025年11月から始めた。さらに、梱包作業は基本的に屋外で行う。室内で作業すると空間にこもったにおいが製品に移る可能性があるためで、細かな点にも配慮が徹底されている。

「100%ではない」それでも続ける理由

 製造過程で使う薬品と化学物質過敏症との関係は、まだ明確に解明されていない部分も多い。それでも、「少しでも安心して生活できる一助になれば」との思いから、できる限りリスクを減らす取り組みを続けている。「まだ100%とは思っていない。これからも研究を続けていきたい」と話す山﨑さん。日常的に使われる紙製品の裏側で、見えにくい苦しみに寄り添おうとする現場の試行錯誤が続いている。