「行きたい部署」に行ける? 評価の高い若手職員から希望を優先 静岡・沼津市が2027年度から新制度
沼津市では2027年度から、新たな人事制度を導入します。評価の高い職員が希望する部署に優先的に配属されるという制度ですが、なぜこの制度を導入するのでしょうか。沼津市に聞きました。(取材・文=三浦徹)
沼津市が2027年度から導入する新制度。それは、若手職員に限り、人事評価の上位者から、希望する部署に優先的に配属されるというものです。
また、新規採用の職員については、採用試験の成績が良い人から、希望する部署に優先的に配属されるという制度です。
なぜ、この制度を導入するのでしょうか。
人事異動のルールを明確に
●沼津市人事課 迫花鈴さん
「最近、学生や若手職員は、自分が入庁してからのキャリアパスが一番の関心事項となっています。自分がどこに配属されるのか、希望通りの仕事ができるのか、不安を抱えるケースが見受けられます。就職フェアなどで、学生からよく聞かれるのが、『異動はどのくらいのスパンで行われるのか』『自分の希望は通るのか』ということです。今回、配属に関するルールを明確にすることで、自分がどこの部署に配属されるのか、予見できるようになることで、不安を減らすとともに主体的に成長する風土の醸成に繋がります。」
新制度の対象になるのは、副主任級までの一般事務職員。おおむね入庁10年くらいまでの若手職員ということです。若手職員でも、技術職や保育士などは今回は対象外です。
沼津市の一般事務職員はおよそ740人いて、今回の対象となる職員は、その4割にあたるおよそ290人です。
沼津市ではこれまでも、毎年1回、職員に異動希望の調査を行っていました。これまでは第2希望まで回答していましたが、新制度の導入にあたり、回答枠を拡張。上限を設けず、いくらでも希望を書けるようになりました。
沼津市役所にはおよそ80の部署があるということで、極端に言えば、第80希望まで書けるようになったということです。
●沼津市人事課 迫花鈴さん
「これまでも本人の異動希望を考慮してはおりましたが、部署が多い中、第2希望まででは本人の意向を十分にくみ取ることが困難です。そのため、より幅広く職員の意向を拾い上げられるよう、無制限に拡充しました」
沼津市役所では、副主任級以下の若手職員は、おおむね3年ごとに異動しているということです。
新制度による人事異動は、大まかに次のような流れになるそうです。
①異動の対象となる職員をリストアップ
②人事評価の上位者から、希望する部署に配属
③ただし、ポストに空きがなければ、次の希望へ
異動は、前々年度の人事評価をもとに決められます。例えば、2027年4月の異動は、2025年度の人事評価をもとに決められます。
人事評価は「優」や「標準」といった評価区分が本人にフィードバックされますが、順位までは知らされないということです。
この制度で気になるのが、希望部署の偏りです。民間企業でもそうですが、やはり人気のある部署、そうでない部署は存在するはずです。希望が同じ部署に集中したり、誰も希望する人がいない部署ができたりしないのでしょうか。
●沼津市人事課 迫花鈴さん
「人事異動はポストの空き枠の範囲内で行うので、各部署に異動できる人数は限られます。特定の部署に希望が集中することはあっても、配属が偏るということはありません。ただ、人事評価によっては、低い希望で決まることもあります」
部署によっては、希望順位が低い人ばかりになって、モチベーションが下がるということはないのでしょうか。
●沼津市人事課 迫花鈴さん
「今回の対象は副主任級以下の若手職員です。上司となる管理職や主任級以上の職員は、今までの経験や実績をもとに適材適所で配置配属されているので、部署間において能力の偏りによって業務に支障が生じることや、部署全体のモチベーションが低くなるということはないと思います。
ただ、初めての制度なので、やはりいろんな問題が出てくると思います。例えば、上位の人が第2希望までしか書いていないのに、その部署に空きがないというケースなどが考えられます。このようなケースは多くあると思いますので、そこは運用していく上で対応を考えたいと思います」
評価の高い職員から希望する部署に優先的に配属される。あまり聞いたことがない制度ですが、導入している自治体はあるのでしょうか。
●沼津市人事課 迫花鈴さん
「職員の希望を人事異動に反映するにあたり、人事課内に留めた運用ルールを設けているところはあるかもしれませんが、このようにルールを職員にも明確にした自治体については聞いたことがありません。もしかすると沼津市が初めての試みになるのではないでしょうか」
若手のうちから自分の将来を考える
今回の制度の対象となる若手職員は、どう思っているのでしょうか。
●沼津市政策企画課 諸頭尚人さん(入庁8年目)
「そういうことができるだけでも、気持ちとして前向きになります。通る、通らないは別にして、モチベーションという面で。市役所にはいろんな仕事があるので、その中で選んでいけるルールが見える化されるのは、若手職員的にはいいと思う。私より若い職員は、自分以上にジョブローテーションの意識が強いと感じます」
Q 希望がある部署に集中しないか?
「やってみないとわかりませんが、意外と希望がばらけるのでは。入庁したばかりだと、ある部署に人気が集中することもあるかもしれません。しかし、ある程度役所の中にいると、全体が見えてきます。
今回の制度のいいところは、若手のうちに自分の業務以外に関心を持つようになること。沼津市の規模ですと、同期入庁の職員に聞いたり、アンテナを立てたりすれば、どこの部署がどんなことをやっているのか知ることは可能です。そうすると、いろんな業務を知るきっかけになって、行政にとってプラスになると思います」
Q 行きたい部署はありますか?
「私は市民と触れ合う部署と、そうではない部署の両方を経験しました。市民と触れ合うのが市役所の魅力ですが、個人的には文化系とか、教育系も行ったことがないので興味があります。将来を考えると、できるだけいろんなことを知ったほうがいい。全然違うところにも行ってみたい」
今回取材した人事課の迫さんも、入庁6年目でこの制度の対象者です。
●沼津市人事課 迫花鈴さん
「人事課の前は税金の徴収の仕事をやっていて、市民対応が多かったです。厳しい言葉をいただくこともありましたが、話を通じてお互いの理解が深まり、最終的に納得していただけた時など、市民の方と直接関わるからこそのやりがいもありました。現在の人事課の仕事では市民の方と関わる機会は少ないので、ゆくゆくは市民の方と関わる部署もまた経験したいという気持ちもあります」
「希望の部署に行ける」という今回の制度は、職員にとって歓迎されるものですが、一方で、自分のキャリアを自ら考えることも、これまで以上に求められそうです。今までは「この仕事は自分に合わない」などと言っていた人もいたかもしれません。それがこれからは、「自分で決めたこと」になります。
●沼津市人事課 迫花鈴さん
「職員が自身のキャリア選択に対してより真剣に向き合い、『自分の頑張りが希望に直結する』という意欲を引き出すことが、まさにこの制度の狙いである『主体的に成長する風土の醸成』に大きくつながります。
一般的に組織における異動とは、『組織から与えられるもの』という側面が強いものかと思いますが、今回の新制度では、配属先を自分で決めたという納得感が、業務に対する高い意欲や、困難に直面した際の粘り強さにつながると考えています」
これまでは「仕事が面白そう」「一度はやってみたい」などと希望部署を考えていた人もいたと思われます。しかし、これからは自分の将来を見据え、部署の選び方も真剣にならざるをえません。また、希望しても、今の仕事で評価を上げないとかなわないという面もあります。
若手のうちに自分の将来を考えるというのは、結構ハードルの高いミッションかもしれません。