たった1人の野球部員…創部77年の熱海高校「最後の夏」 監督と二人三脚で特別な絆 退部の葛藤も乗り越え「恩返し」胸に1勝へ 熱狂!夏の高校野球開幕
雨の開幕、夢舞台へ 静岡の高校球児たちの夏がスタート
降りしきる雨の中、夢舞台へと歩みを進める静岡の高校球児たち。第108回の夏の大会が開幕した。
昨夏の王者・聖隷クリストファーの髙部陸選手は、開幕を前に「やっと来たなという気持ち。試合が楽しみ」と心境を語り、連覇への意気込みをのぞかせる。主役に躍り出たあの夏から1年。史上7校目となる夏連覇を目指す戦いが始まった。
その一方で、各校のライバルたちが掲げる合言葉は「打倒・髙部」。目指す先にあるのは聖地・甲子園だ。
試合に出場する選手だけでなく、それぞれの立場でこの舞台に立つ球児たちの思いもある。韮山高校の牛田こころさんは、「歩けると思っていなかったが、仲間の声や足音を感じながら一緒に歩けて楽しかった」と、開会式の行進を振り返った。
開会式では富士市立高校の主将・赤平大和選手が選手宣誓。「関わってくれたすべての人への恩返しとして、魂がぶつかり合う最高に熱いドラマを届ける」と誓い、高校野球の真髄を示す決意を力強く述べた。
「最後の夏」たった1人の野球部員
そんな中、ひときわ異彩を放つ存在がいる。仲間と異なるユニフォームで大会に臨む、熱海高校3年の田口健太選手だ。
今年、創部77年を迎えた熱海高校野球部。しかし部員は田口選手ただ一人。学校としてもこの夏が“最後の大会”となる。田口選手は「最後の夏なので、1勝でも多く勝って、感謝の気持ちを持ってプレーしたい」と話す。
平日の練習は、グラウンドで一人きり。およそ2時間、黙々とメニューをこなす日々が続く。近年は部員不足により合同チームでの出場が続いていたが、去年から部員募集が停止され、熱海高校野球部としての活動はこの夏で終わりを迎える。
「続けるか迷った」それでも選んだ最後の舞台
田口選手自身も、かつては続けるか悩んだという。自分一人になる実感が湧いたのは去年。「1人だと練習も楽しくない」と感じ、先輩と一緒に終わることも考えた。
そんな背中を押したのが、16年間チームを率いてきた杉山聖監督だった。「最後までやり切って、有終の美を飾ってほしい」。その言葉に支えられ、田口選手はグラウンドに残る決意を固めた。
幼い頃から続く“野球との縁”
田口選手と熱海高校野球部の縁は深い。4人兄弟全員が同部の出身で、末っ子の田口選手も1歳の頃からグラウンドに通っていた。杉山監督はその頃から「熱海で野球をやろう」と声をかけ続けていたという。
監督にとっても特別な存在だ。「子どもみたいなもの」と語り、成長を見守ってきた。一方の田口選手は、監督を「面倒見のいい、おじいちゃん顧問」と笑顔で表現する。選手と監督、1対1で過ごしてきた濃密な時間。他のどのチームとも違う関係性が、そこにある。
仲間とともに掴む1勝へ
最後の夏は、沼津工業との合同チームで臨む。合同練習ができるのは週末のみだが、去年の秋から連携を深めてきた。
沼津工業の杉本晃暉主将は、「田口がいるだけでチームに活気が出る。プレーだけでなく人としても頼りになる存在」と信頼を寄せる。田口選手自身も「一人でやるより楽しい。チームのために活躍したい」と意欲を見せる。
77年の歴史に区切りを
熱海高校野球部、創部77年最後の夏。
杉山監督は「最後になるのは寂しいが、これまで果たせなかった3年生の夏の勝利をつかんでほしい」と願いを込める。それに応えるように、田口選手も「ここまで支えてもらった分を恩返ししたい。先輩たちの思いも背負って、有終の美を飾りたい」と力を込める。
108回目の夏。それぞれの思いを胸に、球児たちの戦いが始まった。