プロジェクト名は「日本一の国産グレープフルーツジュース作ろう」 きっかけは就労支援施設 浜松市

 弁天島の夕日にきらめく一本のジュース、その名も「夕焼けルビー」。実はこれ、ただのジュースではないんです。

画像: プロジェクト名は「日本一の国産グレープフルーツジュース作ろう」 きっかけは就労支援施設 浜松市

「浜松の新しい名産品をつくるというか」
「いい意味でグレープフルーツっぽくない」

 作っているのは素人集団。ただ、彼らは本気も本気です。

「いまこの話に乗っからなかったら一生後悔するなと思って」
「何でもよかった。彼がやるといったから私も手伝う、それだけ」

 経験もノウハウもないなか、ゼロから挑むのは、日本一のジュース作り。その挑戦に密着しました。

「日本一の国産グレープフルーツジュース作ろうプロジェクト」

 浜松市にある1軒の農家。この日、とあるグループが栽培しているグレープフルーツの見学に訪れていました。

画像: 「日本一の国産グレープフルーツジュース作ろうプロジェクト」

グレープフルーツ農家 山崎正人さん:「枝に吊っているのは虫とか病気とか、風通しが悪くなるとそういうところに虫や病気ができちゃうので」

グループ:へえー

 生産者の説明に、真剣に耳を傾けていますが、彼らは農家を目指しているわけではありません。彼らのグループ名は「どいーにはままつ」。「どいーに」とは、遠州地方の方言で「すごくいい」という意味。彼らは浜松市を中心に活動している有志のグループです。

 そんな彼らが立ち上げたのは…。

「日本一の国産グレープフルーツジュース作ろうプロジェクト」

国産グレープフルーツは0.1%以下

画像: 国産グレープフルーツは0.1%以下

 普段、スーパーなどでも良く見かけるグレープフルーツ。しかし、実はそのほとんどが外国からの輸入品だということをご存じでしょうか。グレープフルーツの流通量は、南アフリカやアメリカなど海外からの輸入品がおよそ6万2000トン。一方で国産はわずか19トンほどしかありません。国内で出回っている99%以上が外国から輸入されたものなんです。

 そんな、貴重な国産グレープフルーツの生産量日本一は、なんと浜松市。気候が温暖で日照条件も良く、グレープフルーツの栽培に適しているのです。しかし、この事実は全国的どころか浜松市民にもあまり知られていません。まさに浜松の隠れた名産品。これをもっと全国的にアピールしようと、浜松市在住の石川さんは、100%グレープフルーツジュースをつくるプロジェクトを立ち上げました。

どいーにはままつリーダー 石川大輔さん:「今年の豊作具合というか実の出来はどうかなというのを、見てもわからないが教えていただけたらと思って」

 グループのメンバーは石川さんの友人や同僚。中には30年以上の付き合いがある親友も。結束の強さは申し分ありません。ただし、このグループは…。
 
グループ:これ一個の木からどれぐらいとれるんですか?
農家:概ね150個って言われてる。
グループ:そんなにとれるんですか!へえー。
グループ:ミカンとまるで違うから吊ってあるというのが新鮮だよね。
農家:でも、ハウスミカンを施設でやる人は吊りますよ。
グループ:あ、そうなんですか! へえー。

 実は、石川さんを含めメンバー全員がこれまで農業に全く携わったこともない、ただの素人。本業は、バイクメーカーや住宅関連などで、食品会社の社員すら一人もいません。

 ゼロから手探り状態で始まった、日本一のジュースづくり。生産者である山崎さんは…。

Q.プロジェクトを最初聞いた時はどんな心境だった?
グレープフルーツ農家 山崎正人さん:「そうですね。面白いこと始めたなと」
石川さん:正直何者だ?って思いませんでした?
山崎さん:「まあ、いろんな話はくるよなとは思っていたが、ただ、いかんせんまだ栽培量がまだ少ないので、どこまでできるかというのもあるし、ただ私ら(農家)としては知名度が上がるというか、そういうものの宣伝の一環としてやってもらえるのはありがたいと思う」

高級感のあるお土産のお茶をイメージ

 ただ、彼らは、生半可な気持ちでプロジェクトを立ち上げたわけではありません。彼らが次に始めたのは…。

どいーにはままつ リーダー 石川大輔さん:「一応こんな感じになるというイメージ。これはただ僕がA4コピー用紙に印刷して貼っただけだが。まだシール自体は出来上がっていないので、イメージだが、(去年)5月に作った試作品を瓶詰めして、もう半年以上時間が立っているので、今回せっかく皆が集まったので味とか色がどういう風に変わっているか確認しようと思って」

画像1: 高級感のあるお土産のお茶をイメージ

 以前作った試作品の試飲会。まるで会社で行う商品開発の会議のように真剣に吟味していました。

どいーにはままつ 松下昌弘さん:「いいのよ。いいんだけどいい意味でグレープフルーツっぽくない」

石川さん:若干グレープフルーツ感薄れた?

松下さん:お砂糖が入っているグレープフルーツジュースと変わらないぐらい甘いと思う、だからすごく飲みやすい。

どいーにはままつ 石川仁美さん:「よく言えばグレープフルーツが好きじゃない人はこっちのほうが飲みやすい。(自分は)そんなに好きじゃないからこっちの方が飲みやすい」

どいーにはままつ 鈴木大介さん:「確かに苦みとか雑味が減ってきたというのは、そういうことなのかもしれない」

 さらに試飲会の後には…。

どいーにはままつリーダー 石川大輔さん:「イメージは、この間見せていただいた桐箱の少し高級感のあるお土産のお茶をイメージしているんですけど…」

 実はグレープフルーツ1トンでジュースを作った場合、皮の部分が300kgほど廃棄される部分として出てしまいます。それをフレーバーティーやお茶菓子として活用しようと、製茶メーカーと商品開発を行っているんです。

画像2: 高級感のあるお土産のお茶をイメージ

 さらにこの日は、実際にグレープフルーツを出荷している農協へと出向き、自分たちの活動をアピールします。

プロジェクトのきっかけは就労支援施設

 様々な思いを乗せながら動く、日本一のグレープフルーツジュースづくり。実はこのプロジェクトの背景には、石川さんのこんな思いがありました。

どいーにはままつリーダー 石川大輔さん:「皆が自分の目的をもってやっているが、それこそ僕はもとのきっかけは、就労支援施設に仕事を出したいというところからスタートしている」

 石川さんがジュース作りを始めたきっかけ。それは浜松市にあるジュース工場、「Kurumix」(クルミックス)との出会いでした。

 この施設は障がい者の就労支援を行う施設で、主に地元でとれるミカンのジュースを製造しています。ただ、収穫時期である冬を過ぎると、仕事は一気に激減。そうした現状を、仕事を通して知った石川さんは、「ならば、自分たちが別の果実を使ってジュース作りを依頼しよう」と考えたのです。

画像: プロジェクトのきっかけは就労支援施設

プロジェクトを受けた施設側は…。

Kurumix 伊東加織さん:「その発想力というかそういうところに驚きはあった。それからその時の石川さんの気持ちですね。何かできることはないだろうかと、そのようなことをご自身の時間を力を費やしていろいろ考えてくださった、やっぱりそういうところがすごく本当にうれしかった」

SNSアピール用の写真は夕日きらめく弁天島で…

 そんな石川さんがこの日最後に向かったのは…。

どいーにはままつ リーダー 石川大輔さん
どうかな、夕焼け撮れるかなあ。

 真っ赤な夕日がきらめく浜松・弁天島。その手には試作品の「夕焼けルビー」が握られています。

Q.ここには何しに来た?

どいーにはままつリーダー 石川大輔さん:「商品名が「夕焼けルビー」なので夕焼けと一緒に写真を撮りたいなと」

 商品名にちなんだ写真を撮影して、SNSでアピールする作戦。こうして楽しみながら進められるのも素人集団の強みの一つなのかもしれません。

画像: SNSアピール用の写真は夕日きらめく弁天島で…

石川さん:「こんな感じ。ちょうど陽が隠れちゃって照明がないと暗くなっちゃう。難しいですね…」

 残念ながら狙い通りの写真は撮れず。しかし石川さんたちは、自分たちの活動に大きな手ごたえを感じています。

石川さん:「本当にこれを始めてからいろんな人と知り合うことができたし、いろんな人に支えていただいたので、これからも人との出会いを大事にしつつ、なるべくたくさんの人を巻き込んで進めていきたいと思う。夕焼けルビーが日本一の国産グレープジュースというのをとれればいいかなと思う」

 完成品の発売予定は今年の6月。果たして、浜松の新たな名産となれるのか。心配な部分もありますが、石川さんたちの日本一への挑戦はこれからも続きます。