1979年からJR静岡駅のお土産の定番に…「谷岡の甘栗」42年間の営業に幕 最後の1日に密着 静岡市
静岡市の玄関口、JR静岡駅。その構内にある…「谷岡商店」。
谷岡郁子さん、83歳。29歳の時、夫の満州男さんとともに谷岡商店を創業。1979年からは静岡駅で、こだわりの焼きたて「天津甘栗」を販売してきました。
静岡駅定番のお土産
最盛期には、1日に400キロの栗が売り切れるほど、「定番のお土産」として愛されてきました。 しかし、コロナ禍で売り上げは大幅に減少。この1年、東海道新幹線の利用者が前年より7割少ない状況が続く中、駅の利用者そのものが減る中で閉店を決断。3月15日、42年間続いた店は、最後の営業日を迎えました。
多くのファンに愛された「谷岡の甘栗」の閉店は、SNS上でも大きな反響を呼びました。42年間、店頭に立ってきた谷岡さんにとっても最後の一日です。
谷岡さん:「きょう一日、同じようにいいものを届けようと。この仕事を一生懸命、心を込めて、みなさんに提供したい」
開店前から行列
午前8時20分 中野結香アナウンサー:「静岡駅の谷岡商店前には、別れを惜しむ多くの客が続々と集まってきています」
午前9時の開店を前に、店の前にはすでに行列が…
購入客:「静岡のシンボルなので非常に残念。静岡駅と言えば谷岡商店みたいな感じだった」
購入客:「谷岡の甘栗はずっとここまで来たので、寂しい。みんなに愛されていたとすごく感じた」
そして、午前9時。最初に甘栗を購入したこちらの女性は…。
最初の購入者:「母が最後にどうしても食べたいと言うので、少しでも早く行って並んでみようかなと」
物心ついたときから食べてきたという甘栗のために、朝6時半から並んでいたといいます。こみ上げる寂しさとともに、最後の甘栗を一口。
最初の購入者:「うん。温かくてしっとり。いつも通りおいしい。(谷岡の甘栗は)本当に何も特別なものでは無くて、普通にスーパーからお菓子を買ってくるような感じで、当たり前のようなものだった。でも、きょうだけは特別においしくいただきます」
静岡駅で買えて当たり前だった「谷岡の甘栗」。それが42年間続いた日常でした。
最後の日…遠方からも多くの客が
午後0時 甘栗を求める行列は絶え間なくー 昼頃にはすでに待ち時間が2時間以上に。その頃、並んでいたこちらの夫婦。車で片道2時間かけて、伊豆の国市からやって来ました。待ち時間も合わせて4時間以上、ようやく購入です。
伊豆の国市からの客:「皮付きの栗って、今もうどこにも売っていなくて、ここだったら必ず買えるというのがあったので。(谷岡の甘栗は)おいしさが全く違う。ほくほくしていて。むき栗はむき栗でおいしいが、やっぱりそういうのには敵わない」
こちらの夫婦は、牧之原市から。
牧之原市からの客:「小さいときに食べ慣れた味で、もう食べられないと思うと、最後に食べておきたいと思って来ました。思い出はあるけど、そういうのが無くなって寂しい」
最後の甘栗は、母と娘、親子3代そろって昔話をしながら食べたそうです。
「同志」から花束も…
ランチタイムを過ぎたころ、花束を抱えた男性が。
男性:「お疲れさまでした。長い間。本当にお疲れ様でした」
谷岡さん:「遠慮なくいただきます。
男性は、同じ駅ビル・パルシェに店を出している、いわば同志でした。
田丸屋本店 望月啓行社長:「本当に長い間、谷岡さんとは仲良くさせていただいて、ずっと一緒に商売もしている仲なので、お辞めになるのは本当に残念。長い間ずっと(店に)立たれていたので、お疲れ様と言いたい」
列に並ぶ寺尾さんも、パルシェで働いています。15年間、通勤の傍らにはいつも谷岡商店がありました。
パルシェで働く寺尾さん :「毎日ここでお母さん(谷岡さん)に会えたから、最後だと思って。私のお店にも買い物に来ていただいたりして、かわいがっていただいたので、寂しくなりますね」
多くの人に愛される谷岡さんの温かな人柄。それこそが谷岡商店の大きな魅力でした。
お客さんにも多くの思い出が…
午後6時 仕事帰りのサラリーマンが行き交う時間になったころ、行列に並ぶ親子が。
村田さん(焼津市) 40代:「小さいときからずっと見てきました。長く長く」
焼津市から娘と甘栗を買いに来たという村田さん。谷岡の甘栗は、数年前に亡くなった両親との思い出の味でした。
村田さん:「親に栗をむいてもらって食べていて、もう何個も何個も食べさせてもらってという感じで」
「おじいちゃんおばあちゃんに最後だから是非食べてとお供えをしようと思う」
行列が途絶えない中、目に涙を浮かべている女性も。
いづみさん30代:「小さいころは親が買ってきてくれて」
甘栗が大好きで、よく買ってきたという父は、すでに他界。買ってくるのは、いつも決まって中サイズを一袋でした。
Q.思い出の店の閉店は、つらくない?
いづみさん30代:「若干はあるかもしれない。やはりお父さんが好きだった栗がもう食べられないのかな、と思うと、それは寂しい」
いつもの中サイズ一袋に、この日は大サイズも購入。最後の甘栗は、家族みんなで味わいました。
いづみさん30代:「父との昔の思い出が脳裏に浮かぶというのはある。本当に寂しい。寂しい。まだどこかでやってくれないかなと願うばかりですね」
谷岡商店の42年間。その月日が、お客一人一人の思い出を紡いできました。
創業当時からの相棒の「シャベル」ともお別れ
午後7時 閉店まであと1時間。傷がついて売り物にならない甘栗をお客に配る谷岡さんの姿が。
谷岡さん:「おばさん幸せものだな。3月15日まで、だんだん人が減ってしまって、栗が残っちゃうのかなと心配しましたけど、毎日来たら長蛇の列で、本当にうれしいな」
状態のいい栗を届けたい。その一心で、毎日やってきた栗の選別。その栗を42年間、シャベルで計り続けてきました。
谷岡さん:「長年やっているので、何グラムがどのくらいというのが、感覚で覚えているから」
創業当時から使ってきた、相棒のシャベルともお別れです。
谷岡さん:「シャベルとはいろんな思い出がいっぱい。記念に取っておきます。ご苦労さん。ともに歩んでくれてありがとうと伝えたい」
営業終了…今後も明るく生きる
そして…午後8時。 子ども:「お疲れ様でした。おいしい甘栗どうもありがとう」
用意した栗は完売。甘栗一筋、42年間走り続けてきた店の歴史に幕をおろす瞬間が―
谷岡さん:「無事終了できて、あとは片づけに入ります。ありがとう。みなさんほんとうにありがとうございました」
営業を終えたばかりの谷岡さんに伺いました。
谷岡さん:「最後の日でこんなに大勢来てくれて本当にうれしかった。感謝です。栗さんも、とってもきょうは喜んでいた。やっと世に出られたよって。自分で決めて、ここまでということでやっていたので、今度は新しく、また自分が明るく、明るく生きなきゃと思っています」
(3月16日放送)