「町がゴーストタウンみたいに…」コロナ禍で奮闘する修善寺温泉街の弁当店 「ただものではない」オンライン販売で危機脱出へ 静岡・伊豆市
新型コロナの感染拡大で苦境に立たされている観光地。歴史ある静岡県伊豆市の温泉街・修善寺もそのひとつです。コロナ禍の修善寺のいま、そして地元で奮闘する家族を取材しました。
伊豆最古の温泉街といわれる修善寺。歴史情緒あふれる街並みは伊豆の小京都とも呼ばれ、県内屈指の観光地として人気です。
この町に、コロナ禍で懸命に営業を続ける店があります。伊豆箱根鉄道修善寺駅の改札を出てすぐのところにある「舞寿し」(まいずし)。
お客さんのお目当ては…。
常連客(地元客):「あじ寿司買ってきました。妹の分も。妹が大好きなので、よく僕が買いにきます」
「地元を楽しんで」と開発した店の名物「武士のあじ寿司」
箱にぎっしり詰まっているのは、伊豆近海で獲れたアジ。口に入れた瞬間に香る伊豆産の桜葉漬けとワサビが脂ののったアジのおいしさを引き立てます。
作っているのは、店の3代目 武士東勢(たけし・とうせい)さん。妻の尚美さん、そして、母・ひさ子さんと3人で、30年ほど前にこのあじ寿司を開発しました。
武士尚美さん:「旅に来た人たちに買ってもらうのが駅弁じゃないかなと思うので、やっぱり地元のものを楽しんでいただく駅弁にしたいなっていうのがありますね」
武士東勢さん:「いつ行っても同じような味を提供している。それをやりたいんですよね」
修善寺の宿泊客は3年前の6割以下…店の売り上げは8割減
しかし…
武士ひさ子さん:「(年末年始で)お客さんもだいぶ増えたんですけど、ここ4、5日ぱたっとダメだね。ひどい。」
修善寺の宿泊客数は、コロナ禍前の2019年度と比較すると58.6%。減少が著しい地域です。
伊豆市観光協会修善寺支部事務局長 小暮力睦さん:「コロナの感染者数が増えると、旅行を控える方もいると思うので、その分はやはりいま減っているのかなと思う。お店も一生懸命営業している中で、観光客の方に来ていただきたい。みんなが感染防止を徹底してお客様を迎え入れて、安全にお帰りいただくっていうのが、我々が対応していくことかなって思います」
舞寿しは、家族経営の小さなお店。コロナが経営に与えるダメージは大きいといいます。
Q.お客さんがいない時もあった?
東勢さん:「ありました。一番ひどかったのは、おととしの第一波の時だったんですけど、もうお客さんもいないし町が本当にゴーストタウンみたいで。どうしようかなって思いましたね」
売り上げは8割減り、営業しても採算が取れない日が続くことも。それでも東勢さんは、行政から休業要請があった期間以外は店を開け続けました。
東勢さん:「(お店を)閉めてしまっていれば、お店の人が何をやっているか分からない、周りから見ると。でも開けていて来た人に対応するとか、その間対応しながら仕込みをするとか、他の準備をするとか、やること探せばいろいろ出てくると思う。その時(休業中)に動き続けてきたっていうのは良かったかなって思います」
地元に帰ってきた息子
コロナ禍でも前を向く東勢さん。そこに追い風となったのが…。
東勢さんの息子の勢(ちから)さんです。苦境に立つ店を手伝うため去年4月、関西で勤めていたコンサルティング営業の仕事を辞めて実家に戻ってきました。
勢さん:「家族が困っていれば、助けるのが当たり前じゃないですけど、筋なんじゃないかなっていうところで、いろいろ迷ったんですけど戻るという決断をしました」
Q.戸惑いはなかった?
A.「ものすごく戸惑いました。やっぱり朝が早いし、働く内容とかが今までとはまったく違うことだったので、慣れるまでが相当大変でしたね。」
家族の一大プロジェクト「武士のおうち駅弁」
勢さんが加わり、家族でコロナの危機を乗り切るため、一大プロジェクトが動きはじめます。それが「武士のおうち駅弁」。
東勢さん:「『武士のおうち駅弁』っていうのは、おうちで駅弁を再現していただこうということで」
「おうち駅弁」は、自慢のあじ寿司をオンラインで注文できるサービスのこと。しかし!ただのオンライン販売でないんです。
お店の味をおうちで完全再現できるよう、伊豆産のワサビやお米、さらにお弁当の箱までセットに! メインのアジは、ピンセットで一本一本丁寧に小骨を抜き、新鮮なアジの風味をそのまま閉じ込めました。
東勢さん:「機械で抜ければ一番いいんですけど、やっぱりちょっと手作業でしかできない。お客さんが骨が残ってたりすると嫌だと思うので、食べやすいように骨を抜いています」
サイトの立ち上げや梱包資材の手配など準備には半年ほどかかりましたが、駅弁ならではの旅気分を味わってもらえるような工夫がつまっています。若い勢さんが加わったことで、店頭での販売だけでなく、オンラインにも力をいれることができるようになりました。
お店に来られないお客さんにも、家族の思いは届いています。
リピーターも多く、全国各地から注文が! 今ではお店の売り上げのおよそ2割を担うほどに成長しました。
東勢さん:「常に危機意識はありますけど、じゃあこのままいけるのか、次の休業要請があった時にどうするのか、やり方がひとつ増えたことでいろんな可能性を秘めていると思っていますので、息子が帰ってきたことでそれを生かしていろんなことにつなげていってくれればなっていうふうに願っています」
店を守るため、家族で挑戦の日々が続きます。
「一人じゃ何もできないけれど、家族でみんなで力を合わせていけば何とかなるかなって思います」
「もう笑って乗り越えるしかないです。前向きにやれることをやっていこうと思います」
コロナ禍の観光地・修善寺。ここには、家族の絆で受け継ぐ“あじ”がありました。