静岡・富士市が中学校の部活動を見直し 背景は「教員の長時間労働」だけじゃなかった!

 静岡県富士市は2022年に示された国のガイドラインを受け、中学校の部活動について見直しをすすめています。その中で、特に今までと変わる部分が「休日の部活動」の地域との連携です。(取材、文=三浦徹)

「ヤー」「トー」「メン」 
 体育館に響く、掛け声。富士市の富士川第一小学校の体育館で行われていたのは、中学生の剣道の練習。一見、放課後の部活動のようですが、これは富士市が進めている、部活動の地域連携・地域移行に向けた検証の一環です。

 富士市教育委員会は2022年12月に国が示したガイドラインに基づき、2024年から、部活動の地域との連携について協議してきました。

 その背景にあるのが、全国的に問題になっている教員の長時間労働です。2022年度に文部科学省が公表した「教員勤務実態調査」では、「前回の調査より在校等時間は減少したものの、依然として長時間勤務の教師が多い状況」としています。

 放課後や休日に行われる部活動は教員の長時間労働の一因となっています。

富士市
富士市

背景には「少子化」が…

●富士市教育委員会 教育総務課 吉村直也さん:
「今は平日ほとんどの学校は月曜日と水曜日は部活が無し。火木金の午後4時半まで部活動をやっていますが、授業が6時間の日は、部活が実質できるのは30分くらい。なので主に土曜日の活動がメインになっています。部活動は現在は土曜日も教員が担当していますが、そこで教員の負担が大きくなっています」

Q土日は部活も休めばいいのでは?
「子どもたちが楽しみにしている活動の1つなので、なかなかそうもいきません。土日に部活がないと、試合ができないとか、なんのために平日一生懸命やっているのかということになりかねません。土日を単純に部活なしにするのは難しい」

 富士市が部活動でイメージしているのが、平日は今まで通り学校で活動を行い、休日は地域や外部の専門の指導者が生徒を指導するというものです。

 その背景には、教師の負担の問題だけでなく、「少子化」が大きくかかわっています。

 少子化の影響で、競技によっては部員が集まらず、1つの中学校が単独では大会に出れないケースもあるそうです。

 富士市でも15の中学校のうち、野球部が単独の学校として今年の大会に出たのは5校のみで、あとは合同チームでの参加でした。

 競技をしたくてもその部活が学校にないというケースも。富士市でも剣道部がない学校もあるということです。競技をしたいという生徒の声に応えるためには学校を越えた枠組みが求められています。

 また、学校に部活があっても、十分な指導が受けられないといった声も…。

●富士市教育委員会 教育総務課 吉村直也さん:
「子どもの数が減れば、当然、教員の数も減ります。教員の数が減るということは、指導できる教員がそこの学校にいないという可能性も考えられます。学校の教員がその競技に長けているわけではないこともあるので、そこで地域の専門家に指導してもらうのは生徒たちにとってプラスになります」

 富士市剣道連盟が講師を務める「剣道」の特別講座には、受講を希望した、富士市内の8つの中学校の42人の生徒が参加しました。

 今回の市の試みについて、部活動を託される側はどう考えているのでしょうか?

●富士市剣道連盟 遠藤正人事務局長:
「剣道は中学校で始める人が多い競技です。それが中学校で部活がなくなるとか、部員が減ると、競技人口の減少が心配されます。この活動によって競技人口の増加が期待できると思います」

Q市から任されることについては?
「いままで稽古場所などとして、市に学校施設の開放をお願いしても、ハードルが高かった。市と連携することにより、そのハードルが下がるので連盟にとっては歓迎すべきことです」

 一方、講習に参加した生徒は…

●中学1年(男子):
「学校の剣道部員は16人です。もっと強くなりたいので、学校の部活では物足りない。今回はいい経験になったので来てよかった」

●中学2年(男子):
「部員は7人です。練習はいつも同じメンバーなので、相手の動きがわかってしまう。今回初めての人とけいこができたので、動きの予想がつかず、とても勉強になった」

●中学2年(女子):
「部員は私1人だけです。いつも先生と2人で練習しています。きょうは大勢の人と練習できて楽しかったです。また参加したい」

42人が参加
42人が参加

2026年度には地域移行の実現を

 富士市は剣道のほかにも、スポーツ競技のモデル事業として野球とハンドボールを選びました。このうちハンドボールはほかの競技と違う狙いがあるといいます。

●富士市教育委員会 教育総務課 吉村直也さん:
「市内の中学校にハンドボール部はありません。ないからこそ新しい活動として、子供たちに門戸を広げる。そういう意味で野球や剣道とは違ったモデル事業となっています。今回の3種目を他種目にも広げていきたい」

 富士市ではスポーツだけでなく、吹奏楽など文化芸術活動についても、部活動の実証を行っています。

 富士市は2026年度には、できる競技から、部活動の地域連携、地域移行を実現させたいとしています。

富士市教育委員会 吉村直也さん
富士市教育委員会 吉村直也さん