SKE48が夏祭りでライブ コロナからの復活を目指す焼津市の戦略とは?
6年ぶりのミニライブ開催
毎年大勢の市民が参加する静岡県焼津市の夏祭り。23回目となる今回は地元ゆかりのアイドルグループが会場をもりあげました。そこにはコロナ禍で観光客が減少した焼津市の戦略がありました。(取材、文=三浦徹)
焼津市で毎年行われる「踊夏祭(おどらっかさい)」は踊りをテーマにした市民参加型の夏祭りです。23回目となる今回は42グループ、およそ600人が参加しました。そしてこの祭りのステージのトリを務めるのが…
名古屋市を拠点とするアイドルグループ・SKE48です。地元出身のメンバー・青木詩織さん(ニックネームは「おしりん」)が「やいづ親善大使」を務める縁で実現しました。SKE48がミニライブを行うのは2018年以来6年ぶり2回目です。
観光客がコロナ前に戻らない!
前回(2018年)は青木さんを含め、キャプテン斉藤真木子さんら、メンバー8人が焼津を訪れ、7曲を披露。祭りをもりあげました。この年の来場者は前の年と比べて3000人増えたということです。
あれから6年…。なぜまた彼女たちはステージにもどってきたのでしょうか?
●焼津市 石原隆弘 市長戦略監:
「前回、6年前にライブをすることができて、多くのファンの方に喜んでいただきました。できればそういう機会を継続して作りたいと思っていましたが、コロナになってしまって、そういう機会をつくることができなかった」
他の観光地と同じく焼津市の観光も新型コロナで大きな打撃を受けました。2017年度の焼津市の観光交流客数はおよそ400万人、宿泊者数はおよそ44万人でした。その後、数字は上向いているものの、2023年度の観光交流客数はおよそ310万人、宿泊客はおよそ35万人にとどまり、コロナ前に戻っていない状態です。
●焼津市 石原隆弘 市長戦略監:
「コロナで落ち込んだ観光需要もコロナ前にもどってはいないので、このライブを通じて観光交流客数がコロナ前に戻ることを期待しています」
踊夏祭もコロナの影響で2020年が中止に。その後復活したもの来場者は一番多い時の4分の1程度にとどまっています。前回までは午後5時で終了した祭りが、今年は午後8時まで行われることもあり、前回より多くの人が訪れることが期待されています。
●中野弘道焼津市長:
「まだまだコロナ前には気持ち的にみなさんなっていないという気がします。この踊夏祭で、ガラッと雰囲気がかわる分岐点となることを期待して、みんなで頑張っています」
今回は引っ張る立場に
前回のライブから6年がたち、SKE48のメンバーも入れ替わりました。今回参加の8人のうち前回も参加したのは青木さんのみで、今回は最年長です。
●青木詩織さん(チームKⅡ):
Q6年ぶりのライブですが
「6年前のライブは反響がすごくて、毎年のように『今年はやらないの』とみんなに言われていました。でもコロナ禍で焼津市さんとお仕事する機会も減りましたし、このままアイドルを終えてしまうのじゃないか? そんな風に不安を覚えた時もありました。コロナも無事乗り越え、ライブの話も来てめちゃくちゃうれしいです」
Qどんなライブにしたい
「いろいろな所からきてくださる方が多いので、焼津はいいなって思ってもらいたいし、これから何年もSKEを見たい、呼んでほしいと思われたらいい。全力でパフォーマンスしてみんなを楽しませたい」
Q6年前と変わったことは
「チームの副リーダーになりました。また先輩方が卒業されて、前回は一番後輩だったのかな。けれど今回は一番先輩になりました。今回来たのはみんな後輩ですが焼津を楽しみしてくれるのがうれしい」
前回から6年がたって、青木さんにとっては悲しいできごともありました。祖父が4月に89歳でなくなったのです。祖父は6年前のライブの時も会場を訪れ、祖母とともに詩織さんに声援を送っていました。
●青木詩織さん:
「ライブを見せたかったなというのはあります。焼津でイベントがあると、祖父母が現地に必ずきてくれてうれしかった。いないのはさびしいですが、祖母が写真をもってくるといっていたので、祖父に届くように歌って踊れたらと思います」
おいしいお魚を食べたい
今回ライブに参加する8人のうち初めて焼津市を訪れるメンバーも…。
●荒井優希さん(チームKⅡ)
「焼津は今回がはじめてです。おしりんさんの地元ということで、生誕祭(※)の時には、焼津市の方からトマトやかつおサブレとかを差し入れしていただいたので、おいしいものがたくさんある町というイメージがあります。今回はおいしい魚を食べたいと思っています」
●伊藤実希さん(チームKⅡ)
「焼津ははじめてです。きょうも焼津市のたくさんの人たちが笑顔で出迎えてくださって、愛を感じました。歌って踊ることが大好きなので、初めて来たこの焼津市で、来てくださった皆さんと一体となって、お祭りをもりあげてSKEのこともたくさんのかたに知っていただきたいと思います」
(※生誕祭 それぞれのメンバーの誕生日を祝う公演)
焼津市に何度も来ているファンも
ライブの開始時間が近づくと、会場の大井川港には大勢のファンがあつまりました。
●来場者(男性 東京都 45歳)
「今回のライブのために焼津に来ました。あした、焼津さかなセンターに時間があれば行きたい。青木さんが焼津のいいところを発信しているので、SKEファンの人も、そのままここに来るんじゃなくて、青木さんがおすすめしてるお店でお昼とか魚とか食べてからここに来た人も多かった。経済効果も大きいと思う」
6年前のライブに参加した人も…。
●来場者(男性 愛知県 50代)
「青木さんの応援に来ました。6年前も来ています。コロナも明けて、久しぶりなので、きょうは前回より盛り上げていこうかなと思っている。焼津は何回か来ています。青木さんが来るタイミングでも来ていますし、来ていないタイミングでもきています。(笑)」
●来場者(男性 大阪府 20代)
「青木さん推しです。6年前も来ていました。6年前は盛り上がったので、今日も期待しています。青木さんも最年長。昔は引っ張ってもらっていましたが、今は引っ張る側になってるのでそういう姿を見たい、リーダーシップを見たい」
●来場者(女性 焼津市 20代)
「6年前も来ていました。こういう時じゃないと青木さんと会えないので。地元としてはすごくうれしい。地元の誇り。今回初めて来るメンバーがほとんどなので、そのメンバーの良さが生かされるライブになればいい」
歌声が祖父に届くように
午後6時を過ぎ、あたりが暗くなると、会場は色とりどりのペンライトをもった大勢のファンで埋め尽くされました。客席には祖父の遺影を持った青木詩織さんの祖母の姿もありました。
ライブで8人のメンバーが躍動
●青木詩織さん:「踊夏祭いくぞ~」
円陣で青木さんの掛け声を合図に舞台にとびだしたメンバー。午後6時40分ライブがスタートしました。
1曲目は「奇跡の流星群」、センターは青木さんです。このあともメンバーたちは「パレオはエメラルド」など8曲を披露。途中メンバーの自己紹介やトークもあり、踊夏祭を盛り上げます。
最後はメンバーが会場の観客たちをバックに記念撮影、およそ40分のライブが終了しました。この日会場を訪れたのは2万人。前年の8000人と比べ倍以上の人が踊夏祭を訪れました。
ふるさと納税でもコラボ
前回のライブはアイドルと自治体のコラボの先駆けといわれましたが、焼津市の手法をまねる自治体も出てきました。静岡県は富士山静岡空港・開港15周年のPR大使に「ももいろクローバーZ」の百田夏菜子さん(浜松市出身)を起用しました。
焼津市のコラボはライブだけではありません。全国でも有数のふるさと納税額を誇る焼津市ですが、青木詩織さんはふるさと納税のマスコットキャラクターとしても起用されています。焼津市では2023年度、ふるさと納税の寄付金額が過去最高の106億8000万円に達しました。
●焼津市 石原隆弘市長戦略監:
「焼津市は青木さんが親善大使ということもあって、アイドルとコラボした町おこしをずっと考えてやってきました。ふるさと納税のプロモーションでも協力していただいたこともありますので、一つのアイドルと自治体のコラボの集大成として今回のライブがあると思います」
どの自治体でもできるわけではありませんが、地元にゆかりのある人を自治体の貴重な財産として活用し、成功させた焼津市は、町おこしの一つのモデルケースといえるでしょう。