人口5600人の町に日本最大のクルーズ船がやってくる! 町の人口の4分の1に相当する人数が静岡・松崎町に

静岡県松崎町は、伊豆半島西部の人口5583人(2025年5月末現在)の小さな港町です。8月、この町に日本最大のクルーズ船が寄港します。寄港を前に準備に追われる松崎町を取材しました。(取材・文=三浦徹)

8月2日、松崎町にやってくるのは郵船クルーズが所有する「飛鳥Ⅱ」です。「飛鳥Ⅱ」は全長241m、総トン数50444トンの日本最大のクルーズ船です。乗客数は872人、乗組員数はおよそ490人で、松崎町の人口のおよそ4分の1に相当する人数が1日で町を訪れることになります。

「飛鳥Ⅱ」 写真提供:郵船クルーズ株式会社
「飛鳥Ⅱ」 写真提供:郵船クルーズ株式会社

なぜ松崎町を寄港地に選んだのでしょうか?

●郵船クルーズ 運航部 吉田悟部長:
「今回のクルーズのテーマは『サマークルーズ』です。夏休みの時期に、お孫さんも含めた親子三代の夏休みの思い出として、お楽しみいただけるように企画しました。以前も同様の企画を実施していて、その時は行き先が東京の離島で、離島のきれいな砂浜でビーチアクティビティを楽しんでいただきました。今回それを別のところでもやってみたいという思いがありました。そう考えると、横浜から2泊3日で行くことができて、かつビーチもあってきれいな海もある、そういったことから松崎を選びました」

今回のクルーズは8月1日午後5時に横浜港を出港して、翌朝に松崎町に到着。松崎町を2日の午後5時に出港して、翌朝に横浜港に着くという2泊3日のクルーズです。

郵船クルーズ 運航部 吉田悟部長
郵船クルーズ 運航部 吉田悟部長

飛鳥Ⅱの寄港で気になるのが松崎港のスペック。松崎港の岸壁は200m弱。全長241mの飛鳥Ⅱは接岸できません。どうするのでしょうか?

●郵船クルーズ 運航部 吉田悟部長:
「港に船をつけられないので、飛鳥Ⅱを松崎港の沖合にとめます。そこから本船に搭載している上陸用のテンダーボートに乗り移って、お客様に上陸してもらいます。この方式は最近では増えています。ボートに乗り換えて上陸するというのも、なかなかできない体験だと喜んでいただける方もいらっしゃいます」

ボートは70人乗り。2~3台稼働するということですが、飛鳥Ⅱには700人を超える乗客がいるので、早く上陸しようとする人で、ボートはかなり混み合うということです。

飛鳥Ⅱは松崎港に接岸できない
飛鳥Ⅱは松崎港に接岸できない

今回の寄港を喜んでいるのが松崎町の深澤準弥町長。深澤さんは町長になる前は松崎町の職員で、企画観光課長としてクルーズ船の誘致に力を入れていたということです。誘致活動がみのり、飛鳥Ⅱは2020年に寄港することになっていました。しかし新型コロナの影響で中止になったという経緯があります。

●松崎町 深澤準弥町長:
「やっと念願がかないました。2020年の中止は仕方ないと思っていましたが、コロナの後を考えて、また再度という話もしてたところに今回の話をいただきました。静岡県の働きかけも大きかったと思います」

ーー飛鳥Ⅱの寄港に期待することは

●松崎町 深澤準弥町長:
「天気がいいと冬には清水港が見えるんですが、そこに停まっている船を見て皆で『大きな船だね』と言っていました。今回その規模の船が松崎にやってきます。今までもそんなに大きな船が松崎に停泊したことはないので、みなさん驚くと思います。1日限りの停泊ですが、波及効果を期待しています。松崎を知ってもらうという宣伝効果があると思います。今回の寄港を、今度はいろんな客船の誘致につなげていきたい」

松崎町 深澤準弥町長
松崎町 深澤準弥町長

「飛鳥Ⅱ」の寄港は決まりましたが、そこで松崎に求められるのが乗客のおもてなしです。

6月13日。町内では「第3回 飛鳥Ⅱ歓迎イベント実行委員会」が開かれました。委員会は県の職員も出席して行われました。

●飛鳥Ⅱ歓迎イベント実行委員会 依田貴文会長:
「観光協会と役場と商工会の3組織と西伊豆町の、合わせて4つの組織が集まって実行委員会を作っています。ボートクラブの方たちとも協力して、飛鳥Ⅱで来てくださるお客さまたちを歓迎するイベントだったり、出店だったり、セレモニーだったり、そういった内容を取りまとめている段階です」

第3回 飛鳥Ⅱ歓迎イベント実行委員会(6月13日)
第3回 飛鳥Ⅱ歓迎イベント実行委員会(6月13日)

●飛鳥Ⅱ歓迎イベント実行委員会 依田貴文会長:

ーーどんなおもてなしを考えている
「今考えているイベントは目玉となるのが無料のサザエ狩り。海岸沿いに大きいいけすを作って、そこにサザエをはなして、お子様にとっていただく。横に焼き台のスペースを作っているので、そこで実際に焼いて食べていただく。あとは海岸にくじをかくして、宝探しもやります。松崎町で水上バイクをやっている団体がいるので、そこの方たちに協力をしていただいて、バナナボートで松崎海岸を周遊することも考えています。ファミリーに楽しんでいただきたい」

郵船クルーズによりますと、今回のクルーズの集客数は約750人でそのうち小学生以下はおよそ140人だということです。(6月13日現在)

今回初寄港ということで、松崎町では官民一体となり船を迎える準備を進めていますが、訪れる側に不安はないのでしょうか?

●郵船クルーズ 運航部 吉田悟部長:
「弊社も30年近く運航しておりまして、言い方に語弊はあるかもしれませんが、魅力があるところはひと通り訪れています。リピーターのお客さまも多いので、たえず新しい寄港地をさがさなければいけません。不安がないわけではありませんが、そういう意味では『初寄港』というところを魅力を感じるリピーターも結構いるんです」

ーー松崎町へ期待することは
「ビーチでのアクティビティは他ではやっていないので、初の試みです。企画している、ハマグリやサザエを取ってその場で浜で焼くなんてことは世界中のクルーズを探しても、数少ない体験ができるとかなり期待しています。そういった新しいチャレンジをお互いにでききるような雰囲気にもなってきています」

イベント会場となるビーチ
イベント会場となるビーチ

寄港まであと2カ月を切りました。飛鳥Ⅱへの期待は日に日に高まっています。

●飛鳥Ⅱ歓迎イベント実行委員会 依田貴文会長:
「これを一度で終わらせずに次につなげたい。あとはお客様が船以外でもまた松崎に来たいなと思っていただけるようなおもてなしをすることが、われわれの使命と考えています。お客様に120%楽しんでいただいて、また松崎に遊びに来ていただければと思います」

●松崎町 深澤準弥町長:
「毎年一度は必ず松崎町に寄港してくれるようになれば一番いい。今までは『うちはこうやってもてなします。どうですか』みたいな話だったんですけど、逆に何度も旅行されて慣れている人はどういうものを求めているかというマーケティングをちゃんとしながら、こちらができることを提供できれば、より確率は高くなるのかな」

●郵船クルーズ 運航部 吉田悟部長:
「通常ですと首都圏の人が、松崎町を訪れる機会は多くはそれほど多くないと思います。そういう『なかなか行けない場所』に行ってみたいという人もいらっしゃいます。お客様にとっては新たな寄港地の発見にもなる。今回手ごたえがあれば、来年も是非寄港したいと思っています」

人口およそ5600人の静かな町に、日本最大の客船が姿を見せるのはもうすぐです。

「飛鳥Ⅱ」写真提供:郵船クルーズ株式会社 撮影 中村庸夫
「飛鳥Ⅱ」写真提供:郵船クルーズ株式会社 撮影 中村庸夫