きっぷを着てトーマス号に乗ってみた! 大井川鉄道が「フリーきっぷTシャツ」で2か月間乗り放題 「緑の乗客」は大井川鉄道の応援団
静岡県島田市に本社を置く大井川鉄道では、期間限定で乗り放題の切符を発売しました。私鉄でも乗り放題の切符は珍しくありませんが、大井川鉄道のものは一味違います。なんと、Tシャツが切符になっているんです。(取材・文=三浦徹)
2か月間乗り放題
大井川鉄道が今回初めて発売したのは「フリーきっぷTシャツ」。前面に乗車券がプリントされたTシャツが、特別企画乗車券になっています。
きっぷを持って乗るのではなく、「きっぷを着て乗る」。改札ではTシャツの胸元にプリントされた券面を見せれば、大井川鉄道の大井川本線(金谷駅~川根温泉笹間渡駅間)が乗り降り自由となります(川根温泉笹間渡駅~千頭駅間は台風の影響で2022年から不通)。乗車期間は9月1日から10月30日までです。
客足が落ち込むタイミング
なぜ、このような切符を発売したのでしょうか。
●大井川鉄道 広報・マーケティング課 加冷英鵬課長
「理由のひとつとして、増収のためというのはあります。しかし、営業区間の半分しか動いていない中で、いかに多くのお客様に足を運んでいただくかということが、私たちの課題です。夏休みが終わって紅葉が始まるまでの間は客足が落ち込むタイミングですので、オフシーズンにお得感のある切符を企画しました」
ーー なぜTシャツに?
「インパクトや話題性を重視しました。洗練されたデザインかどうかは別にして、着ていることで『私は大井川鉄道を応援しています』とわかるようなTシャツにしました」
Tシャツの価格は9800円。大井川鉄道の起点となる金谷駅から、現在の終点である川根温泉笹間渡駅までの運賃は片道920円です。単純に計算すると、5往復しても運賃の合計は9200円。Tシャツの価格には届きません。切符としてだけ考えると、少し高いようにも感じます。
ただ、忘れてはいけないのが、大井川鉄道には「きかんしゃトーマス号」に代表される有料の特別列車が走っていることです。このTシャツがあれば、特別列車にも乗車できます。トーマス号の乗車料金は片道3000円。これなら2往復すれば、運賃の合計は1万2000円となり、Tシャツの価格を上回ります。
9800円は高い?
●大井川鉄道 広報・マーケティング課 小沼佑香さん
「通常は1日だけのフリー切符がありますが、価格は5400円です。その価格から考えたら、2カ月乗り放題で9800円はかなりお安いんじゃないかなと思います。大人の方がトーマスに2往復すれば、それだけでTシャツの金額になります。ファンの方からは『安いけど大丈夫?』というお声もいただきました。2カ月間乗り放題というところがポイントです」
実は大井川鉄道には根強いファンがいて、週末には毎週のように訪れる「常連客」が結構いるそうです。中には5400円の1日乗車券を毎日買って、連日乗車する人も。そういう人にとっては、2カ月乗り放題の「乗り放題Tシャツ」は非常にお得な切符といえます。
JRでは着ずらいデザイン
筆者もTシャツを購入しました。せっかくなのでトーマス号に乗ろうと思い、出発。実は特別列車は毎日運行しているわけではなく、基本的に土日と月曜日、金曜日に運行しています。
筆者は静岡市在住なので、金谷駅まではJRで移動します。家からフリーきっぷTシャツを着ていこうと思ったのですが、少し抵抗がありました。何しろ、目立つ黄緑色のTシャツに、フリーきっぷが印刷されたデザインです。大井川鉄道に乗車中ならいいのですが、JRでこのTシャツを着るのはちょっと……。
ということで、家からは別のシャツを着て、金谷駅でフリーきっぷTシャツに着替えることにしました。
なぜこの色なのか尋ねてみたところ、「茶畑をイメージした」とのこと。確かに沿線には緑色の茶畑がよく見られます。個人的には、同じデザインでも黒や紺のほうがよかったと思いました。
このTシャツがあれば、トーマス号などの特別列車にも乗車できます。ただし、これらの列車は全席指定です。空席があれば座れますが、満席の場合は立って乗車することになります。そこで、混雑する土日を避け、金曜日に乗車することにしました。
金谷駅からは、かつて南海電鉄を走っていた通称「ズームカー」で新金谷駅へ。他の鉄道会社で活躍した往年の車両が走っているのも、大井川鉄道の魅力のひとつです。
無事トーマス号に乗車
新金谷駅でトーマス号に乗車。乗客は8割ほどで、無事に席を確保できました。車内は、小さな子どもを連れた家族がほとんどでしたが、よく見ると、緑色のTシャツを着た人がちらほらいます。着ているのは、ほとんどが私と同年代の「おじさん」で、しかも基本的には1人。家族連れの中で、緑色のおじさんたちは明らかに異質な存在です。
家族連れと緑色のTシャツを着た乗客を乗せたトーマス号は、新金谷駅を出発し、川根温泉笹間渡駅へ向かいます。
客車は昔懐かしい国鉄風(?)のボックス席。冷房はなく、窓は全開です。乗車したのは10月だったのでよかったのですが、真夏だときついかもしれません。トーマス号に乗っているというより、昭和にタイムスリップしたような気分。それも大井川鉄道の魅力ですが……。
沿線の人に愛される大井川鉄道
途中の停車駅は家山駅のみ。家山駅ではトーマス号への給水が行われ、乗客は列車を降りて、その様子を見守っていました。
トーマス号に乗って感じたのは、沿線の人々に愛されているということです。車窓から外を見ると、あちこちで手を振る人がいて、三脚を構えて写真を撮っている人も多く見られました。
Tシャツがなかったらトーマス号に乗れなかったかも
終点の川根温泉笹間渡駅には午後2時53分に到着。川根温泉にも入りたかったのですが、折り返しの午後3時6分発のトーマス号に乗車しました。これを逃すと、この日はトーマス号の運行がありません。
家族連れの中で少し肩身の狭い思いもしましたが、この切符がなければトーマス号に乗ることもなかったでしょう。おじさんのソロ客も、Tシャツを着れば堂々とトーマス号に乗れる。(着なくても乗れます)鉄道ファンにとっては、なかなかいい企画だと思いました。
来年は色違い?
フリーきっぷTシャツは、合計76枚売れたということです。
●大井川鉄道 広報・マーケティング課 加冷英鵬課長
「連日乗車するので、着替え用にTシャツを2枚買っていただいたお客様もいらっしゃいました。初めての試みということもあり、実際にどれくらい売れるかは未知数でした。われわれとしては、1人でも買ってくれればいいという考えでやっていました。客車1両には80人くらい乗れるのですが、76枚というのは、客車1両分を埋められるくらいの数です。『何回も乗りに行きたい』と思った人がこんなにいたことは、本当にうれしく思います」
フリーきっぷTシャツは期間限定の受注販売で、現在は販売していません。ただ、今回の企画が好評だったことから、大井川鉄道では来年以降の実施も検討しているということです。Tシャツはデザインを変えず、毎年色違いにするというプランも検討されているとか。
まだ、乗車期限の10月30日までは時間があります。筆者も今度はパーシー号に乗ってみようと、プランを考えています。