「転職も考えないと…」漁師を悩ませるシラス不漁 「黒潮大蛇行」が漁場形成に悪影響か 

栗田麻理アナウンサー:「シラスの水揚げ量が静岡県内トップの舞阪漁港です。多い時には、ここにずらっとシラスが30ケースほど並んでいた時もあったそうですが、今年はたったこれだけです」

舞阪漁港
舞阪漁港

 黒潮に乗って静岡沿岸にやってくるイワシの稚魚「シラス」。静岡の名産品の1つではあるものの、一部の港では全盛期の10分の1にまで水揚げ量が落ち込むなど、ここのところ「不漁」の2文字が重くのしかかっています。

 今年の春には一転して豊漁傾向になり、港ではカゴ一杯のシラスが運ばれる光景も見られていました。ところそれも長くは続かなかったようです。

漁師:「今年は全然だめだね。何とも言えないところだけど、今の状況だと終わっていくんじゃないかな。物自体は悪くないので、ただ後は量が来るかどうか」

漁師:「きょうは1回漁に出て、魚群探知機に記録が少なかったのもあるし、網を出来るような状況ではなかったので、戻ってきた。転職も考えざるを得ないくらい。今年のような漁が続くと」

 県内でも有数のシラスの漁獲高を誇る「舞阪漁港」。この地域では、生シラスではなく、シラス干しなどの加工品の生産が盛んだといいます。

春は豊漁傾向だったが
春は豊漁傾向だったが

 取材した23日も、漁を終えた船からシラスの入ったカゴが降ろされていきます。例年、多い時には1隻当たりおよそ30箱のシラスが取れていたといいますが、この日はほとんどの船が1箱から3箱ほど。シラスの不漁は深刻のようです。

 県内のシラスの水揚げ量は、2015年には8500トンほどありましたが、去年は過去2番目に少ない3436トンまで落ち込み、今年も9月末時点で2134トンと、回復の気配は見られず、2年連続の不漁となっています。

2年連続の不漁
2年連続の不漁

浜名漁業協同組合 渥美敏組合長:「漁業者も収入が減りますし、きょう(23日)みたいに出漁しても、ほとんどとれないで帰ってくる船もここ1~2カ月多い。夏前は多少取れたが、それでも例年のレベルからはかなり下がりました。やはり群れが小さい。連続してとれない。ある日どかんと取れても、それで終わってしまう」

渥美敏組合長
渥美敏組合長

シラス丼が人気のお店では

 最近では燃料費の高騰も重なり、漁師にとっては死活問題のシラス漁。影響は飲食店にも広がっていました。

 静岡市駿河区の「どんぶり工房」。駿河湾で水揚げされた新鮮なシラスのどんぶりが人気のお店です。10年前にオープンしたこのお店、当時はワンコイン(500円)でシラス丼を提供していたといいますが、度重なる値上げで今は800円で提供しています。

人気のシラス丼
人気のシラス丼

 今後も値上げはあるのでしょうか?

どんぶり工房 大石泰生代表取締役:「去年から比べると(仕入れ価格は)1.5倍から2倍。非常に高い。値上げは考えている。ただ去年から高いので、毎月毎月じゃないけど、何カ月に1回値上げをしているので、またこれで値上げというと、客も引いてしまうかもしれない。我慢してやるしかない。いい時もあるんじゃない」

 シラス漁の異常事態。わずかに期待も寄せるオーナーですが、県の水産・海洋技術研究所によりますと、2017年8月から続く「黒潮大蛇行」が漁場の形成に悪影響をもたらしているのではないかといいます。さらに、シラスの親である「カタクチイワシ」の産卵量も非常に少なく、静岡沿岸はもとより、さらに西の海域でも同じような状況だといいます。

浜名漁業協同組合 渥美敏組合長:「大幅な改善は難しいけれど、少しでもとれるようになってくれればいい。わずかでもとれれば、漁業者の収入にはなる。ただ加工業界を考えると、もう少し継続的にとれないと、なかなか安いシラス干しを製造販売するということは難しくなってくる」

 来年1月中旬まで続く「シラス漁」。静岡が誇る「シラス」は、今後、高級食材の仲間入りをしてしまうのでしょうか。

大石泰生代表取締役
大石泰生代表取締役