泥まみれになった旅館「廃業も考えた」 土砂災害から1年2カ月…再開までの軌跡(1)静岡市 ニュースの現場
去年9月23日、台風15号の影響で降り続いた猛烈な雨は、静岡県内各地に甚大な被害をもたらしました。
伊地健治アナウンサー:「静岡市の中心市街地から車で30分ほどのところ 旅館油山苑に来ています。背後には山があって、今見事な紅葉が見られますけれども 去年の9月この場所では大規模な土砂災害が起きました。山から流れ下った土砂が川を伝ってあふれ出したんです。ここまで長らく復旧作業が行われてきましたけれども、11月、1年1カ月ぶりにようやく一部の営業が再開したということなんです」
改装工事はまだ途中ですが、11月上旬、ひと足先に食事処が完成。完全予約制でコース料理の提供を始めたんです。
料理を作っているのは、油山苑のご主人、大塚祐史さん。地元の食材を使い、器にもこだわった美しい料理ばかりです。
大塚祐史さん:「こういう形、未経験でちょっと恥ずかしいんですけど、まだ慣れなくてだんだん慣らして」
新たなスタートを切った大塚さん。しかし、一時は旅館を廃業することを考えていたんです。
大塚さん:「本当に人の温かい心に触れたというのが一番です」
土砂災害から復活を遂げた旅館・油山苑。その裏には、多くの人たちとの出会いと強い絆がありました。
災害から7カ月後…5月
JR静岡駅から北へ車でおよそ30分。安倍川の西側にある、緑豊かな「油山地区」。災害発生から7カ月後の今年5月、休業中の油山苑を訪ねました。
大塚さん:「当日は夜中に母から厨房に水が入ったということで こちらに来てみたら、コンパネを貼ってある所にドアがあったんですけど、そこが抜けまして、玄関のドアを壊して、駐車場の方へ水が流れていっていました」
去年9月23日の深夜、旅館の裏山で土砂崩れが発生。川からあふれた泥水がドアを突き破り、流れ込んできたそうです。
大塚さん
Q.お客さんは宿泊していた?
A.「はい、学生さんの水泳部の団体が26名泊まっていて、全然気が付かず寝ていたので、急いで皆さんを起こして2階の広間の方に避難してくださいということで、全員移っていただきました」
土砂が迫る中、宿泊客を全員無事に2階へ避難させることができました。しかし、大塚さん自身は、割れたガラスで指や腕を切り、20針縫う大ケガを負ってしまったんです。
そして夜が明けて目の当たりにしたのは、泥まみれになり変わり果てた油山苑の姿。
大塚さん:「直後からボランティアさんに集まっていただいて いろんな作業をしてもらいました。ここまで(きれいに)なるのに4カ月、年を越えて1月の半ばぐらいには泥とか災害ゴミも全部撤去してもらって、きれいにはなりました」
片付けがいち段落して考え始めたのは、油山苑の今後について。油山地区のもう1つの宿「元湯館」は建物を解体し、数年かけて再建を目指すことを決めました。
大塚さん:「建物は残っていたんですけれど、あまりにも被害が大きすぎて何も考えられなくて、一時は心が折れて、どうしようかというのがあったんですけど、周りのお客様がこれくらいだったらまだ大丈夫じゃない? とか、ボランティアに来て、いろんな災害現場を見てきた方も『ここよりもっとひどい所があったけれど、再建できているよ』という声もいただいて、じゃあもう一度やってみようか」
一時は廃業も考えましたが、周りの後押しもあって再開を決意。5月上旬、災害発生から半年以上経過していましたが、改装などにあてる資金を集めるクラウドファンディングを立ち上げました。
長年、女将として旅館を守ってきた母・トミ子さんの思いは…
母、トミ子さん:「私は本音を言うと 辞めていいよって息子たちには言ったんですけど。『母さんもう一度やりたい』って言ってくれたもんですから、それじゃぁ私も一緒に頑張ってみようかなって思いましたよ」