6月にスキーウェアが売れる⁉ 初夏にウィンタースポーツグッズイベントが行われる意外なワケとは
静岡県静岡市駿河区のツインメッセで、6月21、22日の2日間にわたって「SPOPIAシラトリ スキー・スノーボードフェスタ2026」が開催されている。ウィンタースポーツの各ブランドの新作などが並ぶこの時期恒例の大型イベントだ。それにしても、本格的な夏を前にした梅雨時期の6月にウィンタースポーツグッズを大々的に売り出すのはなぜなのだろうか? フェスタの総責任者「SPOPIAシラトリ」の赤堀幸徳さんに聞いた。(聞き手・構成=難波亮太)

スキーヤーには当たり前
-シラトリが今回のようなフェスタを始めたのはいつなのでしょう。
社内に資料が残っていないので正確な情報ではありませんが、1980年代後半から県内3カ所、浜松、静岡、沼津で実施していました。当初はそれほど大きな会場ではなかったのですが、15年ほど前から静岡に絞って開催しています。
-30年以上の歴史があるのはすごいですね。ところでなぜシーズンインまで半年ほどある夏前、梅雨の時期に開催しているのでしょうか。
このイベントを始めた1980年代後半というのは日本全国がスキーブーム真っただ中でした。日本中のスキー用品の取り扱い小売業者が夏場に早期受注会を行っていました。その理由はスキーウェアにあります。日本のスキーウェアブランドには夏にオーダーを受けて12月に仕上げるシステムがあり、その受注の締め切りが6月後半だったのです。このシステムは現在も続いています。特に日本独自のスキーの技術を競う、「技術選」(注1)に出場する選手やインストラクターら限られた人たちが着るウェアは、高額で高機能なのですが一般的には冬場店頭にはほとんど並びません。このコンペウェアが当時のスキーバブルで爆発的な人気となり、夏の受注会がスキーヤーの中では当たり前なイベントになりました。
-シラトリのほか同業他社もこういった取り組みをしているのでしょうか。
当時は店頭で実施する小売業も非常に多く、弊社のようにイベント会場で早期受注会を実施する小売業も多くいましたが、現在は私の知る限り弊社ともう1社しかありません。早期受注会もかなり意味合いは変わっています。
-どのように変わっているのでしょう。
80年代のスキーブームから、90年代のスノーボードブームと時代が流れる中で、スキーだけでなくスノーボードも取り入れるようになってきました。しかし正直、市場はかなり縮小(注2)しています。そのため板やブーツなどのグッズも、一時期に比べ流通在庫に限りがあるようになりました。コンペモデルのウェアはもちろんですが、注目モデルはこのイベントでオーダーしないと手配できないぐらい生産量が減っています。コアユーザーの希望するアイテムをできるだけ確保するためにこのイベントを実施しているというのが現状です。

なぜ雪の降らない静岡で?
-静岡県は温暖で山間部を除けばほとんど雪は降りません。スキー場もあるにはありますが、それほどウィンタースポーツ人口が多くないと思います。シラトリとして静岡県内のウィンタースポーツ市場をどう分析していますか。
市場は縮小されてきていて、今後爆発的な増加は見込まれないと考えていますが、フェスタは土日の2日間で毎回1000人ほどのお客様が来場されます。スキーバブルとともに多くのスキーのお客様に育てていただいた会社なので、静岡の愛好者に喜んでもらえるよう、ウィンタースポーツをできるだけ展開していきますし、このような大型イベントを毎年実施していきたいと思っています。弊社の会長(白鳥浩二会長)にも「お客様が喜んでくれればそれでいい」と背中を押されているので、毎年開催のたびにその言葉を思い出しています。
-ウィンタースポーツはウェアなどすべて取りそろえると高額になるイメージがあります。そういった点も市場の縮小に影響を与えていると思いますが、そういう障壁を取り除くために行っていることはありますか。
ビギナー層に対してなるべく価格を抑えた品揃えで展開はしていますが、おっしゃる通り高額なイメージに対して明確な施策が取れているとは言えません。ですが、最近ではリセール、いわゆる中古販売の環境が国内では整ってきています。シラトリでも「BOOKOFF」さんと連動して中古品の買い取りなどをしています。今回のフェスタでも「BOOKOFF」さんのブースを準備し買い取りをしてもらいます。その際、クーポン券を配布しますので、一般のお客様は使わなくなった物を売却し、次の購入に補填してもらう。売却された商品を安く販売してもらうことで、ビギナー層のお客様にも安く提供できる市場循環ができればと考えています。

赤堀 幸徳(あかほり・ゆきのり)さん
静岡県菊川市出身。高校卒業後、SPOPIAシラトリ入社。現在は「湘南藤沢店」で店長を務める。子どものころから野球小僧で、横浜在住のため横浜DeNAベイスターズ激推し。スキーやスノーボードもするが、メインの趣味はゴルフとサーフィン。冬場でも湘南の‟正装”ビーチサンダルスタイルを崩さない、1974年生まれの50歳。
注1…全日本スキー連盟が主催している、スキー技術選手権のこと。タイムなどを競うのではなく、一般的なゲレンデの斜面でターンなどのうまさを競う大会。
注2…日本生産性本部「レジャー白書」によると2009年のスキー、スノーボード人口は1050万人だったが、2021年には2つ合わせて280万人に激減している。※2021年はコロナ禍が大きく影響しているが減少基調であることには変わりない。