土石流災害から4年…まだ復興半ば 牛山教授と歩く被災地のいま 静岡・熱海市伊豆山

橋本ありすアナウンサー:「熱海市伊豆山です。4年前の7月3日、私は生放送中のスタジオにいました。視聴者の皆さんから寄せられる土石流の映像、そして住民の方に電話でお話を伺いましたが、あまりに衝撃的な内容で、自分がどう呼びかけたらいいのか、非常に言葉を紡ぐのが難しかったことを覚えています。あれから4年です。今の伊豆山を歩きます」

橋本ありすアナウンサー
橋本ありすアナウンサー

28人が犠牲に

 2021年7月3日 熱海市伊豆山で大規模な土石流災害が発生。災害関連死も含めて28人が犠牲となり、県によると98軒の家屋が、全壊や半壊などの被害を受けました。

 今回は、静岡大学防災総合センターの牛山素行教授と共に現地へ。

静岡大学防災総合センター 牛山素行教授 :「私も最初のあの映像を見た時に、ある意味、これはもう駄目だなという、おそらくちょっとした被害では済まないなというふうに、第1印象で感じましたね」

 向かったのは、2023年9月まで「警戒区域」に指定され、立ち入りができなかった、逢初川付近の住宅地です。

土石流災害から4年…まだ復興半ば 牛山教授と歩く被災地のいま 静岡・熱海市伊豆山

「日本に崩れない山はない」

橋本アナ「発災直後に地元の方に電話でお話を伺ったり、あるいは現場で取材をした時に、この辺りは地盤がしっかりしているから、地盤が固いから、『まさかこんなことが起きるなんて』とおっしゃった方が複数人いたんです。ですから、地元の認識としてはそうだったのかなと思うんですけれども」

牛山教授「地盤が固いとか、そういうので、わりにありがちな誤解かなと思う。木も生えているわけですから、木が生えてるってことは、少なくともその下は土ですよね。基本的に、日本に崩れない山というものは存在しない。(盛り土があったから)起きたのだと、他のところで盛り土がなければ、こんなことは起きないという油断をしてしまっては、いけないだろうと思います」

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3年間の避難生活

 土石流で自宅が被害にあった住民に話を聞くことができました。1階部分に土砂が流れ込み、3年間、避難生活を続けていたと言います。

自宅が被災した 鈴木寛治さん
Q:この災害自体を忘れてほしくないか、あるいは違う方向に行きたいかっていうと、どういうふうに考えますか。

A.「忘れちゃいけないことなんだけど、一歩一歩前に進んでいかないとしょうがないか、もう年も年だもん」

Q:4年でここまでっていうのは遅いなと思いますか、早いなと思います?

A.「最初の1年かそこらはしょうがないけどね。少し遅いという気がしています」

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土石流が流れ込んだ港は1年間漁に出られず

 起点となった「違法な盛り土」から、およそ2キロ。土石流は、伊豆山港から海に流れ出しました。漁師の松本早人さんに話を聞くと、流れ出た石や泥の一部は、まだ残っているといいます。

伊豆山港の漁師 松本早人さん:「当時の瓦れきとかが、港の前とか、そういうところに、いまだに少しあるんですけど。あとは船でスクリューが回転したりすると、元々浅い港なんですけど、やっぱり泥がワーっと湧いてきて、細かい泥が取れない。自然になくなっていくのを待つみたいな感じですけど」

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 災害から、およそ1年、漁に出られなかった伊豆山の漁師。今は9月に解禁となる「イセエビ漁」の準備をしています。

伊豆山港の漁師 松本早人さん:「まだ色々と解決してない部分があるんですけど、伊豆山神社とか、由緒あるお寺とかも、そういうのを観光のお客さんに少しずつ見てもらって、どんどんきれいに変わっていく伊豆山を見ていてもらいたいですよね」

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観光地に賑わいが…

 熱海市伊豆山の土石流災害から4年。現地では観光客の姿も目立つようになりました。2人が目指すのは縁結びのパワースポットとしても有名な伊豆山神社。その道中で…。

牛山教授「ここの道は実は昔は鉄道だったんですよね、鉄道が走っていた」
橋本アナ「ここをですか?」
牛山教授「豆相人車鉄道といって、人車って、小さい箱みたいな客車を人が押す」
橋本アナ「人が押す?」
牛山教授「そういう鉄道だったんです」
橋本アナ「皆さんご存じないかもしれませんが、牛山先生は災害情報学の専門家でありながら、なんと鉄道オタクでもあるという」
牛山教授「まあそういうこと」

土石流災害から4年…まだ復興半ば 牛山教授と歩く被災地のいま 静岡・熱海市伊豆山

 「豆相人車鉄道」は、1896年に開通した小さな鉄道。6人乗りの客車を、人の力で押していたと言います。逢初橋の近くに、かつて「伊豆山駅」がありました。

牛山教授「道路の上に線路が敷いてある路面電車みたいなイメージを持っていただくと」
橋本アナ「そういうことに思いをはせつつ、観光してみるというのもいいなと思いました。」

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 源頼朝と北条政子が結ばれた場所として有名な伊豆山神社。新型コロナや土石流災害の影響で減っていた参拝客も、4年の月日が経ち、もとの状態に戻りつつあるといいます。

伊豆山神社 水谷智賢宮司
Q:この先どんなふうに進んでいけたら
A.「参拝者、人が集まることによって、伊豆山のまちに潤いが出るようなプロジェクトを組みたい、神社だけ人が来て帰るのではなくて、こんな山まで来てくれたら、休憩してお茶でも飲んだり、お食事したり、伊豆山のまちにも寄ってもらって、ここだけじゃなく、他も回ってもらって、賑やかにしてほしいというの私の願い、少しずつでも進歩していこうと思う」

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 神社のほかにも、伊豆山には、人気の観光スポットがあります。

橋本アナ:「洞窟がありますね、走り湯と書いてありますが、こちら、伊豆山を訪れた人の多くの方が見に来るという名所ですけれども、中に熱々のお湯が湧いているということです。すごい湯気、行ってみます。横穴が続いていてすごい熱気です。あっ、こちら、湧いています、源泉です、70℃ほどあるということです、グツグツ、グツグツ煮えたぎっています、暑い、でもお肌がつるつるになる気がする。ちょっと浴びとこ、浴びとこ」

 「走り湯」は、およそ1300年前に発見され、海に向かって温泉が飛ぶように走り落ちることから「走り湯」と名付けられました。

愛知県からの観光客
Q:どうして走り湯に来ようと?
A.「ネットで見て、こんなところがあるんだなと思って来ました」
Q:入ってみてどうでした?
A.「むちゃくちゃ暑いです、サウナですね」
奥様「すごい汗」
Q:じわじわすごい汗が…
A.「温泉に入ったみたい」

 伊豆山神社と「走り湯」の中間にある「そば処 木むら」。この地区で数少ない飲食店のひとつです。店主の小林和海さんには、発災直後にお話を伺っていました。

そば処 木むら 小林和海店主:「忘れちゃいけない、この災害を忘れちゃいけないということを、報道してもらいたいというのが、今すごく強い気持ち」

 当時、店内には大量に土砂が流れ込み、店の再開には半年近くかかるとされていましたが、年末の「年越しそば」に間に合うようにと、5カ月で再開にこぎつけました。

そば処 木むら 小林和海店主:「当時は皆さん災害があったばかりで、ウチがオープンしたときは、被災があったということで、応援でご来店くださるお客様が多かったですけど、今は通常に戻りつつありますね」

土石流災害から4年…まだ復興半ば 牛山教授と歩く被災地のいま 静岡・熱海市伊豆山

 営業を再開した4年前の年末、一番のりで店を訪れたのは、同じ土石流災害の被災者だったそうです。

そば処 木むら 小林和海店主:「なんせ一番で来たかったという言葉を聞いたときに、胸いっぱいになりましたね、やってよかった、再開してよかったって、被災した人たちに申し訳ないような気持ちで再開したので」

土石流災害から4年…まだ復興半ば 牛山教授と歩く被災地のいま 静岡・熱海市伊豆山

 伊豆山地区には、人気の鮮魚店もあります。

橋本アナ:「こちら。新鮮なお魚がずらっと並んでいますね。このお魚に加えて、お菓子や食料品、そしてこのお総菜も、地元の人たちのために置くようになったということなんです」

来店客 男性:「地元でめちゃめちゃ有名な、味の良い、感じの良いお店じゃないですか」

来店客 女性:「魚久が、お魚屋さん兼いろいろなお店になっていますので、助かっています」

 伊豆山で「買い物に困っている」という声が多かったことから、魚久では、2年前に店をリニューアル。総菜や野菜、お菓子や調味料なども扱うようになりました。

土石流災害から4年…まだ復興半ば 牛山教授と歩く被災地のいま 静岡・熱海市伊豆山

魚久 髙橋照幸店主:「店が減っちゃっているので、(伊豆山に)帰ってくる方がいるんですよ、そういう時にウチが開いていると、お話ができる、なので、寄っていただいて、ほっとするような感じがするんじゃないですかね」

 店内には、伊豆山港で水揚げされた魚も並んでいます。

魚久 髙橋照幸店主「災害があって1年ぐらいは港が、被害があって、漁ができなかったでしょ。おととしあたりから少しずつ水揚げがあった感じですかね」

 まだまだ道半ばの伊豆山地域の復興。それでも少しずつ、着実に、かつての賑わいを取り戻そうとしています。 

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