とびげりで「熱狂と感動と興奮を届けたい」 日本最大級の育成年代のサッカー大会仕掛け人が見据える未来とは-

 「TOBIGERI」。「とびげり」、と読む。イベントの名前なのだが、格闘技ではない。実は小中学生の育成年代のサッカー選手にとって知らない人はいないほどのサッカー大会だ。そのTOBIGERIの全国大会が現在、静岡県裾野市下和田の時之栖スポーツセンターで開かれている(~8月7日まで)。2016年におよそ10チームで始まった大会は、今では予選も含め年間1500チーム、3万人の選手が参加するほどにまでに成長した。全国規模の大会に育て上げた仕掛け人は言う。「熱狂、感動、興奮を届けたい」-。(難波亮太)

熱戦が繰り広げられているTOBIGERI(8月1日、静岡県裾野市の時之栖スポーツセンター)
熱戦が繰り広げられているTOBIGERI(8月1日、静岡県裾野市の時之栖スポーツセンター)

ファウル容認の大会⁉

 真夏の厳しい日差しが照り付ける。よく日焼けした短パン、サンダル姿の人々。女性はサングラスに日傘がマストなようだ。物販のテントにかき氷のキッチンカー。スピーカーからは大音量でレゲエ調の音楽。ここだけ切り取れば、夏のリゾート地に訪れたような感覚になる。
 しかし青々とした人工芝のピッチに目を向けると、未来のJリーガーか、はたまたプレミアリーガーか。とにかく日本サッカー界を背負っていくと思われる選手たちがボールを追いかけまわしている。まぎれもなくサッカーの大会なのだと気づかされる。
 TOBIGERIが産声を上げたのは2016年。千葉県南房総市出身で現在、スポーツファシリティという大会運営会社の富澤翔太代表取締役CEO(36)が、「サッカー大会を通して地元の民宿に集客したかった。南房総の活性化につなげようと思った」ことがきっかけだった。自身がサッカーをしていたこともあっての企画だったが、当然、大会の知名度はない。アディオス堀田こと堀田弘志営業部長(35)が中心となって、関東近辺のサッカーチームに「どぶ板営業」(堀田部長)をして参加チームを募って開催にこぎつけた。
 それにしても気になるのが大会名だ。なぜ、サッカーでは恐らく一発レッドカードとなる「とびげり」としたのだろうか。富澤CEOによると「特別由来があるわけじゃなくてとにかくインパクトを残したい、1回聞いたら忘れられない名前にしたかった」そうで、複数の候補のうち社外の人から提案された「TOBIGERI」に決まったという。堀田部長は「『サッカーの大会なんですか?』と聞かれたこともあるけど、名前がキャッチ―で興味から見てくれる人も増えた。最初の印象は良くないかもしれないですけど。この大会はファウルをしてもいいのか?みたいな」と笑う。
 大会は回を重ねるごとに参加チームが増え、2021年に時之栖で全国大会を開催できるまでに成長。参加しているチームを見ると、北は北海道、南は九州のJリーグの下部チームや小中学生年代では全国的に知られた街クラブが名前を連ねている。

散歩が趣味だという富澤CEO(左)と『お祭り男』の堀田部長
散歩が趣味だという富澤CEO(左)と『お祭り男』の堀田部長

音楽フェスを目指す

 大会に参加しているのはカテゴリー別に10~13歳以下の世代。高校生や大学生、プロとは技術もスピードも遠く及ばない。それでもダイヤの原石がゴロゴロ参加している。2025年4月に柏レイソルとプロ契約を結んだ16歳の長南開史は過去のTOBIGERIでMVPを獲得。7月にFC東京と契約した16歳の北原槙も出場経験がある。
 参加している愛知の強豪「FC ALONZA」の深江鷹志代表(42)は「Jの下部組織とやれる最高の環境。レベルが高いし、指導者同士の出会いの場でもあるし、みんなが目指す大会」と評価する。
 富澤CEOが参考にするのが「音楽フェス」だという。そのこころは-。
 「誰もが熱狂できたり、感動出来たり、興奮できたりするような仕組みを作りたい」。
 その証拠に最近ではオリジナルのキャラクターグッズを制作し、販売も始めた。「幸せを運ぶカバ」をコンセプトとしたキャラで「トビー」と呼ぶそうだ。取材に訪れた日も、1万円近くグッズを購入している人もいた。
 サッカー指導者歴もある富澤CEOは長年、この世代のサッカーを見てきて感じていることがある。それが「観戦している保護者のほとんどがビデオを回している」ことだそうだ。これはヨーロッパでは目にしない光景だという。
 富澤CEOは「プロの試合のように素直に試合で熱狂してほしいんです。見る側もプレーする側も感情を爆発させてほしい。育成年代でも自分のプレーで観客が沸けばもっといいプレーが出るかもしれない。小さいころからそういう環境でやっていたら、きっと日本のサッカーのレベルは上がると思うんです」。
 ヨーロッパやハワイでもTOBIGERIを開催し、今後はアジアでの開催も目指している。根底にあるのは「日本サッカー界を支えたい」という熱意。「とにかく試合でゴール決めて感情を爆発させたり、プレーに感動したり、歌って応援したり。僕らができることはそういう空気感をつくってみんなを巻き込むことなんです」。富澤CEOは何度もこう繰り返した後、「来年からビデオ禁止にしようかな」とおどけてみせた。

オリジナルキャラ「トビー」のキーホルダーなど
オリジナルキャラ「トビー」のキーホルダーなど