市民に愛され50年…無人駅の駅そば店 トッピング全部のせのつわものも 静岡・富士市

 静岡県富士市内を走る「岳南電車」。吉原駅から岳南江尾駅まで、およそ9.2kmを結ぶローカル線です。その停車駅の1つ、無人駅の「岳南原田駅」には一軒の飲食店が。

市民に愛され50年…無人駅の駅そば店 トッピング全部のせのつわものも 静岡・富士市

 始発電車が通り過ぎた朝の6時半ごろ、無人駅にやってきたのはこの店で主に仕込み作業を担当する藤巻幸三さんです。岳南原田駅に併設される駅そば店「めん太郎」。店内の客席は8席という小さなお店ですが、駅と共にこの場所で50年以上、地域の人たちの胃袋を支えてきました。

めん太郎 藤巻幸三さん(59)
Q.寒いですね
A.「あんまりもう感じなくなっちゃいました。(朝の仕込みは)もう15年くらいになる。しょうがないですね、これは。別に早起きは苦にはならないので」

 店の営業時間は午前9時から午後5時半まで。一日通し営業となるため、その分の仕込みを進めていきます。

市民に愛され50年…無人駅の駅そば店 トッピング全部のせのつわものも 静岡・富士市

 午前7時。そばとうどんの麺がお店に届きました。トッピングはあるものの、めん太郎の基本メニューは「かけそば」と「かけうどん」。麺は同じ富士市内の製麺所から仕入れています。

めん太郎 藤巻幸三さん:「地元のすぐ近所の製麺所で、特にうどんだが、こちらの麺と合わせたつゆになっているので、ここだけは変えるわけにはいかないので」

 先代からお世話になっているというこだわりの麺。それに合わせるように作っている出汁も“こだわりぬいた”伝統の味です。(かけそば かけうどん:400円)

めん太郎 藤巻幸三さん:「鍋肌を見ればわかるが、この寸胴は変えることがない。ウナギ屋のタレじゃないが、(味が)しみついているので、お客さんに提供する時にはここに継ぎ足す」

 複数の鍋を使い、最低でも炊き出してから4時間以上は寝かせて継ぎ足しをしているというこの出汁。さらに材料にも特徴が─

めん太郎 藤巻幸三さん
めん太郎 藤巻幸三さん

めん太郎 藤巻幸三さん:「カツオ節もサバ節も骨ごと厚削りで削ってもらっている。香りも大事だと思うが、味の深みを一番重視している」

 手間暇かけたこだわりの出汁、この味こそが半世紀以上愛されてきた一杯の秘密です。営業開始に向け、黙々と準備を進めていると─

高校生「おはようございます」
藤巻さん「きょう、ちょっとテレビが来ていて。具合良くなった?」
高校生「大丈夫です、ありがとうございます」
藤巻さん「学生さんだが、御殿場から毎日一生懸命通っている」
高校生「毎日、お見送りしてくれる」

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 2人が挨拶を交わすようになったのは、3カ月ほど前からだといいます。

めん太郎 藤巻幸三さん:「自転車がぎゅうぎゅう詰めで、自分の自転車が出せないと。『じゃあ、おじさんが一台持っていてあげるからこれで出られるかな』みたいな感じだったと思う」

 駅の利用客の手助けをすることが多いという藤巻さん。朝の仕込み中は困っている人が声をかけやすいようにと、普段閉めている窓や扉を開けて作業をしています。

めん太郎 藤巻幸三さん:「僕の見た目がこれなので、なかなか一声かける勇気もいるかもしれないが、ここで商売を続けさせてもらっている以上は、うちのお客さんであるないに関わらず、迷ったり困っていたら手助けできればなという気持ちは、うちのスタッフも持っていると思う」

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 開店30分前。店主の杉本さんも合流し、急ピッチで準備が進められていきます。

めん太郎 杉山淑子さん(65):「約200個、全部で」

 そばやうどんに欠かせないトッピングの揚げ物。静岡らしい桜エビやボリューム満点のササミ天。さらに、駅そばには少し珍しいメンチカツなど、7種類から好きなものを選ぶことができるのもめん太郎の魅力です。(揚げ物全品180円)

市民に愛され50年…無人駅の駅そば店 トッピング全部のせのつわものも 静岡・富士市

 全体が出汁のいい匂いに包まれてきた午前9時、この日の営業が始まりました。すると開店早々…。

店員「いらっしゃいませー。いつものでいいですか?」
お客さん「はい」

 朝食を求めるお客さんで、店内はすぐに賑やかに。

お客さん「うどんの特盛りとササミ天とメンチカツ」

 大盛りのそばやうどんにトッピングの揚げ物。皆さん、一日の始まりはガッツリな一杯です。

市民に愛され50年…無人駅の駅そば店 トッピング全部のせのつわものも 静岡・富士市

お客さん「食った食った」
店員「結構食べましたね。ありがとうございます」
お客さん「これで昼飯食べられない。ごちそうさま」

 開店直後のこの時間は、特に常連のお客さんが多いそうです。

富士市民30代「夜勤明けに来ることが多い。初めて来たのが、高校生くらいだと思うので、20年くらい前。いつも野菜天とササミ天と煮玉子のそばを食べる」

富士市民30代「おいしい。濃い味が好きなので、濃い出汁を使っているのかなと。うどんの大盛りでササミ天、メンチカツ、煮玉子。10年以上通っているが、ずっと同じメニューで、入ったら『いつもので』みたいな」

 そんな顔見知りのお客さんで店内が混み合うなか─

店員「お待たせしました。うどんのササミ天、玉子です。」

 お店の外で食事をするお客さんも

めん太郎 藤巻幸三さん
Q.外のテーブルは?
A.「なかった。(岳南電車から)いつお叱りを受けるかと思っていたが、ある意味名物みたいになってくれたので」

 当初はコロナ禍で密を避けるために設置したテーブル。今となっては改札前という珍しいロケーションに加え、電車を見ながら食事ができると、駅公認の人気スポットになっています。

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 お昼時になり慌ただしくなってきた店内。その様子は繁盛店そのものですが、ここまで来るまでは決して“順風満帆”な道のりではなかったといいます。

めん太郎 杉山淑子さん:「(店を継いだ)最初の頃は『味が変わった』とか『めん太郎終わったな』とか、そういう声が多かったが、お客さんのなかには『うまい』って食べる方もいたし、『(店が)無くならないでよかった』と言う人もいるし、そういう言葉を聞くと、もうちょっと頑張ろうと」

 杉山さんが先代から店を継いだのは20年前。人気店だったからこそ、苦労とともに店を続けてきました。

めん太郎 杉山淑子さん
Q.今の常連客は、今のめん太郎の常連客だと思うが、自分たちのそばについてきてくれる常連客の存在は
A.「うれしい。今ではスーパーに行っても『めん太郎おばちゃん』みたいな感じで言われているので、少しは馴染めたかなと」

 先代の背中を追いながらも、自分たちの一杯を作り続けてきたからこそ、今の「めん太郎」があります。

富士市民20代:「電車もここから乗るので、その際に寄っている。岳南電車が間近で見られるのがいいと思う」

富士市民40代:「お昼は月曜日から金曜日までめん太郎さん。うちの子どもたちもみんな好きで、『お昼何にする?』って言うと『ここに来たい』って言うので、食べるものに困ったらここに来ればいいのかなと」

 そんな今のめん太郎ファンのなかには、“全部を楽しみたい”という方も─

20代「いつも食べるのだと、トッピングを全部乗せてもらって大盛りで食べている」

 そのトッピング全部乗せというのがこちら。全12種類、麺が一切見えなくなるまで盛られた圧巻の一杯です。

市民に愛され50年…無人駅の駅そば店 トッピング全部のせのつわものも 静岡・富士市

Q.結構なボリュームだが
A.「結構あります。おいしいので。天ぷらとかもトッピング全部おいしいので、そばにも合うなと思ったので」

 駅の利用客にとっても常連客にとっても、欠かせない店となっているめん太郎。そうした思いは店側も感じているようで…。

めん太郎 杉山淑子さん:「顔なじみの方が来店すると、また食べに来てくれたと安心感がある。身近に感じるというか。駅の中なので、電車のお客さんもいるので、どうやって電車に乗るんだとか切符はどうやって買うんだとか、親しく話しかけてくれて、案内人になったような感じで日々やっている」

 駅とともに50年以上、地域を見守って来た駅そば店「めん太郎」。杉本さんにはこんな目標があるといいます─

めん太郎 杉山淑子さん(65):「私が動けなくなるまでは頑張っていこうと思う。これ以上何かしようとかは考えていなくて、このままでいいんじゃないかなって。いま来ている赤ちゃんがお財布を持って自分で来られるようになるまで頑張っていこうと思う」

 たとえ無人駅でも寂しさを感じない。富士市のローカル線には、長年受け継がれてきたあたたかい一杯がありました。

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