天ぷらの声を聞く。半世紀を超えて冴える職人技 浜松市「天はる」
鍋の中を見つめ、揚がる音を聞く。箸先で天ぷらに触れれば、頃合いがわかるという。数字や時計だけには頼らない。浜松市中央区富塚町の「天はる」は、1972年の創業から54年続く、天ぷらを中心とした和食店だ。先代の頃から通う客も多く、現在は2代目の大庭立也さんがその暖簾を受け継いでいる。
ランチの1番人気は、赤だしが付く「天丼」。エビ、キス、カボチャ、シイタケ、ナスなど、8~9種類の天ぷらがご飯を覆う。油はサラダ油とゴマ油のブレンド。火の入りにくい素材から順に、約180℃の油へ入れていく。揚がった後の仕事も丁寧だ。天ぷらをしょうゆベースのたれへ1点ずつくぐらせ、それから丼へ盛り付ける。丼にはエビが2尾。歯を入れればプリッと弾み、薄い衣にはたれがなじむ。油と相性のよいナスは水分を保ち、噛むと熱い果肉が現れる。これだけ盛り込んで1100円。長く通う客が多いのは、熟練の揚げ技だけでなく、日々の食事として頼みやすい価格にも理由がありそうだ。
浜松の客にとって、カツオは「とりあえず」と注文したくなる魚だという。「かつをの刺身」は、厚めに切ってモグモグ食べるのが天はる流。8月に入ると身にうっすら脂がのり、初夏のカツオとは異なる濃厚さが出てくる。脂が増した分だけ弾力は穏やかになるが、一切れの食べ応えは十分。ニンニクやタマネギを添えれば、後味はさっぱりする。
季節の焼き物には「鮎しお焼」。串を打ち、ヒレなどに化粧塩を施して焼き上げる。焼けた鮎の身はほくほく。天ぷらとは違った火の通し方で、旬の魚を素直に味わわせる。
「きんめ煮付」は、酒、砂糖、水、みりんなどを使い、約20分煮る。しょうゆベースの甘辛い煮汁を含ませながら、身の内側はふんわりと仕上げる。奇をてらわない昔ながらの煮魚で、酒の肴としても評判だ。天丼の後にもう少し飲みたい夜なら、こうした一品がうれしい。
大庭さんに店のモットーを尋ねると、返ってくるのは「安く、早く、元気よく」。飾らない言葉だが、1100円の天丼や、職人の勘で次々と揚げる仕事ぶりによく似合う。54年という年月を必要以上に語らなくても、鍋の音と迷いのない箸先が、天はるの歩みを物語っている。
天はる
住所:浜松市中央区富塚町3003-2
電話番号:053-471-6891
定休日:木曜日
営業時間:11:30-14:00 L.O.13:30 / 17:00-22:00 L.O.21:00
Pあり