ワンプレートが誘う郷愁の洋食物語 三島市「キッチン空」

 営業職の会社員から料理の世界へ。既製品に頼らず、手作りでどこまで通用するか試したい。そんな思いから2009年に開いたのが、三島市広小路町の「キッチン空」だ。緑に包まれた外観の先には、街中の喧騒を忘れさせる店内が広がる。厨房で手をかけるのは、子どもの頃から親しんだような洋食。流行を追うより、変わらない味を求める客を迎え続けている。
 店で最も人気がある「そらのプレート」には、ハンバーグ、チキンライス、パスタ、サラダが盛られる。牛2、豚8ほどの割合で合わせたハンバーグは210g。両面に焼き色をつけ、ブイヨンを注いでからオーブンへ移すことで、ふっくらと火を通す。上からかけるドミグラスソースは、鶏ガラと香味野菜のブイヨンに、バターと小麦粉で作る黒いルーを合わせたもの。こしては継ぎ足す作業を繰り返し、完成まで10日から2週間ほどを費やす。肉汁を蓄えたハンバーグを深みのあるソースが包み、ケチャップを炒めてコクを出したチキンライスが脇を固める。「お子様ランチみたい」と喜ぶ客がいるのも、この眺めならうなずける。

そらのプレート(2000円)
そらのプレート(2000円)

 このために足を運ぶ食通も多いという「ハヤシライス」は、作り置きをしない。注文が届いてからタマネギと牛肉を煮込み、赤ワインを加え、ドミグラスソースと合わせる。少し時間はかかっても、その場で作る味を優先するためだ。タマネギと牛肉の旨みに赤ワインの香りが加わり、時間をかけたソースにも鮮やかさが生まれる。待つ時間まで期待に変える、洋食店の矜持が表れたメニューだ。

ハヤシライス(1800円)
ハヤシライス(1800円)

 「オムライス」は、卵2個でチキンライスを包む昔ながらの姿。卵を素早くかき混ぜて焼き、ケチャップ味のご飯をくるむ。半熟卵を割って見せる華やかなタイプではない。スプーンを入れれば、卵のまろやかさと炒めたケチャップのコクが一緒についてくる。飾らない姿だからこそ、食べる前から味を思い出せる安心感がある。

オムライス(1500円)
オムライス(1500円)

 定食気分の日には「ポークジンジャー」。厚切りの豚肉を蒸し焼きにしてふっくらさせながら、両面はパリッと焼き上げる。たれはしょうゆ、酒、みりんが基本。すりおろしたショウガをたれの投入直前に加え、香りを残す。甘じょっぱい調味にショウガの辛みが走り、一枚肉の食べ応えを軽快に運んでくれる。

ポークジンジャー(1600円)
ポークジンジャー(1600円)

 手作りを掲げるのは簡単でも、ドミグラスソースを毎日手入れし、ハヤシライスを注文のたびに煮る仕事は続けるほど重みを増す。キッチン空を訪れる客が求める懐かしさは、昔風の見た目だけから生まれるものではない。久しぶりに来ても、食べたかった味がきちんと待っている。その信頼を味わいに、緑の奥の扉を開けたい。

ワンプレートが誘う郷愁の洋食物語 三島市「キッチン空」

キッチン空
住所:三島市広小路町11-27
電話番号:055-976-3607
定休日:木曜日
営業時間:11:30-19:30 L.O.
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