ピッツァに込められた軽やかさという哲学 伊豆市「ザ クランク ピッツェリア」

伊豆市柏久保、修善寺温泉の入口にある小さな路面店で、ピザ生地が宙を舞う。そこは「The Crank Pizzeria(ザ クランク ピッツェリア)」。イタリアで研鑽を積んだ若きシェフ、岩田成央が北イタリア風のピッツァにこだわりを詰め込む、“軽やかさ”を信条とする一軒だ。まず食べてほしいのは、定番の「マルゲリータ」。だが、ただのマルゲリータではない。ナポリ風のモチモチとは対極の、薄く広がる北イタリア寄りの生地。36時間かけて熟成された生地は、外はパリッ、中はふわりとし、食感にリズムがある。酸味のあるトマトソース、イタリア産モッツァレラ、そしてバジルの香りが一体となり、実に潔い。小麦の旨味と具材の調和、そのシンプルさに、シェフの真摯さが見える。

マルゲリータ(1600円)
マルゲリータ(1600円)

生地の軽やかさを信条とする岩田の技が光る
生地の軽やかさを信条とする岩田の技が光る

季節限定の「フレッシュトマトのマルゲリータ」も素晴らしい。ソースを使わず、糖度10度を超えるスーパーフルーツトマトを薄くスライスして直接焼く。焼きが入った果肉からあふれる旨味と甘みは、まるでトマトが自らソースに変化していくような錯覚を覚える。トマトそのものが主役を張る。

フレッシュトマトのマルゲリータ(1800円)
フレッシュトマトのマルゲリータ(1800円)

一方、野菜の存在感を楽しみたいなら「生ハムと三島レタスのサラダピッツァ」だ。三島産のシャキシャキとしたレタスを、焼きたてのホワイトソースピザに惜しげもなくのせる。生ハムの塩気がレタスの苦味を引き立て、焼きの香ばしさと瑞々しさが一皿の中でせめぎ合う。熱い生地の上で涼しく踊るレタスが口の中でダンスホールな1枚だ。

生ハムと三島レタスのサラダピッツァ(1900円)
生ハムと三島レタスのサラダピッツァ(1900円)

肉系なら「ポルチーニとサルシッチャ(ソーセージ)のピッツァ」。豚と鶏をブレンドし、ハーブを使わず塩と胡椒だけで仕上げたサルシッチャは、シンプルゆえに肉の旨味が立つ。ホワイトソースのコクと相まって、どこかクリームシチューを想起させる安心感。けれどその中に、焼きの仕事と塩加減の妙がきちんと息づいている。

ポルチーニとサルシッチャのピッツァ(1800円)
ポルチーニとサルシッチャのピッツァ(1800円)

そして締めには、自家製ティラミスを。マスカルポーネが惜しげなく使われ、口に入れた瞬間から溶けるような濃密さが広がる。余韻が続く堂々たるドルチェだ。

ラム酒を効かせた大人のティラミス(600円)
ラム酒を効かせた大人のティラミス(600円)

「クランク」とは、自転車の心臓部。岩田は「店もピッツァも、前にこぎ続ける」という意味を込めて命名したという。派手さはないが、毎日の一枚に全力を込める。ピッツァは焼き手の哲学だ。(敬称略)

ピッツァに込められた軽やかさという哲学 伊豆市「ザ クランク ピッツェリア」

The Crank Pizzeria
伊豆市柏久保550‐1エムズ修善寺ビル1階
TEL 0558-79-3679
営 11:00~15:00(L.O.14:30)/17:30~21:00(L.O.20:30)
休 水曜日・不定休※火曜日のディナー
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