名水と信濃一号が織りなす、香り高きそばの聖地 浜松市「吉田屋」
浜松市中央区市野町、笠井街道沿い。「市野 吉田屋」は創業1969年、2014年にリニューアルされた落ち着いた和の空間で、香り高いそばを提供する名店だ。50年以上の歴史を持つこの店で腕を振るうのは、二代目の清田晃司さん。約10年前に跡を継いだ彼が打つそばには、並々ならぬこだわりが詰まっている。
主役となるそば粉は、日本を代表する品種の一つ、長野県塩尻産の「信濃一号」。品種改良の第一号として知られるこのそばは、強い甘みと香りが特徴だ。さらに日本各地から厳選したそばを仕入れ、名水百選にも選ばれた長野県飯田市の「猿庫の泉(さるくらのいずみ)」の水を使って打つ。現在は細打ちで提供され、茹で時間はわずか30〜40秒弱。瞬間の勝負で引き出されたそばの香りは格別だ。
看板メニューは、このこだわりのそばに、一尾まるごとの穴子天ぷらがついたセットだ。穴子は福岡県宗像から仕入れているが、その鮮度管理が素晴らしい。釣ってすぐに締めず、お腹の中を空にしてから締めて送られるため、臭みが極めて少ないのだ。これを高温でカラッと揚げれば、衣はサクサク、身はふんわりと柔らかく、噛むほどに旨味が広がる贅沢な一品となる。添えられた梅肉で味変を楽しむのも粋だ。
そばそのものの味を堪能するなら、「もりそば」がおすすめだ。つゆには、醤油の産地・千葉県の「ちば醤油」を使用し、関東風の「角のピリッと効いた」味わいを目指している。出汁は本枯れ節に宗田節をブレンドすることで、上品な香りとコクを引き出し、甘みのあるそばと絶妙な調和を見せる。
温かいそばで推したいのは、京都発祥とされる「にしんそば」。京都の身欠きニシンを甘露煮にしており、甘辛く煮付けられたニシンは驚くほど柔らかい。温かいそばには薄口醤油を使い、透き通るような美しいつゆに仕上げているのも職人の美学だ。
そして、酒の肴にもそばの友にもぴったりなのが「桜えびのバラ揚げ」だ。店主自身がかき揚げの重たさを敬遠していた時に出会ったというこの手法は、桜えびをかき揚げにせず、バラバラに揚げるスタイル。サクッと軽やかな食感で、桜えび本来の香ばしさと甘みが口いっぱいにふわっと広がる。
「お客さんに、当店のそばを食べたいと言ってもらえるようなそばを打ちたい」と語る二代目。厳選された水と粉、そして職人の技が織りなす「市野 吉田屋」のそばは、心と体を満たす至福の味わいだ。
市野 吉田屋
浜松市中央区市野町1688
電話番号:053-421-2931
定休日:木曜日
営業時間:11:30-14:30/17:30-20:00
Pあり

