袴田事件の取材30年以上…ジャーナリスト大谷昭宏さんが見た再審初公判 「ひで子さんが涙ぐむことはなかったのに…」
事件記者としてスクープを連発。78歳になった今も、ニュースの第一線で活躍するジャーナリスト。大谷昭宏さん。袴田事件の再審初公判を迎えた27日、大谷さんの姿は浜松にありました。
注目は『どこまで検察が有罪立証にこだわるか』
伊地健治アナウンサー:やりなおしの初公判 どんな気持ち?
大谷昭宏さん「やっとここまでたどり着いた。今までは玄関口で「ああでもない、こうでもない」と。やっとこれから本番。早く結論を出してほしい、57年ですよ」
袴田事件の取材を続け、30年以上。巌さんの姉、ひで子さんとも親しい間柄です。再審開始の節目を迎えた27日は、自宅から静岡地裁に向かうひで子さんを見届けるといいます。
伊地アナ:初公判で注目している点は?
大谷昭宏さん「この期に及んでと言ったら語弊があるが、どこまで検察が有罪立証にこだわるのかということと、例えば延々と冒頭陳述をやられたら大変な時間がかかる。ですから3者がどれだけ協力し合って早く結論を導き出すのか。それともまた同じことを繰り返すのか。これは私たちだけじゃなくて、国民が注視していると思う。これはもう日本の司法の信頼性に関わる。『何だ日本の司法は』と思われるようなことがあってはならない」
自宅前に到着。神妙な面持ちでひで子さんを待ちます。ひで子さんが現れ一斉に動き出す報道陣。ここで、大谷さんの視線の先には…。
支援者 猪野待子さん
「あ~大谷さん。おはようございます。ありがとう、こんなところまでわざわざ」
ひで子さんを囲む報道陣の中に…
巌さんの支援者と談笑。さらに…。
大谷昭宏さん「おはようございます。よかったね」
袴田ひで子さん「どうも」
あたりが緊張感に包まれる中、ひで子さんとも談笑。長年取材をしている信頼関係があってこそのやりとりです。
記者:いよいよ始まりますが望むこと、そして意気込みは?
袴田ひで子さん「真実を望むということ。巌は無実だから無罪を望んでいる」
ここで大谷さんが…。
大谷さん「ひで子さん良かったですね。きょうの朝日新聞見ましたよ、すごいですね、これ。何通もね」
ひで子さん「新聞も一生懸命たくさん載せてくれてましてね。ほとんど毎日のように、そこらじゅうの新聞でいろいろ書いていただいて、本当にご協力ありがとうございます」
大谷さん「きょうは巌さんに声をかけてきた?」
ひで子さん「巌はきのうから腰が痛いって言い出してね。何かまだ寝てますの。きょうはちょっと静岡へ行ってくるでねって言ってね。出てきたんです」
大谷さん「罪状認否はひで子さんがなさるんでしょ?」
ひで子さん「それはちゃんと言ってお願いして、無罪をはっきり言いたいと思って」
大谷さん「裁判長の前で無罪って言うのは初めてですよね」
ひで子さん「はい、そうです」
大谷さん「がんばってくださいよ」
ひで子さん「ありがとうございます。どうも皆さんもありがとう。じゃあ行って参ります」
軽妙なトークで、不安や緊張を和らげるように。最後は「がんばって」と背中を押して、ひで子さんを見送りました。
静岡地裁
伊地健治アナウンサー:「やっぱりすごい人ですね」
ジャーナリスト 大谷昭宏さん:「すごいですね」
袴田さんの裁判のやり直しが行われる静岡地裁。
伊地アナ:大谷さん実際、今来ていかがですか?
大谷昭宏さん:「裁判員裁判が東京、大阪で始まった時は、第一回全部傍聴したんですけど、それよりも人数としては多い。やっぱりそれだけ社会的関心が強いということと、今回抽選もリストバンド方式で、そういう意味では司法も、できる限り、世論に寄り添っていこうという思いが伝わってくるような気がしますね。これが判決につながるといいんですけど」
大谷さんは、弟の代わりに初公判に出廷する袴田ひで子さんと浜松から静岡へ移動する新幹線の車内で会話をしたといいます。
伊地アナ:新幹線の車内ひで子さんの様子、あるいは話した内容は?
大谷昭宏さん:「2人でスマホで写真を見ながら、57年振り返ると言ったら大げさですけど、ちょっとそんな雑談をしながら、こちらに来た」
伊地アナ:どんな気持ちで初公判に臨むとか、何か初公判についての話は?
大谷昭宏さん:「今までいっぱいあったから全然変わらないと、いつも通りのですね。平常心といいますか、内心は分かりませんけど、やっぱり強い方だなという思いがする」
「袴田以降は司法もがらっと変わらないと」
1990年代から袴田事件を取材している大谷さん。事件の問題点を追及し続けています。
伊地アナ:取材を始めた当時のひで子さんはどんな様子だった?
大谷昭宏さん:「全然変わらない。あのぐらいあまり変わらない方、きょうも自宅からご一緒してたけど、平気でとことこ階段を下りちゃって、私は後から付いていく。そんな状況ですから、何がそれを支えているかと言えば、やっぱり巌さんの無罪だと思いますね。袴田さんの57年というのは取り返すことはできない。とすれば、その57年まで何だったのかということを、日本の司法が検証すべきだと思う。日本の司法にとっては、袴田以前と袴田以降というのはがらっと変わったねというふうにならないと、この事件の総括はできないと思う」
午前10時半。静岡地裁に入っていくひで子さんを見守ります。
伊地アナ:やり直し裁判のきょう、初公判を迎えるわけですけど、きょうの日というのは大谷さん、今どんな気持ちで迎えられる?
大谷昭宏さん:「私は大前提として、第1回公判が開かれたということは、確実にその先には無罪しかないわけです。これで開いておいて有罪というのはあり得ないわけですし、過去4例の死刑判決が覆ったもの、そこで無罪、裁判所が開いたということは、無罪と推認される明確な証拠があるんですよというから開いたわけですから、これはもうそれ以上いたずらに時間を過ごさせないということに尽きると思う」
「身柄が自由になることと無罪と言われるのは、雲泥の差がある」
午前11時。初公判が開廷しました。そのころ大谷さんは…
大谷昭宏さん:「菅家さんは今おいくつに?」
菅家利和さん:「77」
大谷昭宏さん:「私と一個違いですね」
大谷さんと話す男性。1990年に起きた「足利事件」で無期懲役が確定した後、18年の時を経て無罪判決を勝ち取った菅家利和さんです。袴田さんの再審が気になり、栃木県から来たと言います。
菅家利和さん:「(無罪判決から)14年経ちますけどね。今でもたまに夢に見る。中にいた頃のことを。たまにですけど」
菅家さんと話をした大谷さんは─
大谷昭宏さん:「身柄が自由になることと、改めてあなたは無罪ですと言われるのは、雲泥の差があるというふうにおっしゃっていた。袴田さんについても、今自由になってるじゃないかと言うかもしれないが、死刑囚であることは変わりない。菅家さんは別に死刑囚じゃなかった。それでも今でも飛び起きるほど夢を見ると。じゃあ死刑囚だった袴田さんはいかばかりだったかと。私だったら耐えないと言っていた」
やり直し裁判で検察は5点の衣類について新たな証拠、証人を準備しています。
大谷昭宏さん:「検察側には、今まで通り以外の主張は何にもないわけですよね。それはだめでしょうと言ってたものを、もう一回持ってきます。だから有罪です。これをやられたら際限がない」
「30年来の付き合いだが、涙ぐむことはまずない」
また、ひで子さんの法廷での様子を聞いた大谷さんは
大谷昭宏さん:「(今法廷に入った記者が)ひで子さん、罪状認否の中で弟にかわって『弟に自由を与えください』と言っている中で、涙ぐむというのが声を震わせていたというふうにおっしゃっていました。私は30年ぐらいはお付き合いしてますが、ひで子さんが涙ぐむことはまずないんですね。必ず気丈にどうってことないですよ、ここまで来たんだから、もう必ずそういう形のおっしゃりかたをしていたんです。やはりここへ来て、いよいよ無罪をつかみ取るんだという中で、初めて声を震わせた。けさお会いした時は想像できなかった。やっぱりそれだけ胸に迫り来るものがあったんだろうかと思う」