「この案だと袴田さんの再審は開かれなかった」 再審法改正を巡る法制審議会の部会 冒頭およそ50分間にわたり議論が紛糾
再審法改正を巡って議論が進められている法制審議会の部会が都内で開かれ、論争が繰り広げられました。
●村山浩昭元裁判長:
「内容的に見て極めて不当、侮辱されている。経過を全く無視してまとめられ全くフェアではない」
●鴨志田祐美弁護士:
「考えは違っても誠実に議論に向き合い、建設的に最終的な意見に持っていけるように努力してきたのに頭からバーンとつぶされた許しがたい」
16日都内で開かれた法務省の諮問機関である法制審議会の第13回目の部会では、冒頭およそ50分間にわたり議論が紛糾したといいます。
今回の部会で配布された「今後の議論のための検討資料」をめぐって、前回の部会終了3日後に法務省の事務当局からマスコミには「意見の集約に向けたたたき台案」が配布され、会見が行われていましたが弁護士側の委員には資料は届いておらず、その経緯や背景、取扱いについて議論が繰り広げられました。
事務当局によりますと、そのたたき台案の資料はこれまでの議論を整理したものだと主張していますが、これまでの議論が適切に反映されておらず、弁護士側の委員3人はえん罪被害者の救済に逆行し、再審法の改悪になりかねず、事務当局案そのものではないかという意見書を出して抗議しました。
なかには、裁判所が再審請求をできるだけ早く調査して、請求の理由がないと認めた場合は棄却するよう義務付ける案が組み込まれていました。
2024年、再審で無罪が確定した袴田巌さんの無罪を決定づける証拠が開示されたのは、再審請求から29年経った後。袴田さんの再審開始と釈放を認めた村山浩昭元裁判官は「この案だと袴田さんの再審は開かれなかった」といいます。
また、弁護士の委員3人は審理に集中し議論を充実させるために、乱用にあたる再審請求の対象を効率的に絞り込む規定を投げかけてしました。しかし、このままだと迅速に棄却されるだけの案だと懸念を示します。
●鴨志田祐美弁護士:
「棄却してしまったら、その後の事実の取調べも証拠開示にも繋がらない。冤罪被害者の救済するという原点を見失った議論になっている」
また村山元裁判長のもとには証拠開示について、現役の東京高裁の裁判官から手紙が届いたと言います。
●村山浩昭元裁判長:
「証拠開示の範囲を狭めてしまっては再審請求事件は今よりもっと開始になりにくくなる。証拠開示について裁判所の裁量を残してほしい。裁量権を奪って現場の裁判官の手足を縛るようなことはしないでほしい」
村山元裁判長はこれは絶対譲れない点だと主張し「再審請求事件の審理をやったことがなく苦労したことがないからこんなことが言えるのだ」と批判しました。
また、弁護士側の委員は再審法改正を早期に実現する議員連盟が作成し、先の国会に提出されている「幅広い証拠開示を裁判所が検察に命じる」ルールや検察官の不服申し立て禁止を盛り込んだ法改正案に、全面的に支持すると伝えました。
一方で裁判所の権限による証拠開示命令については、検察官に対し証拠開示を命じなければならないとする「義務付け規定」とすることに双方が一致しました。
再審法の改正をめぐっては、議員立法と同時に法務省諮問機関の法制審議会でも議論が進められています。
しかし、法制審議会では「幅広い証拠開示」や「検察官による抗告禁止」に否定的な意見が多く、えん罪被害者の救済に繋がらす、現状よりも後退すると危惧されています。
法務省は法制審からの答申を踏まえたうえで、内閣提出法案としての改正法案を作り、来年の通常国会での提出を目指しています。次回の部会は23日に開かれます。

