【特集】日本最古の団地が静岡市にあった!
静岡市葵区にある「羽衣団地」。静岡市民にもあまり知られていませんが、実は知る人ぞ知る「日本最古の公営団地」です。(取材・文=三浦徹)
静岡市葵区駒形通に2棟建っている「羽衣団地」。1948年に着工した、地上4階地下1階の鉄筋コンクリート造の市営住宅です。設計した年から「48型」と呼ばれるこの建物は、日本最古の鉄筋コンクリート造の公営団地です。当時の最先端の技術ともいえる鉄筋コンクリート造の集合住宅。なぜ静岡市に建てられたのでしょうか?
●静岡市まちづくり公社 住宅管理課静岡事務所 牛田智之所長:
「1940年の静岡大火と1945年の静岡空襲により、静岡市街地は多くの被害にあいました。これをきっかけに、静岡市では都市の防火について関心が高まりました。そこで出てきたのが、鉄筋コンクリートの建物を防火帯として活用し、市街地を守ろうというアイデアで、建設を国に働き掛けたといいます」
防火帯とは不燃建物で帯状の耐火建築の壁を作り、他の建物等を火災から守ることを目的として建設された建物です。「羽衣団地」は翌年に建設された「新通団地」「駒形団地」の2つの建物と並び、4つの建物が1列に並んで防火帯を形成していました。
部屋の間取りは6畳と8畳の2K。当時としては珍しい水洗便所やガス設備を完備し、地下には共同浴場をそなえていました。当時の家賃は1200円、現在の価格に置き換えると4万円~5万円にあたるということです。
1948年に作られた「48型」。実は羽衣団地の他にも長崎、福岡、広島、下関に1棟ずつ残っています。しかし住宅以外の用途になっていたり、ほとんど人が住んでいないなど、公営団地としての役割を果たしているところはないということです。当時建てられた建物はほとんどが取り壊されたり、建て替えられたといいます。羽衣団地はなぜ、まだ残っているのでしょうか?
●静岡市まちづくり公社 住宅管理課静岡事務所 牛田智之所長:
「敷地が限られていて、入居者が多かったので、立て替えが難しかったというのが理由です。建物的に大きなトラブルも発生していなかったので既存のまま入居させている状態です」
一般的に団地の立て替えは、住民に空いているほかの棟に一時的に引っ越してもらい、建て替えをすすめます。しかし、ここに建物は4棟しかなく、住民も多かったためその作業が難しかったといいます。
また、当時の職人が最高技術を尽くして作った建物だったため、建て替えなければいけないような不具合がなかったということです。耐震性も問題がないそうです。
このため、「羽衣団地」では建て替える代わりに、部屋に浴室をもうけたり、新たにベランダをつけるなど、リフォームを重ねてきたといいます。現在「羽衣団地」は歴史的な建物として注目されていて、全国各地から建築を学ぶ大学生や研究者が訪れるそうです。
リフォームにより、進化してきた羽衣団地ですが、2棟48戸のうち、6割に当たる29戸に現在も人が住んでいます。最も古くから住んでいる人は1980年に入居した人です。リフォームをしているとはいえ、完成から70年以上経っている建物にこれだけ人が住んでいるのは驚きです。
●静岡市まちづくり公社 住宅管理課静岡事務所 牛田智之所長:
「今も住民が多く住んでいる一番の理由は利便性が高いことです。駐車場はありませんが、商店街や公共交通機関があったり、病院や町からも近い。なので出る人が少ないんです」
「羽衣団地」はすぐそばに商店街があり、静岡市の中心街にも歩いていける距離。静岡市役所、県庁も徒歩圏内。静岡駅までもバスで1本でいけます。当然、家賃相場も高いのですが、「羽衣団地」は周囲に比べると家賃は割安。多少建物は古くても、魅力を感じる人は少なくなくないのでしょう。
12月21日、羽衣団地の一室には8人が集まりました。この日は静岡市が主催する「市営羽衣団地見学ツアー」が行われました。静岡市では毎月1回程度、ツアーを行っています。
参加者はおよそ30分、建物の歴史や概要について説明を受けます。部屋にはイメージしやすいように当時の家具やテーブルなどが置かれています。参加者は食器棚、配膳口、手洗い場などを当時のままの施設を見学し、写真におさめていました。
そして一行が、次に向かったのは地下にあった共同浴場。「浴場は8世帯ごとに1つ設けられていて、時間や曜日などそれぞれのローカルルールに基づいて世帯ごとにお風呂に入っていた」という説明をうけ、木製の浴槽をのぞき込む参加者たち。この風呂は、1979年に各部屋に風呂が設けられた後は、使われなくなったということです。
最後に一行が向かったのは屋上。各部屋にベランダができる前は、住民がここで洗濯物を干していたそうです。現在は鍵がかけられていて、普段は住民も立ち入ることができません。今は県庁など高い建物が立ってよく見えませんが、昔は富士山もよく見えたといいます。
静岡市では「羽衣団地」を見学するツアーを月に1回程度実施しています。なぜ実施しているのでしょうか?
●静岡市まちづくり公社 住宅管理課静岡事務所 牛田智之所長:
「みなさんに建物を見ていただいて、歴史的な価値を知っていただきたいと思うとともに、この建物の今後の活用法についてアイデアを募っています。参加した皆様にアンケートをとって、『みなさんだったらどうしますか』というのを聞いています」
参加した人は…。
●参加者・親子(母50代 娘30代 静岡市):
「なかなか古いものを見ることができないので面白そうだと思いました」
「こういう戦後すぐにできた団地があるのは知りませんでした」
Q今後の活用法は?
「壊されたらさみしい。多世代が交流できる場所。学生と高齢者が住むようなお互いたすけあうようなそういう住宅もいいのかな」
●女性(市内、60代):
「近くに住んでいて、生まれた時にはあった建物。中を見たことはなくて良い機会だと思って申し込みました。建物があることは知っていましたがそんな古いものだとは知らなかった。意外と中が広かった。きれいにしていたけど、ちょっと寒い感じはしました」
Q今後の活用法は?
「歴史的にも価値があると思うので博物館のように残すのはどうかなと思います」
●女性(県外)
「団地が好きで、全国の団地を見ています。きょうはこのために静岡にきました。48型は初めてで、しかも中まで見れるのは貴重。きてよかった」
Q今後の活用法は?
「自分ならば、建て替えないでこのままでホテルにしたい。好きな人はいると思うし、ふとんだけあればいいので」
いまなお現役の「羽衣団地」ですが、残念ながら現在は新規の募集を停止しているということです。理由について静岡市は「利活用を検討しているため」としています。