「ロンドンにも神社があったらいいのに」日本人女性の思いがきっかけに 清水からロンドンへ海を渡る神輿

静岡市清水区の神輿が様々な縁で、このたびロンドンに渡ることになりました。そこには日本の文化と伝統をイギリスに住む日本人家族と子どもたちに伝えたい、という日本人女性の思いがありました。(取材・文=三浦徹)

海外へ神輿を輸出するきっかけになったのは、1人の日本人女性の存在でした。東京都出身の大貫久子(おおぬき・ひさこ)さん。

「ロンドンにも神社があったらいいのに」日本人女性の思いがきっかけに 清水からロンドンへ海を渡る神輿

ロンドンには、企業の駐在員や国際結婚をした人の家族など、日本につながりのある子どもたちが大勢いるそうです。そんな子どもたちに、日本語や日本の文化を教える教育施設を2002年に立ち上げた大貫さん。子どもたちやその家族に、日本の文化や伝統を伝える中で、「ロンドンにも神社があったらいいのに」という思いが強くなったといいます。

●大貫久子さん:
「現在、何万人という日本人が暮らしているロンドンには、お寺はありますが、神職のいる(神社神道の)神社はありません。幼児教育現場を通して、現地の家族とかかわって20年近く経った時、例えば七五三などの機会に、着物を着て写真を撮るだけでなく、本当にご祈祷してもらえるような場所、そして日本を離れて住んでいる人たちの心の拠り所になるような場所があったらいいなと思い始めました」

大貫久子さん
大貫久子さん

2019年頃から神社活動をする準備を始めてきた大貫さん。神職になるため日本の神職養成機関で学びました。

神社活動を始めるにあたり、必要なものを考えた時、神社につきものの神輿は必ずほしいと思ったそうです。そして「御神輿がほしい」と言葉に出して何日も経たないうちに、知人の紹介で、静岡市の神輿の話がやってきて、それをゆずりうけることが決まりました。

大貫さんはロンドンで日本語や日本の文化を教えている
大貫さんはロンドンで日本語や日本の文化を教えている

大貫さんの要望に応えたのは、静岡市清水区の神輿愛好家からなる「清水港會」でした。

「清水港會」は神輿の愛好家が1972年に結成し、現在およそ100人のメンバーがいるということです。毎年8月に行われる「清水みなと祭り」に参加しています。

共通の知人から「神輿が欲しい」という大貫さんの願いを知った清水港會。そこで思い出したのが、行き場を失ったある神輿の存在でした。

●清水港會 伴忠秀会長:
「もともと東海大工業(現東海大静岡翔洋)のOBで結成された、神輿愛好家の団体が所有していた神輿がありました。しかし担ぎ手がいなくなったため、30年ほど手入れもされない状態で放置されていました」

清水港會では、廃棄されることになっていたその神輿を譲り受け、ロンドンへ送ることになりました。

ロンドンに輸出される神輿
ロンドンに輸出される神輿

      

「ロンドンにも神社があったらいいのに」日本人女性の思いがきっかけに 清水からロンドンへ海を渡る神輿

そして、大貫さんを紹介してくれた知人の勧めで、ロンドンに送る前に、大阪万博で海外の人にその神輿をお披露目する機会を得たということです。「清水港會」のメンバーたちが、2025年の10月に大阪・関西万博の観客の前でこの神輿を担ぎました。

●清水港會 伴忠秀会長:
「日本の伝統芸能として、世界に対していいPRになりました。いろいろな国の人に『これいいよね』って声掛けしてもらえました。神輿はこれからロンドンに渡りますが、万博で認められたことでストーリー性ができました」

大阪・関西万博で神輿を披露(2025年10月)
大阪・関西万博で神輿を披露(2025年10月)

2月17日、ロンドンに送られる神輿を保管してある、静岡市清水区に大貫さんがやってきました。この日は輸送業者など関係者が集まり、神輿の輸出についての打ち合わせが行われました。この時、大貫さんは実物の神輿を初めて見ることになりました。

輸出の打ち合わせのため静岡市清水区に関係者が集合
輸出の打ち合わせのため静岡市清水区に関係者が集合

●大貫久子さん:
「とても立派な御神輿で驚きました。大切にさせていただき、ロンドンのお祭りで担いでいただける機会を作っていきたいと思います。このように立派な御神輿をご寄贈賜り、清水港會様には心より感謝するとともに、この御神輿が、静岡・清水とイギリス・ロンドンを結ぶ架け橋となることを願っています」

廃棄される予定だった神輿をゆずりうけて、渡英に向けて整備していた清水港會。いよいよ神輿がロンドンに渡ることになった思いは?

●清水港會 伴忠秀会長:
「日本の伝統芸能が海外で評価されて、受け入れられるのがすごくうれしい。まして自分たちが大切に担いできた貴重な神輿がロンドンに行って、新しい命を吹き込んでもらえる。こっちにいたら廃棄されていたものが、第2の命をもらって、向こうではばたけるのはすごくありがたいと感謝しています」

神輿はお社と一緒にコンテナに入れられ、5月ころ清水港から船で運ばれます。ロンドンまでは船で1か月半から2カ月かかるそうです。「神輿を海外に送る」ということはあまり例がないことなので、税関でも時間がかかるそうです。

輸出に先立ち行われる出立式は、3月7日に静岡市清水区の御穂神社で行われ、静岡市の難波市長らも出席する予定です。

清水港會では、神輿をロンドンで披露するための「ロンドン渡御実現資金」として、クラウドファンディングを実施します。

「清水港會」の伴会長から神輿の説明を受ける大貫さん
「清水港會」の伴会長から神輿の説明を受ける大貫さん