「スターマイン!」なぜ叫ぶ? 安倍川花火大会で長年受け継がれる掛け声に込められた慰霊と平和への祈り 静岡市
7月18日に行われた静岡市の夏の風物詩「安倍川花火大会」。2年ぶりの開催とあって大いに盛り上がりましたが、大会であらためて注目されたのが、ある掛け声でした。(取材・文=三浦徹)
第73回を迎えた安倍川花火大会は、1953年に静岡大空襲などの戦没者の慰霊と鎮魂、復興への祈りを込めて始まりました。
去年は大雨で安倍川が増水したため大会は中止。今年は2年ぶりの開催となりました。
実は筆者は20年以上静岡市に住んでいますが、一度も安倍川花火大会に行ったことがありません。人混みが苦手なことや、家から遠いこと、静岡駅からのアクセスがあまり良くないことなどを理由に、これまで敬遠してきました。しかし今回は配信があったため、初めて見てみることにしました。
花火を配信で見ることには少し抵抗がありましたが、場所取りの心配もなく、帰りの交通手段を気にする必要もありません。エアコンの効いた涼しい部屋でビールを飲みながら花火を眺めるのも悪くありません。画面越しではありますが…。
「スターマイン」と叫んでいるのは誰?
初めて見た安倍川花火大会は、打ち上げられる花火の数も多く、かなり規模の大きな大会でした。しかし、花火以上に気になったのが、会場に響き渡る女性司会者の掛け声です。
「スターマイン」の花火が打ち上がるたび、「スターマイン」という掛け声が静岡の夜空に響きます。これまで多くの花火大会を見てきましたが、このような掛け声は聞いたことがありません。あの掛け声は一体何なのでしょうか。
当初は花火の名前だと思っていましたが、「スターマイン」という単独の花火があるわけではなく、短時間に連続して打ち上げる花火の演出を「スターマイン」と呼ぶそうです。
そして、この「スターマイン」の掛け声は、実は安倍川花火大会の名物。来場者も同じタイミングで声を合わせるのがお約束なのだそうです。
それにしても、「スターマイン」と叫んでいるのは誰なのでしょうか。
大切な思いが空に届くように
筆者は大会実行委員会を通じて、司会を務める女性に話を聞くことができました。
美声の持ち主は、大会の司会を務めた小栗美雪(おぐり・みゆき)さん。冠婚葬祭などの司会業の傍ら、20年ほど前から安倍川花火大会に携わってきました。司会を務めるようになったのは2022年からで、今回が4回目だということです。現在は静岡市葵区の「浮月楼」でブライダル業務を担当しながらラジオパーソナリティーなど声の仕事も続けています。
●小栗美雪さん:
「大会の司会は2022年に先代から引き継ぎました。安倍川花火大会の司会は30年以上前からオフィス声元代表の岸好子(きし・よしこ)さんが32回務めていて、岸さんは大会では有名な司会者でした。『スターマイン』の掛け声も岸さんが始めたと聞いています。私も全国のいろいろな花火大会について調べましたが、この掛け声をしている花火大会は見つかりませんでした」
「スターマイン」自体は全国各地で打ち上げられていますが、このような掛け声はほとんど聞いたことがありません。なぜ安倍川花火大会で始まったのでしょうか。
背景には、この大会が始まった経緯がありました。
安倍川花火大会は、第二次世界大戦の静岡大空襲などで亡くなった人たちの慰霊と鎮魂、そして復興への祈りを込めて始まりました。大会前には毎年、慰霊法要も営まれています。
●小栗美雪さん:
「岸さんの事務所に所属し、長年一緒に安倍川花火大会に携わってきました。掛け声を始めた理由について岸さんは『お坊さんが塔婆を立て、亡くなった人を供養するような気持ちで声を発している』と話していました。私も岸さんの思いを受け継ぎ、大切な人を亡くした方の思いが空に届くように、地上の人と空の人がつながるようにという思いを込めて声を出しています」
そういえば、「スターマイン」の掛け声は、「スターーマイーーン」と夜空へ広がっていくような独特の節回しです。どこか厳かな印象を受けるのも、そんな理由があるからなのかもしれません。
22回叫んだ「スターマイン」
「スターマイン」よりさらに規模の大きい「大スターマイン」「特大スターマイン」もあり、今回の大会で小栗さんが「スターマイン」と叫んだ回数は、合わせて22回に上ったということです。
●小栗美雪さん:
「この花火には、亡くなった方への鎮魂や、世界が平和でありますようにという願いが込められています。自分の声を通して、平和について考えたり、大切な人を思い出したりする特別な時間を皆さんと共有できたらいいなと思っています。世界平和というと大げさかもしれませんが、みんなの気持ちが少しでも温かくなって、『明日も頑張ろう』と思ってもらえたらうれしいです」
2022年の大会からこの司会を引き継いだ小栗さん。特に申し送りがあったわけではないそうですが、「スターマイン」の掛け声だけは続けていかなければならないと思ったそうです。
●小栗美雪さん:
「大会でプロポーズする人もいるそうです。亡くなった方を思い出したり、プロポーズをしたり、親子三代で訪れたり…。いろいろな人の人生が詰まった特別な一日を、マイクを通して預かることができる、本当に素敵なお役目です。依頼がある限りは、続けたいと思っています。プレッシャーはありますが(笑)」
筆者も来年は会場を訪れ、小栗さんの生の「スターマイン」を聞きに行きたいと思いました。
※今年の安倍川花火大会の模様はYouTubeの「静岡朝日テレビ公式チャンネル」で見ることができます。