「税金払ってるんだから」「同じ会話が2時間以上」知られざる市役所のカスハラの実態は? 静岡市がマニュアルを作成

最近、社会問題になっているカスタマーハラスメント(カスハラ)。商店などが対象となるイメージが強いですが、実は市役所などでも多くのカスハラが存在しています。これを受け、静岡市ではカスハラの対応マニュアルを3月に初めて作成しました。(取材・文=三浦徹)

静岡市は2024年8月、実態を把握するため、「職員に対するカスタマーハラスメント実態調査」を初めて行いました。対象は静岡市役所に190あるすべての部署で、2022年4月から2024年7月までの間に職員が市民等から、受けたカスハラの事例について尋ねたものです。

結果は下記の通りでした。

●カスハラ事案の有無
事案あり…99部署
事案なし…91部署
※事案の件数…353件

●業務内容別件数(上位)
国民健康保険関係…38件
土木・道路関係…34件
児童福祉関係…26件
その他市民生活関係…23件
総務関係…22件

多くの市民の生活に関係する業務で、カスハラ事案の件数が多いことがわかります。

●カスハラへの対応時間 (事案ごとの「1回あたりの対応時間」×対応回数の合計)
※延べ約4343時間(参考:正規職員1人当たりの1年間の勤務時間=約1860時間)

●業務内容別(延べ対応時間 上位)
児童福祉関係…1553.2時間
防災関係…594.8時間
土木・道路関係…593.4時間
広報・広聴関係…173.6時間
水道関係…173.3時間

防災関係、広報・広聴関係、水道関係は対応件数では上位に挙がっていません。これらの業務に関しては1つの事案に関して、1回あたりの対応時間が長くなっていて、カスハラ対応に長時間を要する状態となっていることがわかります。

●事案1回あたりの対応時間(上位)
30分以上60分未満…148件
60分以上90分未満…85件
30分未満…63件

事案1回あたりの対応時間は短時間が上位を占めました。一方で120分以上の対応時間をかけている事案も36件存在し、職員がその対応を打ち切ることができず、対応時間が長時間にわたるケースがあることががわかります。

●事案あたりの対応回数(上位)
1回のみ…93件
2、3回…88件
10回以上…81件

1事案あたりの対応回数は、1回~3回が全体の半数を占めています。一方で10回以上にわたって対応する事案が81件あり、特定の市民等から繰り返し対応を求められる事案に対して、職員が対応せざるを得ない状況が生じていることがわかります。

●行為の態様別(上位)
時間拘束…279件
暴言…225件
リピート型…199件
対応者の揚げ足取り…175件
正当な理由がない過度な要求…155件

時間拘束や暴言などの行為は、明確に違法であると評価することが難しく、職員がその対応に苦慮している状況がわかります。

一方で明確に違法であると比較的評価しやすい「暴力」「脅迫」「セクハラ」に分類される事案も一定程度存在していて、カスハラ事案によって、職員が精神的、身体的に直接危険にさらされる状況が存在することがわかります。

静岡市役所
静岡市役所

●静岡市 人事課 人事第2係 杉山良雄係長(※):
Q調査の結果でわかったことは?
「調査の結果明らかになったのは120分以上の電話が1割以上あることです。最近は通話料が無料の電話も多く、2時間3時間話される方もいます。建設的な議論がされている中の2時間ならいいのですが、説明をつくしても同じ話が延々と繰り返される。もうできることがないのであれば、そこは市としては打ち切るべきです。2時間同じ話をするというのはお互いにとって何も生みません」

また、一般の商店などとは違った、市役所ならではの「カスハラ」の問題も明らかになったといいます。

●静岡市 人事課 人事第2係 杉山良雄係長(※):
「よく言われる言葉が『税金払ってるんだから』。『私の払っている税金があなたの給料になるんだから、ちゃんとやりなさいよ』という人が多くいます。民間の企業であれば顧客の数は限られるので、直接関連がない人がクレームをつけてくるケースはあまりないと思います。しかし、市役所は市民全部が顧客となるので、いろいろな方が来ます。確認はできませんが、市民じゃない人もいると思います」

この調査結果を受け、静岡市では「静岡市職員カスタマーハラスメント対応マニュアル」を3月に作成しました。

マニュアルではカスハラを「市民等からのクレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、職員の勤務環境が害されるもの」と定義しています。

●静岡市 人事課 人事第2係 杉山良雄係長(※):
Q職員の勤務環境が害されるとは
「市民等の言動により、職員が心を病んでしまうとか、電話をとることにおびえてしまうとか、窓口に市民が何度も来ることで、窓口に出ることすら怖くなる。こういうことがでてきます。またその職員が対応に追われることで、他の市民サービスに影響が出ることも考えられます」

マニュアルではカスハラの前提として、市の職員に「丁寧な初期対応」「相手に寄り添った対応」「行政サービスの利用者等の特性に応じた対応」をとるよう求めています。

その上で、担当者や上司らが相互に連携して、組織として市民等に対応しカスハラかどうかを判断するとしています。

●静岡市 人事課 人事第2係 杉山良雄係長(※):
「担当者個人で判断をせずに、組織として判断をしましょうということです。今までも各所属で、その都度ひどいものは警察に通報したり、内部で法的措置を検討したりと個別に対処していました。今回マニュアルをつくることで、みなに共通する一つのものを作りました」

今回初めてカスハラのマニュアルを作った静岡市。ただ、市民からのクレームが直ちにカスハラになるわけではないと杉山さんは警鐘を鳴らします。

●静岡市 人事課 人事第2係 杉山良雄係長(※):
「誤解しないでいただきたいのは、『電話を2時間以上切ってくれない』『何度も市役所を訪れてクレームを言われる』という事案が直ちにカスハラになるわけではないということです。市として説明が十分でない可能性もあります。ただし職員が説明を尽くしたうえで、そういう事案があったとしたら、カスハラになる可能性もあります。静岡市としては市民に『職員はしっかり対応しますので、市民の方もカスハラになる行為は避けて下さい』とお願いしたいと思います」

Q職員が「説明を尽くした」と思っていても、市民はそう思っていないこともあるのでは?
「担当の職員だけですと難しいとは思いますが、組織として対応することで、その部分は客観的に判断したいと思います」

カスハラと判断されたその後の対応については「担当者に任せきりにせず、組織的に対応する」「カスハラには警告を行う、対応を中止するなど毅然と対応する」「悪質な事案に対しては法的措置の検討や警察への通報等を行う」としています。

カスタマーハラスメントマニュアルは、これまで政令市では、札幌市やさいたま市でなどで作成されていて、静岡市は6番目です。

※所属は2025年3月当時のものです

静岡市人事課 杉山良雄係長(所属は2025年3月当時)
静岡市人事課 杉山良雄係長(所属は2025年3月当時)