「もう歩けないかもしれない」病気から奇跡の復活を果たした「ひろみちお兄さん」がみんなに伝えたいこと
静岡県伊豆市では4月27日、親子体操教室が開かれました。講師は子ども番組でおなじみの「ひろみちお兄さん」こと佐藤弘道さん。佐藤さんは2024年に伊豆市で体操教室を開いた後、病気にかかり、懸命にリハビリに取り組んでいました。(取材・文=三浦徹)

病気は突然に
4月27日、静岡県伊豆市の修善寺東小学校で親子体操教室が開かれました。大きな拍手とともに、ゆっくりと歩いて登場したのは講師の佐藤弘道さん。佐藤さんはNHKの「おかあさんといっしょ」で、体操のお兄さんを長年務め、「ひろみちお兄さん」として親しまれています。
伊豆市では3回目となる親子体操教室ですが、実は今回は開催が危ぶまれていました。2024年、伊豆市で体操教室を開いた後、6月に佐藤さんは病気で倒れたのです。仕事で鳥取県に行く途中のできごとだったといいます。
●佐藤弘道さん:
「去年5月に伊豆市で教室をやってそのあとです。前触れはありませんでした。朝、目が覚めた時に左足がしびれて。そこから羽田に移動したのですがだんだん気分が悪くなってきて、腰回りが万力で締め付けられるような状態でした。とりあえず行けるとこまで行こうかと飛行機に乗りましたが、乗るときから階段も登れないほど足が痛くて、席についても痛みが強くて、じっとしていられないくらい。飛行機が到着し立とうとしたらもう完全に麻痺していました。そのまま鳥取の病院に救急搬送されました」

飛び降りようと思った
佐藤さんは余り症例のない「脊髄(せきずい)梗塞」と診断されました。「脊髄梗塞」は脊髄の血管がつまり、下半身が麻痺する病気です。起き上がったり、歩くことは困難で治療法はないとされています。
●佐藤弘道さん:
「脊髄梗塞がどういう病気かわからないので、スマホで調べました。そしたら治療法がなくて、一生治らないというのをそこではじめて知りました。その時は飛び降りようと思いました。自殺する人の気持ちってこういう気持ちなんだと」
ーー医師からは「もう歩けない」と?
「作業療法士さんに言われました。でもその時は『まあしょうがないですね』みたいに軽い感じで言われたので、あまり深刻な感じにならなくて、逆に助かりました」

リハビリで奇跡が
気持ちを切り替えた佐藤さんはすぐにリハビリを始めました。発症からわずか4日後のことでした。
●佐藤弘道さん:
「関節を動かしてもらったりとか、ひざやももの付け根を動かしてもらって。それがだんだん自分でできるようになって、という段階を踏みました。発症して6週間後くらいから杖を使って歩くことができました。奇跡だとみんなに言われました。整形外科の先生たちも見たことがないと」
ーー今もリハビリは続けている?
「今も週に1、2回、外来に通院しています。その他、大学のつながりでパーソナルトレーナーさんがいるので、週に1回、筋肉トレーニングをしています。そこには理学療法士さんもいるので安心して通っています。今もここ(腰回り)は全く麻痺していて、触ってもお湯をかけても分かりません。足は24時間ずっとしびれています」

誰にでも歩ける可能性はある
奇跡的ともいえる復活を果たしたひろみちお兄さん。同じように病に苦しむ人にエールを送ります。
●佐藤弘道さん:
「佐藤弘道は『もう歩けない』といわれた脊髄梗塞になったけど、歩いている。同じような病気と闘っている人にも、『自分も歩けるようになるかも』と思ってほしい。脊髄梗塞以外にもリハビリに通ってる方はたくさんいますが、リハビリってすぐ効果が出ない。1カ月後なのか3か月後なのか、いつまでやればいいのかわからないので挫折する方が多い。うつ病になってしまう人もいます。『あすあさってのためではなく、1年後を見据えたリハビリなので、一緒に頑張りましょう』とリハビリをしてる人たちに発信しています」
ーー体を鍛えていた佐藤弘道さんだから歩けるようになった。「普通の人は無理でしょう」と思っている人もいるのでは?
「それは違います。病気とかリハビリはみんな一緒です。病気はいつだれがなるかわかりませんが、自分が歩けるようになったということは、誰にでも可能性があるということです。僕も頑張っているので一緒に頑張りましょう!」

親子体操の効果は医学的に証明
伊豆市の親子体操教室は、3年連続で3回目の開催です。市内の3~5歳児とその家族が対象で、応募した268人の親子が2回に分かれて、参加しました。
佐藤さんは「親子体操教室」の研究により、弘前大学で博士号をとったこの分野のエキスパートです。これまで全国500か所以上で親子体操教室を実施しました。
●佐藤弘道さん:
「親子体操の効果はきちんと医学的に証明されています。親にとって育児ストレスや抑うつ度の点数が下がる。睡眠の質が上がるという効果もあります」
親子体操の特徴は親子ペアになって体を動かすこと。親が子どもを抱っこしながら飛んだり跳ねたり。なかにはしがみついた子どもを落とさないように親が体を動かす運動も。子どもは笑顔ですが、親はちょっと大変そう。
●佐藤弘道さん:
「子どもは同じ動きを繰り返し行うことで運動能力が上がります。親はみんな子どものためにやっている感じなんですけど、実は親のほうにすごく効果があります。20代30代の若いうちから体を動かすことを子どもを通じてすることによって、生活習慣病の発症を遅らせる可能性があります。ぜひ親子体操を続けてほしいと思います」
佐藤さんの親子体操教室を定期的に行っているのは、静岡県内では伊豆市だけ。伊豆市では来年も体操教室を開く予定です。

「当たり前」の反対語は「ありがとう」
無事、親子体操教室を終えた佐藤さん。病気で倒れた時に、応援してくれる人の声に勇気づけられたといいます。
●佐藤弘道さん:
「病気になって皆さんからメッセージをたくさんいただきました。そのメッセージがなかったらここまで回復できていなかったと思います。みなさんにはすごく感謝しています。今、自分が病気になって、当たり前のことが当たり前じゃなくなってしまいましたが、今はその当たり前のことにすごく感謝できるようになりました。朝起きた。当たり前だけどすごくうれしいこと。ベットから立ち上がる。立てるようになった。立てることってこんなに幸せなんだ。そこから歩いてリビングに向かう。歩けるってこんなにありがたいことなんだ。『当たり前』の反対語は『ありがとう』ということが分かりました。ぜひ皆さんも当たり前のことに感謝できるように気づいてほしい。優しい気持ちになれます」
