“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ

“トランプ関税”が追い風になるかも

中村花ディレクター(静岡・葵区):「アメリカが引き上げた関税は、静岡の名産・お茶にも影響を与えています」

 静岡市で、日本茶の輸出を手掛ける「ヘリヤ商会」。輸出を始めたのは、なんと明治時代。以来、世界各国に日本茶を輸出してきました。

“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ

 ここ10年、右肩上がりが続いている日本茶の輸出額。去年は360億円を突破し、過去最高を更新しました。中でもアメリカは、その半分近くを占める重要な輸出先です。

“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ

ヘリヤ商会 谷本宏太郎社長:「手摘みのかぶせ茶やぶきたです。これが10キロ。シカゴのスピリットティーさんに行きます」

 アメリカに対して年間100キロ以上の輸出を行っているヘリヤ商会。トランプ関税の影響について聞くと、意外な答えが…。

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ヘリヤ商会 谷本宏太郎社長:「世界中どこの国も関税がかかるし、日本は24%で低い方なので、お茶を作っているところはみんな日本より関税が高いので、日本は優遇されている。安い中国の粉末緑茶と日本の粉末緑茶だったら、今は日本の方が安い可能性もある。(関税が)追い風になる可能性はある」

“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ

 当初、トランプ大統領は世界有数のお茶の生産国である、中国やインド、スリランカに対し、日本よりも高い関税を設定(日本24%、中国34%、インド26%、スリランカ44%)。

 今後の関税交渉次第では、日本茶の輸出にとって、「追い風になる可能性」もあるといいます。

 思わぬ形で、チャンス到来、と思いきや、そうもいかない、深刻な事情が…。

ヘリヤ商会 谷本宏太郎社長:「関税があろうがなかろうが、輸出する抹茶がない。追い風があっても受けられない。つい最近は“抹茶クライシス”と呼ぶように、抹茶が大ブームになって、みんな入手困難な状況になっています」

“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ

海外で人気の抹茶…生産が追い付かない

 実は今、日本の抹茶は海外で大人気なんです。イギリス・ロンドンのコーヒーフェスティバルでは、コーヒーではなく、抹茶ドリンクを求めて、多くのお客さんがつめかけ。アメリカ・ワシントンのスーパーを覗いてみると、棚に並んだ抹茶は売り切れに。

 カテキンやビタミンを豊富に含む、抹茶。健康志向の高い欧米で、スーパーフードと並ぶ存在として、人気に火が付いています。抹茶を含む、粉末緑茶の輸出量は、5年間で2倍以上増加。欧米では、日本の抹茶が特に人気だという、オーガニックの抹茶の買い占めが起きているんだそうです。

ヘリヤ商会 谷本宏太郎社長:「数年前から抹茶の需要はどんどん高まって、今年になって爆発的に引き合いが増えていて、世界中から新規の申し込みが来ている」
Q.今までこんなことはあった?
A.「ちょっと考えられない。みんな困ってます」
Q.増えすぎて?
A.「10%20%増だったらどうにかなるけど、うちの場合は4倍なので、どうにもならない」

 こちらの会社では、海外からの抹茶の注文が去年までの4倍に急増。しかし、抹茶が足りず、新規の注文が受けられない、まさに“抹茶クライシス”。

“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ

 抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)の国内での生産量は、近年徐々に増えていますが、静岡県を見てみると、ほぼ横ばいの状況に。

“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ

 生産量では、1位・鹿児島、2位・京都に次ぐ、3位となっています。

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静岡で抹茶生産が進まない理由は

中村花ディレクター:「世界的に抹茶の需要が非常に高まる中、なぜ静岡で抹茶の生産が進まないのでしょうか」

 静岡市の山あいにある、足久保地区。“静岡茶発祥の地”として知られ、古くからお茶の生産が盛んに行われてきました。契約農園でオーガニックの抹茶を栽培している本山製茶。海外での人気の高まりを見据え、2016年に生産を始めました。

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本山製茶 海野桃子社長:「覆いを二重にして、周りも全部囲って棚の中で栽培しています」
Q.覆いはなぜ被せる?
A.「覆いを被せることで、テアニンが(しぶ味成分の)カテキンになるのを遮り、うま味と甘みがまろやかな抹茶になる」

“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ

 これは、お茶の木に覆いを被せる、覆下栽培。こうして作られたお茶は碾茶と呼ばれ、この鮮やかな濃い緑の碾茶を、石臼ですりつぶすと、抹茶が出来上がります。同じ木からなるものの、育て方が異なる煎茶と碾茶。実はこの栽培方法が一つのハードルになっているんです。

本山製茶 海野桃子社長:「茶業全体の後継者不足や高齢化問題が、そのまま抹茶生産の課題につながっている。覆下栽培をするには覆いを被せないといけないが、その手間が一つ多い」

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 深刻な人手不足と高齢化に直面する業界にとって、覆下栽培は想像以上に大変な作業なんだそう…。

 さらに、静岡ならではの課題も…。

本山製茶 海野桃子社長:「まだ静岡の山のお茶は二人刈(ににんがり)で、3人ぐらいで刈る状態だが、大量に栽培するには、乗用茶刈機を入れて刈る摘採方法を求められる」
Q.その点静岡はやりにくい地形?
A.「平地が少ない山の地形なので、なかなか基盤整備が進まない。それに加えて人手不足と高齢化で大変な状況となっています」

“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ

 中山間地域に茶畑が多い静岡とは対照的に、鹿児島は平地に茶畑が多く、効率的に大規模生産体制が整ってきました。お茶の栽培面積こそ全国1位の静岡県ですが、荒茶生産量は、去年鹿児島に抜かれ、史上初めて2位に転落。碾茶生産でも、機械化による効率的な生産体制の整備は重要な課題です。

 海外で人気なオーガニックな抹茶を作るのは、さらにハードルが高く、農薬を使っていた畑を3年寝かせる必要があるそうで、その間の経営維持も、転作に踏み切れない要因になっているといいます。

“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ

本山製茶 海野桃子社長:「3年目4年目ぐらいが、収量も減って病気も出てきて、非常に栽培にとって困難と壁にぶち当たる時期なので、そのあたりが経済的にも精神的にも非常に苦しいところ」

 本山製茶は、一時的に生産が落ちこむのを覚悟で、転作に踏み切ったそうです。静岡の茶業界は“抹茶クライシス”と、稼げる抹茶生産への転換の難しさという、2つの問題に直面しています。

本山製茶 海野桃子社長:「需要に合わせて生産方法を変化させていくことが非常に重要。栽培の条件を変えるというだけで、お客様のニーズにあった商品に変換することができるということで、手間はかかるけど必要なこと。地域ぐるみで仲間をどんどん増やしていって抹茶生産に取り組んでいきたい」

“トランプ関税”が追い風? 輸出が5年前の2倍に 生産が追い付かない…静岡産抹茶が苦戦するヒミツ