鷹匠の風情に浸る。新そばの香りと根セリの滋味 静岡市「手打そば 吉野」
静岡市葵区、鷹匠。新旧の文化が交錯するこの街に、1999年の創業以来、26年にわたり愛され続ける「手打そば 吉野」がある。名店「くろ麦」で修業を積んだ店主の吉野弘倫さんが、「落ち着いた雰囲気が合う」とこの地に構えた店は、ひとりで酒を傾けながら静かに過ごす客も多い、大人の隠れ家だ。
本格的な冬が近づくこの時季、まず手繰り寄せたいのが「葱せいろ」。今年は天候不順で遅れたものの、北海道産の新そばが届いている。十割そばならではの強いコシと、鼻に抜ける爽やかな香りは、新そばの季節だけの特権だ。これを迎え撃つ温かいつけ汁は、カツオ節と昆布で引いた出汁に、たっぷりの刻みネギから出た甘みが溶け込んでいる。さらに、つけ汁の中にはエビと三つ葉のかき揚げが潜んでいる。崩しながら麺に絡めれば、衣の油がコクを出し、サクサク感としんなり感の両方を楽しめるという趣向だ。
そして、通を唸らせるのが、秋田県湯沢から仕入れる「セリ」を使ったそばだ。 冷たいセリのもりそばは、白く長い根っこごと楽しむのが秋田流。刻んだセリをそばの上にのせ、そのまま味わえば、爽やかな風味の中に独特の甘みを感じることができる。キリッとした辛めのつゆとの相性は言わずもがなだ。 一方、温かい「セリの温そば」は、かけそばにセリを豪快にのせた一杯。熱いつゆに浸して「おひたし」のようにしんなりとさせれば、香りが一層引き立ち、冷たいそばとは異なる食感と風味の広がりを堪能できる。
体の芯から温まりたいなら、季節限定の「きのこそば」をすすめたい。天竜産のマイタケをはじめ、ナメコ、ハナビラタケ、ヒラタケなど、その時々の入荷に合わせて6〜8種類のキノコを使用。つゆで煮込むことでキノコから濃厚なダシが染み出し、ナメコのとろみが熱さを閉じ込める。それぞれのキノコが奏でる風味と食感のハーモニーは、まさに秋の味覚の縮図だ。
季節の移ろいを、一枚の器の中で表現する「手打そば 吉野」。鷹匠の路地裏で、旬の香りに包まれる至福の時を過ごしてみてはいかがだろうか。
手打そば 吉野
静岡市葵区鷹匠1-7-10
電話番号:054-255-3277
定休日:火曜日、第3水曜日
営業時間:11:30-22:00
※なくなり次第終了
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