日本初の市役所職員と兼任のシンガーソングライター 静岡・焼津市の「歌う公務員」は2024年に全国デビュー 

焼津市商工観光課の牧野憲人さんは、イベントの企画や運営、地元特産品の販路拡大支援などに多忙な日々を送っています。そんな牧野さんにはもう一つの顔が…。実は牧野さんは2024年に全国デビューしたプロのシンガーソングライター。全国でも例がないという市役所職員兼シンガーソングライターを取材しました。(取材・文=三浦徹)

市のイベントで曲を披露する牧野憲人さん
市のイベントで曲を披露する牧野憲人さん

プロのミュージシャンを目指していたが…

静岡市出身の牧野さんは1990年生まれの36歳。中学時代から音楽をはじめ、大学時代には本気でプロのミュージシャンを目指し、ライブハウスなどで歌っていたということです。しかし、大学を卒業し就職したのは地元の信用金庫でした。

●焼津市商工観光課 牧野憲人さん:
「大学時代は本気でプロを目指し、オーディションも多く受けました。しかし最終選考など、いいところまで行くのですが、あと一歩のところで届きませんでした。そんな状態が続いて次第に自信を失っていきました。もちろんミュージシャンという選択もありましたが、東京で成功するイメージがなかったので、魅力を感じていた地元の信用金庫に就職しました」

学生時代は成人式で歌ったことも
学生時代は成人式で歌ったことも

市役所は思っていたよりクリエイティブ

牧野さんは信用金庫で働くかたわら、音楽は続けていたといいます。信用金庫に6年勤務した牧野さん、2019年に焼津市役所に転職しました。どうして転職したのでしょうか?

●焼津市商工観光課 牧野憲人さん:
「『市役所では音楽はできないだろう』と思っていたので、大学を卒業して就職する時に、選択肢にはありませんでした。でも2017年にご縁があり、静岡市駿河区のキャラクター『トロベー』のテーマ曲をつくらせていただいたのですが、その際、静岡市の職員と一緒に仕事をする機会がありました。その時に『市役所って思っていたよりクリエイティブなことができるな』と感じたのが転職のきっかけです。地元の静岡市は、トロベーのテーマ曲を作ったことでやり切った感があったので、全く新しいところでやろうと焼津市を選びました」

静岡市駿河区のキャラクター『トロベー』のテーマ曲も作曲
静岡市駿河区のキャラクター『トロベー』のテーマ曲も作曲

突然デビューの話が

焼津市役所に転職した牧野さん、市職員としての業務の傍らアマチュアとして音楽活動を続け、市が主催する地元のイベントなどで歌ったりしていました。

するとその姿がレコード会社の目に留まり、2024年12月にシングル「銀河鉄道/三日月の晩」で徳間ジャパンコミュニケーションズ受託レーベルmars entertainmentから全国デビューすることになりました。その時の気持ちは?

●焼津市商工観光課 牧野憲人さん:
「15歳で音楽を始めてもう20年近く経っています。プロになることをあきらめてはいませんでしたが、『音楽を趣味でやっていくのもいいかな』と思い始めたところに、突然デビューの話がきました。『忘れたころにやってくる』じゃないですけど、いい話はこういうタイミングでくるんだなと思うと感慨深いです」

2024年に全国デビュー
2024年に全国デビュー

市役所職員とシンガーソングライターの兼業は例がない

やっとつかんだ全国デビュー。市役所をやめるという選択肢はなかったのでしょうか? また市の職員として、シンガーソングライターとの兼業は問題ないのでしょうか?

●焼津市商工観光課 牧野憲人さん:
「市の仕事はやりがいもありますし、市役所で働いていた経緯があってデビューできたので、市役所を辞めようとは思いませんでした。市に恩返しをしたいという思いもありました。公務員が兼業をするには首長(焼津市の場合は市長)の許可が必要です。市役所職員の兼業は、実家が商売をしていたり、農家だったりするときに、家業を手伝うというケースが多いようです。音楽での兼業の許可は全国でも事例をきいたことがないと、レコード会社からもいわれています。公務員で音楽をやっている人は多くいると思いますが、届けを出して兼業している人はいないのではないでしょうか?」

通常は市の職員として勤務。終業後や休日に自宅で曲を作ったり、ライブハウスで歌ったりするのが、ミュージシャンとしての活動だということです。

市の職員としても様々な曲を作っています。市のマスコットキャラクター「やいちゃん」の歌(非公式)や消防団ドローン隊の公式テーマソング、変わったところでは焼津市南部土地区画整理組合公認PRソングなども作りました。

通常は焼津市役所に勤務
通常は焼津市役所に勤務

市の仕事とシンガーは2つで1つ

最近は焼津市外からも声がかかり、ライブをすることも。2つの仕事を抱え体力的にも兼業は大丈夫でしょうか? 休みはとれている?

●焼津市商工観光課 牧野憲人さん:
「休まなくていいと思っています。学生時代から路上で寝て、ライブをやるというスタンスでした。体力的にもやれる期間は限られているので、後悔がないように、市の仕事もシンガーも全力でやります。この2つの仕事を両立しているのが、全国で自分だけなので、逆にどこまでいけるか、突き詰めていきたい」

2025年12月には2枚目のシングル「ヒグラシが泣いた日/Time is money」をリリース。順調な活動を続ける牧野さん。これからやりたいことは?

●焼津市商工観光課 牧野憲人さん:
「焼津にちなんだ歌を全国に発信し、PRしていきたい。音楽と仕事を切り分けるんじゃなくて、ある意味2つで1つと考えるようにして、今まできいたことが無いような新しい働き方のモデルケースになればいいと思っています」

焼津市職員として市のイベントで歌うことも多い
焼津市職員として市のイベントで歌うことも多い