終戦直後に設立、4万5000回超える公演「劇団たんぽぽ」存続の危機 背景に「少子化」 劇団が選んだ道は…
静岡県出身の方は、小学生の頃、見たことがあるという人も多いかもしれない、劇団たんぽぽ。戦後すぐの1946年設立。以来、80年の長きにわたり、浜松市を拠点に、県内を中心とした、全国各地で子どもたちに向けた、公演を行っています。その数なんと、4万5000回以上。しかし今、この劇団たんぽぽがピンチを迎えています。
劇団たんぽぽ事務局長 久野由美さん:「子どもが減ったりとか、あと学校での鑑賞授業がなくなっているんですね、全国的に」
主な劇団たんぽぽの公演先は学校。ところが少子化により、学校での鑑賞機会が減り、存続の危機に陥っているんです。危機をどう乗り越えるのか? 劇団がとった策とは?
たんぽぽ劇団員 原口裕成さん(入団3年目・牧之原市出身):「(子どもたちにとって)初めての芸術が、劇団たんぽぽになることがほとんどだと思うんです。こういう劇団は、残していきたい」
「おっちょこちょいハチベエ!」
「僕もバナナが見えたから…」
「食いしん坊!お前、食ってばっかじゃねえかよ!」
磐田市内にある劇団の稽古場。この日は翌日行われる、公演に向けての最終稽古です。演目は、昭和世代にはなじみ深い、あの3人組が活躍する「あやうし!ズッコケ探検隊」。劇団員たちは、様々な思いを胸に、たんぽぽにやってきました。
Q.たんぽぽ入団の経緯
劇団員 伊東雅貴さん(入団5年目):「アマチュアの劇団に所属してたんですが、たんぽぽが人手不足で困っていると。このままだと、全国の子どもたちに演劇を届けられなくなってしまうかもしれないと聞いて…」
劇団員 金原綾香さん(入団10年目、磐田市出身):「もちろん自分の好きなことを仕事にしたいっていうのと、『子どもたちのために夢を希望を』っていうことで…」
1人8役
今回、ライオン役を演じるのが、入団3年目、牧之原市出身の原口裕成さん。大阪の大学で演劇を専攻し、卒業後、たんぽぽに入団してきました。
原口裕成さん:「今回、ズッコケ3人組では8役やらせていただく」
今回、原口さんはライオンのほか…警官、主人公3人のそれぞれの母、精霊、お星さま、ニュースキャスターと、1人で8役も演じます。
たんぽぽの劇団員で舞台に立つのは20人。本拠地・浜松にちなみ、浜、松、風という3つの組に分かれ活動しています。原口さんの所属する松組は総勢6人。1人が複数の役をこなさないと、公演を行うことはできないんです。
Q.1人で8役、こんがらがらない?
原口裕成さん:「たまにお母さんたち3人が、こんがらがっちゃうんですけど、でも一応、声の質とか、喋り方とかを変えて表現しているので、そこまでこんがらがらないです」
公演のたびに気分は「引越し業者」
公演当日の朝。まず、メイクや着替え、舞台の最終確認などを行うのかと思いきや…。
劇団員たち、搬入と舞台の設営を始めました。原口さん、トラックの積み荷を会場内へ次々運び込みます。
原口裕成さん:「引越し作業ぐらいの量はいつもあるので、引越し業者の気分になりますね」
たんぽぽに、舞台製作専任のスタッフは音響と照明を担当する1人を除きいません。劇団員は、舞台に立つだけでなく、照明のセッティングから、道具の修理や衣装の準備、設営まで全てを行います。
舞台の設営を終えると、そこからようやく、メイク。そして衣装・小道具などの最終確認です。
Q.本番前の心境
原口裕成さん:「子どもたち、どういう反応かなとか、ライオン怖がらないかなとか、そういうのがちょっとドキドキしてます」
さあ、この日の公演がスタートです。冒頭、原口さんは主人公それぞれの母親役として登場。
原口さん「正太郎!いつまでトイレに入ってるの!トイレで本を読むのはいいかげんにやめなさい!」
原口さん「三吉!食べすぎ!ドーナツは2個ずつ!」
冒険の旅に出た3人組は、漂流の末、島へ。原口さん、今度は主人公3人が島で遭遇するライオン役として登場。
モーちゃん「ジャンプして来たらどうしよう?」
ハチベエ「早くおにぎりを捨てろ!」
物語は、主人公3人が、島に住むおじいさんの協力も得て、ライオンを檻に閉じ込めることに成功。
原口さん、最後は島に駐在する警官役に。1人8役を演じ切りました。
Q.きょうの公演を見て
小学2年生「前よりも楽しくて面白かった。ライオン捕まえたとこ」
浜松からの来場客「最後は絆でライオンを捕まえたところが良かった」
小学6年生「みんなすごく演技力があって、感動しました」
お母さん「タブレットとか、テレビの画面だけではわからないようなことを、たくさん感じられる機会なんじゃないかなって。学校で見られる機会を、続けてほしいなと思いました」
少子化で学校での鑑賞授業が激減
今年で設立80年を迎える劇団たんぽぽ。ただ、劇団を取り巻く現状には、厳しいといいます。
劇団たんぽぽ事務局長 久野由美さん:「子どもが減ったりとか、あと学校での鑑賞授業がなくなっているんですね、全国的に」
近年の物価高騰により経費が増加、そして、急速に進む少子化により、これまで主な公演先だった、学校での鑑賞機会は激減。公演先が学校の場合、徴収している料金は生徒1人につき1000円ほど。子どもの数の減少が収入減に直結し、劇団は、存続すら危ぶまれる状況になっています。
頼みはクラウドファンディング
そこで劇団たんぽぽが立ち上げたのがクラウドファンディング。
劇団たんぽぽ事務局長 久野由美さん:「発信すれば、『あ、たんぽぽ80年なんだね』って、みんなにもわかってもらえるし、それと、うちの今この現状を伝えるいいチャンスだなと思って」
目標金額は500万円。ここで得られた資金を元に、劇団では、外への情報発信を目的に、これまで手つかずだった過去の映像や写真、紙資料などをアーカイブ化。そしてさらに、劇団設立80周年を記念する公演を、この夏から来年にかけ、県内4か所で行おうとしているんです。
劇団たんぽぽ事務局長 久野由美さん:「今頑張らないと、その先に続かないんじゃないかとすごく思って。学校の公演がなくなっていくということは、一生に一度も文化・芸術に触れない子どもたちが増えていることなんですね。ものすごく、体験の格差というのが出てきている。私たちはそれが一番悲しいんです」
入団3年目の原口さんは、劇団の寮で暮らしています。現在24歳で、出身は牧之原市。大阪芸大に進学して、演劇を学び、卒業後、劇団たんぽぽへ。劇団の危機に、原口さんは…
原口裕成さん:「(子どもたちにとって)初めての芸術が、劇団たんぽぽになることがほとんどだと思うんです。こういう劇団は、残していきたい」
浜松市の山間部 佐久間小学校で公演
先生「はい、じゃあ始めましょうか。」
優利くん「はい!起立! 今から国語の授業を始めます」
先生と優利くん「はじめましょう!」
佐久間小学校唯一の一年生、熊谷優利くん。この日は国語の授業。暗しょうに挑戦です。
先生「自分を信じて頑張れ!」
「はなのみちくまさんが、ふくろをみつけました」
「おや、なにかな。いっぱいはいっている。くまさんが、ともだちのりすさんに、ききにいきました」
Q.学校でのたんぽぽ公演について
優利くん「嬉しい。楽しみです」
給食の時間は全校生徒12人と先生が一緒に。これが佐久間小学校の日常の光景です。この学校にも、劇団たんぽぽがやってくることに。
Q.どうしてたんぽぽを呼んだのか
佐久間小学校 平野直孝校長:「昭和32年頃が一番ピークで、790人いました。たとえ12人と減ってはいても、また(街が)活性化して蘇るといいな、っていう自分の思いがありまして。今回の内容が、山の人々にスポットを当てている脚本ということで、山の魅力を改めて子どもたちにも感じてほしい」
公演当日。
披露する演目「森林(もり)のてんぐ屋さん」は、子どもたち3人が、森の命から作ったものを売る天狗との出会いによって、森の持つ不思議な力に気づかされていくという内容。
「森が死んだら、どうなるの?」
天狗「考えただけでも恐ろしい…」「森を死なせたのは人間です!」
「♪あったらいいな夢グッズ!蜘蛛の巣スコープ、木の上ハウス、動物触れるグローブ、木登りブーツ、どこでもハンモック!」
およそ1時間におよぶ公演が、終わりました。
2年 伊東蓮人くん「(森林(もり)のてんぐ屋には)色んな商品が売ってて、僕も欲しいと思いました」
6年 原爽真くん「空気をキレイにする(道具)。こんな道具も作れるかなと思いました」
1年 熊谷優利くん「全部面白かった!」
Q.劇団存続への思い
劇団たんぽぽ事務局長 久野由美さん:「劇団の歴史って、その時の子どもたちの歴史でもあるんですね。とにかく私たちは80年を超えながら目指せ100年なんです。私たちの世代が、後輩にどういった劇団を残すのか、っていうのは、やっぱりものすごい課題だなと思います」
長年、県民に親しまれている、劇団たんぽぽ。時代の流れによって、今、重要な岐路に立たされています。