【リニア】静岡県知事が着工容認を正式表明 9年続いた議論に節目 JR東海社長「着工時期は未定。当初より難しい工事になる」 演説後に傍聴席から「異議あり」の声も…

 長年にわたり議論が続いてきたリニア中央新幹線の静岡工区をめぐり、静岡県の鈴木康友知事は7日、着工を正式に容認すると表明した。静岡県とJR東海は今月18日に、工事着工の前提となる「自然環境保全協定」を締結する予定で、リニア計画は大きな節目を迎えた。

 この日、県議会6月定例会最終日の全員協議会で、鈴木知事は自身の判断を説明した。知事は「県自然環境保全条例に基づき、リニア中央新幹線工事に係る自然環境保全協定を事業者であるJR東海と締結する」と表明。これにより、静岡工区の着工容認を正式に表明した。

リニア中央新幹線
リニア中央新幹線

「地元の理解は着実に進んだ」

 リニア工事をめぐっては、南アルプスのトンネル掘削による大井川の水資源への影響や自然環境への懸念が長年の争点となってきた。

 鈴木知事は、「自然環境や大井川の水資源への影響について、依然として不安や懸念を抱く人はいる」としたうえで、工事中から完成後までを見据えた継続的なモニタリング体制を構築する考えを示した。
 
 また、これまで協定締結の条件としてきた「地元の理解」についても言及。JR東海が大井川流域自治体などで22回の住民説明会を開き、延べ1137人が参加したことなどを踏まえ、「地域住民や流域10市町、関係団体の理解は着実に進み、協定を締結できる段階にきたと判断した」と述べた。

 さらに、不測の事態が発生した場合は工事を一時停止し、原因究明や対応を検討することを協定に明記することで、水資源と自然環境の保全に取り組むと強調した。

静岡県 鈴木康友 知事
静岡県 鈴木康友 知事

9年にわたる議論 川勝前知事時代に浮上した「水問題」

 リニア静岡工区をめぐる議論は、およそ9年前に大きく動いた。2017年、当時の川勝平太知事がリニア計画への反対姿勢を鮮明にし、その後、南アルプストンネル工事によって大井川の流量が減少する可能性があるとして、いわゆる「水問題」が最大の論点となった。

 県は、水資源や残土処理、生物多様性への影響などを検証するため専門部会を設置。これまで44回にわたりJR東海との対話を重ねてきた。今年1月には、大井川の流量減少などの影響が生じた場合にJR東海が無期限で補償する内容の協定も締結され、水問題への対応が具体化していた。

 鈴木知事は7日の会見で、「静岡県特有の課題である大井川の水資源の確保と南アルプスの生態系保全を工事と両立させるためには、しっかりとした議論が必要だった」と振り返った。また、「川勝前知事時代に問題提起がなければ、そのまま工事が進んでいた可能性もある。議論には大きな意義があった」と評価した。

川勝平太 前知事
川勝平太 前知事

「これからが本番」静岡県への効果にも期待

 鈴木知事は、リニア中央新幹線について「世界有数の人口集積地域である三大都市圏を結ぶ国家的プロジェクト」と位置付けた。

 そのうえで、リニア開業後は東海道新幹線の運行形態にも変化が生じ、「ひかり」や「こだま」を重視した運行になる可能性があるとして、静岡県への経済波及効果にも期待を示した。

 「まさにこれからが本番」と述べ、JR東海に対して引き続き丁寧な説明と情報提供を求めていく考えを示した。なお、全員協議会終了後には傍聴席から「異議あり」「説明会で質問に答えてもらえなかった」などの声が上がり、一時騒然とする場面もあった。

JR東海「早期着工へ全力」

 鈴木知事の表明を受け、JR東海の丹羽俊介社長は名古屋市で記者会見し、「鈴木知事の判断に深く感謝申し上げるとともに、身が引き締まる思いだ」と述べた。

 今後については、協定締結後に地元向けの工事説明会や安全祈願などを行ったうえで、トンネル掘削に必要な設備整備を進める方針を示した。

 一方で、着工時期については「現時点では未定」と説明した。静岡工区の南アルプストンネル工事には10年以上かかるとされているが、丹羽社長は山梨県や長野県で進む工事が想定以上に難航していることを挙げ、「当初の想定より難しい工事になる可能性がある」との認識も示した。

 静岡工区の着工容認によって、長く停滞してきたリニア計画は新たな段階へ進む。しかし、工事完了までにはなお長い時間が見込まれており、自然環境や水資源への影響を巡る検証は今後も続くことになりそうだ。

JR東海 丹羽俊介社長
JR東海 丹羽俊介社長