蒸気の向こうにまた1杯。房’sは“友だちの店”の顔で、料理をきっちり決めてくる 沼津市
湯気が上がると、席の空気まで少し前のめりになる。中央に高く盛られた豚肉と野菜、そこへピリ辛のゴマだれが回り、蒸気と一緒に香りが立つ。沼津市東椎路の「くいもんや房’s」は、2001年に市内で始まり、25年続いてきた創作居酒屋だ。和食も洋食も中華も、客が求めるものをつくる。その自由さが店の持ち味だが、料理は決して大ざっぱではない。むしろ、常連が長く通う店ほど、こういう細部が効いてくる。
主役に据えたいのは、要予約の「火山蒸し」だろう。豚肉と野菜を火山のように高く盛り付け、ピリ辛のゴマだれをかけて蒸し焼きにする鍋仕立て。使うのはキャベツ、ニラ、シメジ、モヤシ。余計なものを足しすぎず、野菜から出るスープで食べさせるという発想がいい。豚肉に火が通ったら食べ頃で、豚バラで野菜を巻いて頬張るのがおすすめだという。肉の脂、野菜の水分、ゴマだれの軽い辛みが一体になると、見た目のボリュームに反して箸は進む。映えを狙った料理というより、賑やかな席を成立させるための料理だ。
そこへ「鶏ももガーリックグリル」を挟むと、店の得意技がもうひとつ見える。使うのは宮崎県産の霧島鶏。皮目がパリパリになるまで焼き上げ、仕上げに酒としょうゆ、最後にガーリックチップスを振る。表面はカリッと、内側は弾力を残しながら肉汁を抱える。ニンニクの風味はしっかりしているのに、ただ強いだけではなく、鶏の旨みを押し出す方向に働いている。
鶏そのものの違いを楽しむなら、「鶏刺し」がある。こちらも霧島鶏の朝じめを現地から直接取り寄せ、モモのたたき、ムネの湯引き、砂肝を生で出す。皮目を炙ったモモは、旨みを閉じ込めたようなやわらかい弾力。ムネはしっとりして軽く、砂肝はシャキシャキとした食感が立つ。同じ鶏でも、部位と仕事でここまで表情が変わるのかと、皿の中でわかりやすく教えてくれる。
名物として外せないのが「タルタルコロッケ」だ。創業時から続くオリジナルで、しょうゆベースに濃いめに味付けした男爵コロッケに、甘めの自家製タルタルを合わせる。意外性のある組み合わせだが、店ではずっと愛されてきたというのも納得のまとまり方だ。
房’sの魅力は、料理のジャンルをまたぎながら、店の空気がぶれないことだろう。1人で来ても、何人で来ても、来たその日からみんな友だち。そんなモットーを掲げる店は多いが、ここでは言葉だけに見えない。湯気の立つ鍋を囲み、鶏をつまみ、だし巻きを割るうちに、気づけば席がほぐれている。料理が場をつくる。その当たり前を、25年かけて自分のものにしてきた店だ。
くいもんや房’s
沼津市東椎路838-2 メゾンおおたけ2-1階
電話番号:055-924-5696
定休日:月・火曜日
営業時間:18:00-24:00 L.O.23:00
Pあり