ドームを開けた瞬間に香りが立つ、燻製で引き出す肉と魚の旨み 焼津市「肉と燻製 TOKUTARO」
ふたを外す、その一瞬に料理の印象が決まる。ガラスのドームを持ち上げると、閉じ込められていた煙がふわりと広がり、桜チップの香りが空気を変える。焼津市栄町の「肉と燻製 TOKUTARO」は、2026年3月にオープンした居酒屋。広い店内にはアイリッシュパブのような雰囲気が漂い、牛・鶏・豚の肉料理と燻製料理を軸に据える。料理は皿の上だけで完結せず、この“開ける瞬間”まで含めて設計されている。
まず外せないのが「瞬間燻製ステーキ 静岡そだち」だ。使うのは県内産の黒毛和牛「静岡そだち」の内もも。赤身でありながら適度にサシが入り、やわらかさと軽さを両立する。塩コショウで下味をつけ、フライパンで表面に焼き目をつけて旨みを閉じ込めたあと、炭焼き台へ移す。炭の遠赤外線で火を入れることで、外側は香ばしく、中はジューシーに仕上がる。ここで終わらない。皿に盛り、燻製ドームをかぶせ、桜のチップで瞬間的に煙をまとわせる。口に入れたとき、まず香りが届き、そのあとに肉の旨みが広がる。火入れと燻しの順番が、そのまま味の層として立ち上がる。
焼津らしさを感じさせるのが「カツオキムチ」である。カツオのタタキに自家製キムチを合わせた一品で、脂ののったカツオに、ピリ辛の発酵のニュアンスが重なる。刺身とも焼き魚とも違う着地で、酒のアテとしての輪郭がはっきりしている。麦焼酎のソーダ割りが合うというのも納得で、後口に残る辛みと旨みが次のひと口を呼ぶ。
鮮魚でも燻製の技は生きる。「瞬間燻製カルパッチョ」は、季節ごとに魚が変わるが、この日はイサキ。ねっとりとした食感の白身に、ドームを使って軽く燻しの香りを乗せる。生の魚に火を入れず香りだけを加えるため、旨みはそのままに、印象だけが一段深くなる。スモーキーといっても重さはなく、むしろ白ワインを呼ぶ軽やかさでまとまっている。
もう少し気軽につまむなら「燻製おつまみ3種盛り」。内容は時期や仕入れで変わるが、この日はチーズ、黒はんぺん、コウイカ。チーズはもともとのコクにスモーキーさが重なり、味の厚みが増す。黒はんぺんは燻製によって水分が抜け、プリっとした食感へ変わる。コウイカは甘みと旨みが凝縮され、コリコリとした歯ごたえが立つ。燻すことで風味だけでなく、質感そのものも変わるのがわかる組み合わせだ。
締めに回したいのは「静岡そだち 肉チャーハン」。卵とネギのシンプルなチャーハンに、赤身肉とキャベツを合わせた肉野菜炒めをのせる構成で、皿にするとかなりのボリュームになる。ゴロゴロと入る牛肉の存在感が強く、炒め物の香ばしさとチャーハンの素直な味わいが一体になる。こってりしすぎず、最後まで食べきれる設計もこの店らしい。
肉を焼く、魚を切る、それ自体は特別なことではない。そこへ煙をまとわせるひと手間を加えることで、香り、食感、印象が変わる。TOKUTAROはその変化を、目の前の演出も含めて見せる店だ。ふたが開く瞬間の高揚感ごと味わいたくて、もう一度足を運びたくなる。
肉と燻製 TOKUTARO
住所:焼津市栄町1-8-14 デイジービル2F
電話番号:054-625-7358
定休日:日曜日
営業時間:17:00~24:00
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