土石流災害から復興めざす被災地で「イセエビ盗難」相次ぐ 憤る漁師「命がけの漁。愕然とした」 イセエビ漁にも密着 静岡・熱海市
静岡県熱海市の伊豆山港では、おととしの土石流災害で港に土砂が流れ込み、船を出すことができなくなっていました。去年ようやく漁が再開し、今年も9月に解禁となったばかりです。ところが、その伊豆山港で、イセエビの盗難被害が多発しています。
木村秀平ディレクター:「こちらがイセエビの盗難被害があった現場です。伊豆山港では10月からこの港で特産のイセエビが盗まれる被害が相次いでいるということです」
10月15日、こちらの港では、出荷調整のために保管していたおよそ5キロのイセエビが何者かによって盗まれる被害が発生しました。
被害にあったという漁師は…。
漁師 川口勝美さん:「4つ(イセエビのカゴを)ぶらさげてあって、1つだけなくて、上げたら中身がなかった。カゴを上げると防波堤が濡れるから形跡が残るが、(盗まれたのは)1個のカゴだけだった」
川口さんは警察に被害届を出しましたが、現在も盗まれたイセエビは見つかっていないということです。
「命がけでやる漁。愕然とした」
さらに11月にも…。
漁師 金子友一さん:「こういうカゴで。この中に(イセエビを)生かしておいた。え!と思ったよね」
漁師の金子さんは、11月5日、およそ10キロのイセエビが盗まれる被害を受けました。
漁師 金子友一さん:「イセエビ網漁って危険な網なので、波の荒い台風の中やったりする時もあるので、そういう時は命がけでやるような漁。愕然とする気持ちの方が強い、発見した時は。やっぱり生活の糧なので」
イセエビ漁に密着
熱海市の伊豆山港で10月から相次いでいるイセエビの盗難事件。地元漁師たちは今、どんな思いで漁をしているのでしょうか。今回、その現場に密着しました。
伊豆山漁業会 松本早人代表:「やっぱりこれ以上盗られたくない。周りの仲間が一生懸命取ってきてるから、これ以上被害をでかくしたくない」
こう話すのは、伊豆山港の漁業会代表を務める、松本早人さん。今回の盗難事件について、強い憤りを感じています。
「やっと復興の兆しが…精神的にも疲れる」
伊豆山漁業会 松本早人代表:「やっと復興の兆しというか、復旧してきて、この伊豆山が落ち着いてきた時に、港でイセエビ泥棒みたいなのがいたりすると、やっぱり悔しいし精神的にも疲れる」
イセエビ漁の出航は朝4時。あたりは真っ暗で、先はほとんど見通せない中、地元漁師たちは長年の経験と勘を頼りに、前日に仕掛けた網のポイントへと向かいます。
出航からおよそ15分後、最初のポイントに到着。イセエビ漁では、電動で仕掛けを巻き上げると網が傷んでしまう恐れもあるため、漁師自らが手で引き上げることがほとんどだと言います。
最初に上げた仕掛けの中には、見事に大きなイセエビの姿が。他の仕掛けにもイセエビが多くかかっていて、5分ほどでカゴはいっぱいの状態に。
伊豆山漁業会 松本早人代表
Q.結構かかっている?
A.「でも例年よりは少ない。去年の今頃と比べたら3分の1程度、今年は」
Q.少ないなか、盗難があるとさらに腹立たしい?
A.「そうですね。本当に密漁よりたちが悪い。密漁自体もそれですら許せないのに、自分たちが一生懸命危ない思いをしながら取ってきた品物が盗られるというのは(許せない)」
この日は1時間の漁で、およそ8.5キロのイセエビをとりました。松本さんによれば、去年の半分ほどの量しか取れていないと言います。また、水揚げされたイセエビはそのまま出荷できず、港で別のカゴに移し、一度海の中で保管する必要があると話します。
鮮度保つためにイセエビを海中で保管
伊豆山漁業会 松本早人代表:「当日出荷だと、その時は生きているが、仲買が買って水槽に入れた時に死んじゃったりとか。やはり安いものではないので、そういうロスが出ると自分たちの信用も欠けてしまう」
イセエビの鮮度を保ち、よりよい商品を市場に届けるための工夫ですが、今回の盗難はそのカゴからイセエビを盗むという犯行でした。
伊豆山漁業会 松本早人代表:「その過程の中で盗られたりすると、残念というか、終わっちゃう。生活がかかっている分は終わっちゃうので」
警察は夜間パトロール強化
警察はイセエビ盗難の被害届を受理し、捜査を進めるとともに漁師たちと相談し、夜間のパトロールを強化しています。また、漁師たちも、港に設置している防犯カメラの台数を増やしたり、被害に遭わない対策を進めていくということです。
伊豆山漁業会 松本早人代表:「本当に土石流のあと、いろんな人たちに支えてもらった。少しでも水揚げを多くして、周りの人たちにおいしいイセエビを食べてもらって、それで何かの恩を返せたらと思っているが、それでエビが盗られると、そういうこともできなくなってしまう。このイセエビ漁の期間中、とれるだけの対策をとってやっていくしかない」