どうなる静岡大・浜松医大の統合・再編 静大側は合意と異なる「1大学2校案」 浜医大「合意書の範囲外」

静岡大学 日詰一幸学長(18日):「(1大学2校案が)静岡大学のビジョンということで、皆さんがもろ手を挙げて賛成ということではなかったが、会議としてお認めいただいた。細かいことについてはこれから詰めていかなければならないので、まだ申し上げられない。決まってからご紹介させていただく」

Q.浜松医科大に示す案は決まった?
静岡大担当者:以上でございます
Q.何が決まったんですか?

静岡大学 日詰一幸学長
静岡大学 日詰一幸学長

 18日、静岡大学の浜松キャンパスで開かれたのは、各部局のトップらが集まった重要な会議。この学内評議会で話し合われたのが浜松医科大学との統合再編についてです。

 記者の問いかけに、言葉少なげに会場をあとにする静大の日詰学長。静岡キャンパスの教職員らが待つバスに乗り込むと、拍手の音が。およそ6時間の会議後に鳴り響いたねぎらいの拍手。会議を終えただけなのに、なぜこのような光景が生まれたのか。背景にはこの「統合再編」をめぐる静岡大学内での“意見の対立”がありました。

バスに乗り込むとねぎらいの拍手が
バスに乗り込むとねぎらいの拍手が

「1法人2大学」案に合意も『静岡側』に反対論

 2019年3月、静岡大学と浜松医科大学は、少子化などを背景に、それぞれの大学の運営法人を1つにした上で、静岡地区と浜松地区にそれぞれ新たな大学をつくる「1法人2大学」の案に合意しました。この合意案を進めると、事実上、静大浜松キャンパスを浜松医科大学と一緒にする形になります。このことから、学部が減る形となる静大側では、静岡キャンパスを中心に合意形成が不十分として反対論が根強く残っていました。

 しかし、当時の執行部が押し切る形で合意に踏み切ることに。ところが翌年、事態は急変します。

「1法人2大学」案に合意 2019年3月
「1法人2大学」案に合意 2019年3月

静岡市も難色示し「無期限延期」に

静岡大学 日詰一幸教授(2020年):「反対意見もあれば賛成意見もあるわけだから、その双方の合意点を導き出せないだろうか」

 合意締結の翌年に行われた静大の学長選で、大学再編に慎重な立場を取る静岡キャンパス所属の日詰一幸教授が選出。さらに、静岡キャンパスがある静岡市は「1法人2大学」案に難色を示していて、この状況に文科省が「地元自治体等の関係者の理解を十分に得て進めるべきである」と大学再編に注文を付けました。

 学内の反対だけでなく、地元自治体からも「外堀を埋められた」形となった「1法人2大学」の合意書。最終的に、おととし1月に無期限延期が発表され、静岡と浜松の間で“こう着状態”となることに。

再編に慎重な日詰一幸教授が学長に
再編に慎重な日詰一幸教授が学長に

 そんな中、今年2月に…

静岡大学 日詰一幸教授(今年2月):「2つの大学を1つにしていくことがひとつの選択肢、あるいは最善の選択肢としてあるのではないか」

 静大の日詰学長が、突如私案として「1法人1大学案」を公表。関係者は「膠着した議論の前進を促すための提案」としますが、2019年の合意書案と大きく異なる内容に、浜松医科大学を含めた“浜松側”が猛反発。

浜松医科大学 今野弘之学長(今年2月):「正直、大変驚き、困惑しました。浜松医大としては当初から単純な大学統合は選択肢に全くないということを申し上げ、ご理解いただいていると思っていたから」

浜松医科大学 今野弘之学長
浜松医科大学 今野弘之学長

 さらに浜松市が、県内の自治体や経済界からなる「期成同盟会」を発足させ、“静岡側”である静大・日詰学長の動きを激しく牽制しました。

浜松市 鈴木康友市長:「合意書締結から4年経つが、計画は迷走を繰り返し、頓挫したままである。静岡大学長に猛省を促したい」

 静岡大学を「静岡」と「浜松」の2つにするのか、1つのままいつづけるのか、行政や財界をも巻き込んだ“お家騒動”は、ますます混乱の度合いが増すことになりました。

 そうした中、今年夏、日詰学長が新たな一手を打ちます。

浜松市 鈴木康友市長(当時)
浜松市 鈴木康友市長(当時)

日詰学長が新たな一手が「1大学2校案」

 今年7月、静大の日詰学長は、自身が主張していた「1法人1大学案」から派生させた「1大学2校案」を発表します。この案は、法人・大学を1つに統合したうえで、静岡市と浜松市に教育や研究面で独立性を持った2つの大学を置く案です。学長周辺の関係者は「浜松側の1法人2大学案への歩み寄り案」とし、一連の学長の提案は「合意書を尊重しつつ閉塞した議論を打破するためだ」と強調します。

「1大学2校案」
「1大学2校案」

「1大学2校案」が静岡大学の正式案に

 そして、18日開かれた学内評議会。各部局の代表者らが集結する会合の場で、この「1大学2校案」を浜松医科大学側との協議の場に提示するべく、静大側の「正式案」として認めてもらうよう提案。浜松側から一部反対の声が出るも、評議会の合意を得ました。

 また、浜松側からは、合意書の「1法人2大学案」が白紙撤回されるとの懸念が広まりましたが、日詰学長は「現在の合意書を白紙にするものではない」としました。

「1大学2校案」が静岡大学の正式案に
「1大学2校案」が静岡大学の正式案に

浜松側「1法人2大学案を白紙にしない確認がギリギリだった」

 評議会終了後、浜松側は…

静岡大学電子工学研究所 木村雅和所長:「(1法人2大学案が)白紙にならない確認だけできたのがギリギリのところだった」

木村雅和所長
木村雅和所長

静岡大学 福田充宏工学部長:「我々の力も足りなかったというところはあるが、継続して浜松医科大学との統合に向かって努力していきたい」

 浜松側の懸念していた合意書案の白紙撤回は免れましたが、事実上「1法人2大学案」への再編は極めて難しい状況に。今後の焦点は、静大の正式案としてお墨付きを得た「1大学2校案」をめぐる、静岡大学と浜松医科大学の協議の行方となりますが、浜松医大の今野学長は、静大への憤りを隠しません。

静岡大学 福田充宏工学部長
静岡大学 福田充宏工学部長

浜松医大学長「合意書の範囲外」

浜松医大 今野弘之学長:「(1大学2校案)は合意書の範囲外であると我々も認識している。浜松キャンパスが反対している中で成案とされたことは遺憾である。すでに内容を確認しているが、キャンパスの機動力、自律性は「2大学再編」の方が優れている」

 実際影響も出てきています。静大と浜松医大が統合・再編について協議する「連携協議会」は10月31日に開催予定でしたが、先週、浜松医大からの申し入れを受け延期に。

 静大の日詰学長が、浜医大の今野学長へトップ会談を申し入れるも、調整は難航。この1大学2校案の協議も事実上困難な情勢です。

    (10月20日放送)

浜松医大 今野弘之学長
浜松医大 今野弘之学長