消防士殉職ビル火災 市「命綱使わず活動」と小隊長を減給 元消防士が反論「命綱は合理的でない」 専門家は… 静岡市
静岡市 難波喬司市長(2月28日):「これはあり得ないと言った方がいいと思います。そのあり得ない活動が行われていたというのが事実です」
会見で「あり得ない」と強い口調で語った静岡市の難波市長。それは、おととし8月に静岡市の繁華街で起きたビル火災についてです。この火災では、消火活動にあたっていた駿河消防署の山本将光さんが殉職しました。
事故を受け、静岡市消防局は、活動状況の検証や再発防止策を検討するため、外部の有識者を中心とした事故調査委員会を設置。去年8月、市に報告書を提出しました。
ところが、市はこの報告書について、問題が十分に分析されていないとし、行政的な観点から市独自の調査を進めていました。
静岡市 難波喬司市長(2月28日):「規範が遵守されていないという問題が一つ。もう一つは遵守されていない時に、今まで訓練をしていない方法で実施をしているという問題ですね。これはあり得ないと言った方がいいと思います。そのあり得ない活動が行われていたというのが事実です」
「命綱結ばず進入」…小隊長を減給処分
報告書などによると、消火活動にあたった山本さんたちは当時、活動基準で定められていた隊員同士を命綱などで結ぶ手法をとらずに濃い煙の中に進入。
静岡市消防局は2月、基準に反して命綱を使わない消火活動を指示したとして、小隊長として現場で指揮を執っていた30代の男性職員を減給6カ月の処分としました。
静岡市 難波喬司市長(2月28日):「規範は守るためにあるわけで、現場で規範と異なる行動をするということが、ある種、常態化している。これが大きな問題であると」
市が消防職員669人を対象に行った組織風土や組織体制などについてのアンケート調査では、「上司から訓練をしたことのない方法による活動を指示されたことがある」と答えた人や、「活動におけるリスクについて十分な教育や訓練がされていない」と答えた人が全体のおよそ24%にのぼったということです。
静岡市 難波喬司市長(2月28日):「隊員の一人ひとりの行動の問題というよりも、組織的に問題があったのではないかというのが、今回の結論になります。したがって組織的課題を根底から変えていかないと再発防止にはならないというのが、基本的な認識です」
専門家『再検証は「異例」』
事故の背景には組織的な課題があると結論づけた難波市長。元東京消防庁で署長などを務めた坂口隆夫さんによると、事故調査委員会が一度報告書を提出したにも関わらず、行政が再度、事故を調査するのは異例だといいます。
市民防災研究所 坂口隆夫理事:「今まで例がないです。事故調査委員会の報告書には肝心な、なぜ殉職事故が発生してしまったのか、どこに問題があったのか、そこまで踏み込んでいなかった。そういうことで、今回の(市による)再検証が行われたのかなと、私は当然だと思います」
一方で、静岡市が独自で調査した報告書の内容については…。
市民防災研究所 坂口隆夫理事:「事故調査委員会の報告書だけでは、なぜ一人の隊員が中に残されて亡くなってしまったのかが全く明確になっていなかった。今回の再検証の報告書では、その辺がはっきり明確になっている。私はある程度評価している」
消防局は
隊員が命を落とすことになったビル火災。消火活動を行った静岡市消防局にも話を聞きました。
静岡市消防局 長井利規参与兼警防課長:「今回の検証結果を重く受け止め、消防局全員が再発防止に本気で取り組み、局内の組織風土の改善や適正な組織づくりを行っていこうと思っている」
静岡市は4月から消防管理室を新たに設置し、監察や内部統制を徹底することで再発防止に努めるとしています。
元消防士が反論会見
こうした動きがある中で6日、殉職した山本さんと共に当時の現場で消火活動を行っていた元消防隊員が会見を開きました。
元消防隊員(31):「公表されている事故調査報告書の内容、報道の皆様に伝わっている内容や、きのう(5日)の市長の議会答弁を含めて事実と異なる部分が多く、現場との見解が異なり誤解されているところもある」
会見で元消防隊員の男性は、当時、指揮を執っていた小隊長の処分に納得ができないと主張しました。
元消防隊員(31):「当時の小隊長が規則を守らなかったことで、事案が発生したようになっているが、本来の活動基準で必要人員を確保できなかった組織にも問題があったのであり、少ない人員で活動させてしまった組織にも少なからず責任があるのではないでしょうか」
今回の現場で使用されていなかった命綱については、活動基準で定められているものの、使用はされませんでした。これについて男性は。
元消防隊員(31):「最終的に指示をしたのは、判断をしなければいけないのは小隊長、全員それに対してNOとは言っていない」
さらに、実際の火災現場では通路が狭く、隊員の活動の障害になることもあると訴えました。
元消防隊員(31):「このような形でだんだんと絡んでいく。単なる活動障害じゃなくて、人命にかかわる活動障害が今のこのスタイルには多くある。確かに命綱を付けていれば、将光さんが違う所に行ったということは気づくことができたかもしれないです。できたと思う、正直に言えば。ただそれは逆に言えば、僕も本当に一緒に巻き込まれる可能性が高いことなんです」
専門家『命綱は基本原則』
ただ、元東京消防庁の坂口隆夫さんは、命綱は隊員の命を守る重要なもので、活動には必要不可欠だと訴えます。
市民防災研究所 坂口隆夫理事:「屋内進入をするんであれば、やはり基本的な命綱の結着、確保ロープの結着をして、いざという時にはすぐに脱出できる、そういう状況下で屋内進入をしなければいけない。これが基本原則」
今回会見を開いた元消防隊員は、2020年7月に消防士と警察官合わせて4人が死亡した吉田町の工場火災の現場にも出動。今回のビル火災で自身が当事者となったことで、活動基準を現場に即したものにするよう訴えてきましたが、聞き入れられず去年3月に消防局を退職したということです。
元消防隊員(31):「なぜ、(命綱を)使用しなかったのか。今の時代にそぐわない方法であり、安全でもなければ合理的な証明もされていないからです。逆につけるべき合理的理由は何なのでしょうか。安全性を証明できるものは何なのでしょうか。規範に書いてあるからでしょうか。だとすれば、その規範は見直しされていたのでしょうか。(活動基準を)アップデートしてこなかった、見直しをしてこなかった体制にも大きな問題があると思う」