【大井川鉄道】全線復旧へ大きな2.9km…一部区間1年ぶり運転再開 名物広報『やっとここまで』と『まだ半分もあるのか』という思い 静岡
全国の鉄道ファンを魅了する大井川鉄道。全線復旧に向けて今週、新たな1歩を踏み出しました。
伊地健治アナウンサー:「大井川鉄道の家山駅です。去年9月の台風による複数箇所の土砂崩れなどの影響で、大井川鉄道は金谷駅から家山駅までの限定区間での運行となっていました。しかし、10月1日ここから先、千頭方面で一部の土砂崩れ箇所の復旧が終わり、ここから2駅分運行区間が伸びることになりました」
地元住民らも待ち望んだ一部区間の1年ぶりの運転再開。再開初日の様子に密着しました。
自然の中を入る大井川鉄道に『自然の猛威』が
自然豊かな中を走る大井川鉄道。しかし、その《自然》が大井川鉄道を襲いました。
伊地アナ(去年9月):「崩れたその先を見てみますと、この下には大井川鉄道の線路が走っているんです。その線路も土砂によって完全に埋まってしまっています」
県内各地に甚大な被害をもたらした去年9月の台風15号。大井川鉄道も大きな被害を受けました。一時は、大井川本線、井川線の全線で不通となりました。その後、去年のうちに井川線と、大井川本線の金谷駅から家山駅までの区間では運転を再開しました。
川根温泉の最寄り駅まで…『SLで川根温泉にどうぞ』と言える
台風15号の被害から1年。10月1日、家山駅から川根温泉笹間渡駅までの2.9kmの区間が運転再開に…。
川根温泉笹間渡駅も1年ぶりに乗客を迎え入れています。今回、同行してくれたのは、大井川鉄道の名物広報、山本豊福さん。運転を再開させた大井川鉄道の現場を取材します。
大井川鉄道広報 山本豊福さん:「川根温泉笹間渡駅は川根温泉への最寄駅。さらに日帰り温泉がある。ホテルもある。我々としても『SLで川根温泉にどうぞ』『電車で川根温泉にどうぞ』。そういうアナウンスができるのは、非常に大きい」
ホームに電車が入ってくる時間のようです。
山本さん「金谷からの電車ですね」
伊地アナ「汽笛鳴らしましたね」
山本さん「この駅に1年ぶりに戻ってきた。便によってはSLも入りますし、ここまでは大井川鉄道の日常の姿が戻ってきた」
川根温泉笹間渡駅の《日常》が戻ってきました。
乗客:「東京から静岡に来て、浜松に行くついでにちょっと寄った。昔の自分が幼い頃に乗ったような電車に乗って懐かしい気持ちでいっぱい」
こちらは親子で川根温泉へ。
娘:「母が『大井川鉄道に乗りたい』と言っていたので、少し(区間が)延びたと聞いたのでちょっと乗ってみようかと。『大井川を越える』とネットで見た。川根温泉に泊まってみようかと」
娘さんが「大井川を越える」と話していましたが、運転再開となった区間には、「大井川第一橋梁」と呼ばれる鉄橋があり、ここは、金谷から出発する列車が初めて大井川の本流を通る場所です。大井川鉄道の醍醐味を味わえる特別な区間なんです。
10月1日。運転再開初日の朝。川根温泉笹間渡駅には「一番列車」を待つ熱烈なファンが…。
乗客(東京都から)「きのうは東京から来まして、昨晩は家山に宿泊しました。輝かしい一番列車に乗れると思うだけでもう胸が…。大変うれしく思っています」
午前6時36分。一番列車が出発。
その様子を見送る人たちがいました。運転の再開を喜ぶ沿線の住民です。お昼前、鉄橋の近くには、列車を出迎えるために多くの人が集まっていました。
とここで、ちょっとしたトラブルが…
ディレクター:「これ 文字が大川井に…」
住民:「大川井だね」「大川井になってる」「なんで?」「あーホントだ」「大川井」
列車が通るのは15分後。急いで文字の順番を変えました。
住民「このタイミングで気が付いてよかったです」
住民にとっても、自分たちの町に電車が走る《日常》が戻ってきました。
この日は日曜日。家族連れや子供の姿も多くみられました。
乗客(浜松市から)小学6年生
Q:どんなことをする?
A.「写真を撮ったりいろいろと…」
Q:大井川鉄道のどういうところが好き?
A.「古い車両を扱っているところが好き」
沿線でもうれしい運転再開
駅のとなりにある日帰り温泉も、今回の運転再開を待ち望んでいました。
川根温泉ふれあいのいずみ 三浦俊夫支配人:「我々の温泉の売りの1つに露天風呂があり、『SLが見える露天風呂』とPRしているが、(SLの通過が)1年間全くなかった。(運行再開は)待ちに待ったというのが実感。大井川鉄道の観光に対する影響の大きさと観光というのは、一施設、一地域ではなくて、(島田市と)川根本町を含めた広域的なものがあって、初めて観光が成り立つと実感しています」
運転再開は全線の半分 あと19.5km再開のめど立たず
今回の運転再開で全線のおよそ半分まで、復旧が進んだ大井川鉄道。
大井川鉄道広報 山本豊福さん:「一番電車が出て行って見送る瞬間は、いろいろな思いがいっぺんに湧き上がってきて、『うれしい』ような『やっとここまで来た』という安堵感もそうだし、『まだ半分あるか』というげんなりという気持ちもある。いろいろな気持ちがいっぺんに湧いてきた」
全長39.5kmある大井川本線。川根温泉笹間渡駅から千頭駅までのおよそ19.5kmの区間はいまだ復旧の目処が立っていません。
台風の爪痕は今も残っています。大井川鉄道によると、今も20カ所以上の線路が土砂に埋まっていて、その復旧費用はおよそ19億円だといいます。さらに…。
大井川鉄道広報 山本豊福さん:「今でも崩れが収まっていない部分がある。今年6月に発生した台風2号で、雨が結構降った一部は拡大しているところがあると思う。『なぜ真っ先に千頭駅まで全通させないんだ?』というご意見やお叱りをいただく。我々も民営の企業。やっぱり何年か赤字が続いている」
旅客収入の9割以上が観光客など定期外
旅客収入のうち9割以上を観光客などの定期外の乗客が占める大井川鉄道。観光を目的とした人たちに支えられて経営が成り立っています。
しかし、新型コロナの影響で乗客が激減。4年前から赤字が続き、追い討ちをかけるように去年、台風の被害にあいました。
運休区間の駅は
運休している区間の7つの駅の1つ、下泉駅。特別に中に入らせてもらいました。
大井川鉄道広報 山本豊福さん:「時刻表は運転しないものですから、隠してある」
昭和初期の面影が残る鉄道ファンに人気の下泉駅のホーム。しかし今は…。
伊地アナ「ホームにも…、ホームの手前や線路の脇、線路の中にも結構草がはえてしまっている」
山本さん「ここの区間の開通は目処が立っていない。見ると、悲しいものがある。レールとレールの間とか、本当は草ははえていない。ここにいま、除草剤を撒いても列車が通らないから意味がない。我々も経費をちゃんと節約しないといけないから、必要最小限の整備費でやっていくしかない」
伊地アナ「電車が走っていると、レールはピカピカですが、いまはさびちゃってる」
山本さん「これは今、通っていない証拠。普通になってもう1年以上経ってますから、さびますよね」
使用していない7つの駅の中には、下泉駅よりも多くの草が生い茂っている駅があると言います。
沿線の店「影響は大きい」
1年前まではSLが目の前を走っていたこちらのお店、せせらぎの郷。川根茶を使ったバウムクーヘンなどを販売していますが‥。
せせらぎの郷 筒井光夫さん
Q:(鉄道の不通の)商売への影響は?
A.「それはかなりありますよ。ここの景観はSLや電車とトーマス号。(大井川鉄道を目的に訪れる)お客さんの人数がまったくない」
大井川鉄道では、夜間を走るSLナイトトレインなど、SLやトーマス号の運行本数を増やして収益を上げようとしていますが、およそ19億円の復旧費用の捻出は難しいため、国や県などに対し支援を要請。県は今年度中までに方向性を示すとしています。
新たに再開された2.9kmの魅力
運転が再開された家山駅から川根温泉笹間渡駅までの2.9kmの区間。そこにはどんな魅力があるのか? 実際に乗ってみました。
山本さん「左右に茶畑が一面に広がっている、それはきれいですよ」
山本さん「抜里の方や笹間渡の方が『汽笛が懐かしい』と言ってくださったことも、よくわかります」
乗車時間は6分、2駅のSLの旅。
伊地アナ「茶畑ですね、いい景色ですね。川根の特産はお茶なんだな、と観光客の皆さんに見てもらえる」
そして、SLは全長275メートルの「大井川第一橋梁」へ。
山本さん「昔でいうと遠江から駿河にうつるんです」
伊地アナ「1年ぶりに本流を越えるんですね」
山本さん「新金谷から乗ってくると(乗車時間は)35分〜40分。SLをゆったりと楽しんでいただく」
2.9kmと距離は短いですが、大井川鉄道にとっては大きな1歩だと山本さんは言います。
同じ列車に乗っていた家族も大興奮。
乗客(浜松市から)
Q.2駅延伸したから来た?
A.「そうです。初めてです。区間が延びて川根温泉まで来られるので、きのうから泊まってました。景色も良かった。音とか匂いとか、五感全てで蒸気機関車を感じられた」
Q.一番乗りたかったのはお父さん?
A.「そうです」
奥さん「石炭を燃やすところを見て感激しました。カッコいいです、やっぱり。ロマンを感じます」
鉄道ファンや地元住民を笑顔にさせる大井川鉄道。全線復旧に向けて少しずつ前に進んでいるようです。