死刑確定から再審開始確定まで43年 袴田事件から再審制度の問題点を考える


袴田事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審、やり直し裁判の初公判が27日、静岡地裁で開かれます。死刑確定から再審開始まで40年以上もかかったのはなぜか。日本の再審制度をめぐる問題点を探ります。

 袴田巌さん87歳。

 元プロボクサーの袴田さんは1966年、当時勤めていた旧清水市のみそ会社専務一家4人を殺害するなどしたとして、逮捕されました。

 当初から無実を訴えてきましたが、アリバイがなかったことや、公判開始後犯行時に着ていたとされるいわゆる「5点の衣類」がみそタンクから発見されたことが決め手となり、死刑が確定しました。

 そんな袴田さんの前に立ちふさがっていた重い扉が、今年3月ついに開きました。

「再審開始。再審開始です~」

 東京高裁が再審を認める決定を出したのです。

鴨志田祐美弁護士:
「死刑事件に対するハードルの高さということをずっと痛感していた21世紀だったので、やっとそういう意味では、そこを突破していよいよ再審公判に向かう死刑事件ができたっていうのは、ものすごい感慨深いですね」

 こう話すのは日弁連の再審法改正実現本部の本部長代行を務める
鴨志田祐美弁護士です。

証拠開示のルールがない

 鴨志田弁護士の指摘する高いハードルとは、再審に関する法整備がなされていないことです。

鴨志田祐美弁護士:
「袴田さんの無罪方向の証拠が30年も経って初めて出てきたっていうことこれは、やっぱり証拠開示を再審請求審の中で定めたルールがないということで、それまで証拠開示が進まなかったっていう弊害が、もろにここに反映されている」

 再審請求事件に関して現在の法律は証拠の開示を義務付けてはおらず、裁判所が検察側に開示するよう求めるかどうか、「裁量」に委ねられているが実情です。

 袴田事件の再審開始を決定づけた「5点の衣類」のカラー写真も、第2次再審請求の段階で、静岡地裁が検察側に開示を促した結果、出てきた証拠です。

鴨志田祐美弁護士:
「検察官は自分から進んでは出さないと。裁判所から勧告が出ればしぶしぶ出すんだけれども、裁判所もルールがないからやっていいかどうかわからない。私は再審格差という言葉を作りましたけど、元々は証拠開示をしてくれる裁判官もいれば、してくれない裁判官がいて、それが格差になっている。今やそれは手続き全体に及んでいる。再審の。」

「5点の衣類」

検察が不服を申し立てることにより再審開始まで長い期間が

 そしてもう一つ鴨志田弁護士が問題視するのが、検察側が不服を申し立てることができるようになっている点です。

 袴田さんが最初に再審を求めたのは1981年。

 最高裁まで争い2008年、1度は請求が棄却されます。

 同じ年に行なった2度目の再審請求の結果、2014年静岡地裁が再審を認める決定を出しましたが、検察側が抗告したため、2018年に東京高裁が再審開始決定を取り消したという経緯があります。

鴨志田祐美弁護士
「(静岡地裁)再審開始決定を出したのが2014年の3月ですけどそこから9年経っている。再審開始決定に検察官が不服を申し立てるということが今まかり通っている。この2つによってものすごく救済が遅れた」

 日本の刑事訴訟法の参考にされたとされるドイツの法律では、再審開始決定に対し、検察側は抗告できないほか、弁護人は記録の閲覧権が保障されています。

 袴田事件以前に確定死刑囚の再審が認められたケースは、静岡県内で起きた島田事件など4例あります。

 その全てで後に無罪が確定していますが、いずれの事件も死刑確定から再審開始まで検察側の抗告もあり20年~30年近く費やしています。

2018年に東京高裁が再審開始決定を取り消し

袴田事件の再審が日本の刑事司法制度を変えるきっかけになるか

 3月の東京高裁決定は5点の衣類に関して、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と評価していて、袴田事件も過去4例の死刑囚再審と同様に、無罪が言い渡される公算が大きくなっています。

鴨志田祐美弁護士
「(再審に関して)全然手続きの規定もないので、証拠開示だけじゃなくて、期日を開くかどうかとか、証人尋問をやるかどうかとか、全然決まりがない。袴田さんの再審無罪はゴールでは無い。少なくとも再審の手続きに関しては、こんなに時間がかかる。こんなダメダメな制度では、もう立ち行かない」

 袴田さんの死刑が確定してから再審開始が確定するまで、およそ43年。

 逮捕されてからは57年経ち、87歳になった袴田さんに残された時間はそう多くはありません。

 袴田事件の再審がこれまでの刑事司法手続きのあり方を大きく変えるきっかけになるのか。

 初公判は27日午前11時に開廷します。

袴田巌さん