SKE48・青木詩織さんが地元で凱旋ライブ 無料ライブを企画する焼津市の狙いは?
11月4日、静岡県焼津市では、「やいづ親善大使」を務める青木詩織さんがライブを行いました。所属するSKE48からの卒業を記念して行われたライブですが、主催は青木さんの故郷・焼津市。さらに入場料無料という「異例」のものでした。なぜ焼津市はアイドルの無料ライブを企画したのでしょうか?(取材・文=三浦徹)
青木詩織さんは焼津市出身で1996年生まれの28歳。2012年に名古屋市を拠点とするアイドルグループSKE48に6期生として入り、「おしりん」のニックネームで親しまれています。11月30日にグループを卒業する予定です。
2015年から「やいづ親善大使」を務め、焼津市のイベントにもたびたび参加。7月に行われた焼津市の夏祭り「踊夏祭」ではSKE48のメンバー7人とともにミニライブを実施しました。
「異例」の無料ライブ
11月4日に焼津文化会館で行われた「卒業記念凱旋LIVE~それを青春と呼ぶ日~」は青木さんのグループ卒業を祝って行われるもので、青木さんとSKE48のメンバー7人が参加しました。7人は青木さんが副リーダーを務める「チームKⅡ」のメンバーで、そのうち5人は7月の「踊夏祭」にも参加し、焼津市民にもおなじみです。
今回のライブは焼津市の主催で入場料は無料。自治体がアイドルの本格的なライブを無料で企画するのは「異例」だということです。
会場には大勢の観客が…
午後5時半に開場すると、1300の客席は観客でいっぱいに。今回のライブの申し込みは先着順ですが、およそ1時間で定員に達したということです。
開始を前に、地元での初の凱旋ライブに臨む青木詩織さんに意気込みを聞きました。
最高のパフォーマンスを
●青木詩織さん
「まだ平常心ですけど。これから緊張していくのかな。地元のホールで、ライブをすることが夢だったので、その夢が最後にかなえられるのがすごくうれしいです。アイドルの最後としていい時間にしたいと思いますし、今日焼津に来てくださる方々に、私が卒業した後も焼津を好きになって、また来てもらえるきっかけになったらと思います」
Q大勢の人が来ていますね?
「結構会場のキャパが大きいので、大丈夫かなと思っていました。アクセスがいいわけじゃないし。来てもらってうれしいです」
Q焼津市がライブを企画したことについては?
「こんなに最後まで手厚く背中を押してくれると思っていなかったので本当に焼津に生まれてよかった」
「最後の集大成として、成長した姿をたくさんのかたに見てもらいたい。私が卒業した後もSKE48を好きでいてもらいたいので、みんなで今できる最高のパフォーマンスをしたいと思います。最後まで見てください」
SKE48は青春だった!
午後6時、コンサートが幕を開けました。「overture」のコールが会場にひびき、ライブがスタート。1曲目は「あの頃の君をみつけた」。
会場は割れるような「おしりん」コールとともに、青、黄色、白(青木さんのメンバーカラー)のペンライトで埋め尽くされます。
今回のセットリストは全て、青木さんが考えたということです。
●青木詩織さん
「私にとってSKEは青春だったなと思ったので、青春を歌った曲をいれたりとか、どの曲も思い入れがあります。聞いているファンの人が当時を思い出すような、みんなも(SKE48に在籍した)12年間をふりかえれるような、セットリストにしています。今回は暗めの曲とかもないんですよ。みんなと笑って目を合わせられるような曲が好きなので、そういう曲ばっかになっちゃいました。」
6年前のリベンジを
2曲目は「いきなりパンチライン」。青木さんはこの曲はある思いがありました。
●青木さん
「この曲は、2018年の(焼津市の)踊夏祭に出たときににやった曲なんですけど、その時は全然踊れなくて、振りを間違えたんですよ。この焼津でリベンジを果たしたいという思いでこの曲を入れました」
青木さんを含むSKE48のメンバー8人は、2018年、焼津市の夏祭り「踊夏祭」でミニライブを披露しました。その中で当時新曲だった「いきなりパンチライン」を歌っているときに、青木さんは振りを忘れて、フリーズしたことがありました。
このライブのため、「いきなりパンチライン」の「振り」を改めて練習したという青木さん。今回はうまく踊れたようです。6年前のリベンジを果たしました。
その後もMCを挟み「glory Days」「放課後レース」などファンにおなじみのユニット曲が続きます。通常、ライブでは出番のない曲もありますが、今回青木さんは全曲に出演。しかもセンター。全身汗びっしょりになりながら、ステージを走り回ります。
曲に合わせて、メンバーが客席にボールを投げたり、ステージを降りて客席に行ったり、会場は大盛り上がりです。
焼津市長が激励に
後半にはこの人も登場しました。
●焼津市 中野弘道市長
「おしりんは親善大使として、SNSを使ったり、いろんな方法で、全国に焼津をPRして、たくさんの人が焼津市にきてくださいました。まさにスーパーアイドル中のスーパーアイドルです。SKE48は卒業しますが、これからもみなさんに応援していただきたい」
これまでの労をねぎらい、中野市長と焼津市のマスコットキャラクター「やいちゃん」から青木さんに花束が贈られました。
そして午後7時半、最後の曲「DADAマシンガン」でライブは幕を閉じました。アンコールも含め17曲が演奏されました。
今までにないくらいやり切った!
●青木詩織さん
「今までのライブにないくらいやり切った感がすごい。お客さんに満足していただけたら嬉しいです」
Qもうじき卒業ですが、活動を振り返って
「私は地元のお仕事でいい思いをしてきて幸せでした。その同じ気持ちを後輩のみんなにも感じてほしい。後輩は努力家の人が多いんです。何もない私でもここまでできたので、うまくいかないことがあっても、腐らずがんばってほしい」
青木詩織さんは11月30日にSKE48を卒業します。卒業後の進路は未定だということです。
なぜ焼津市が無料ライブを企画したのか?
今回は一見、普通のアイドルのライブですが、焼津市が企画し、入場料無料という「異例」ともいえるものでした。なぜ焼津市がライブを企画したのでしょうか?
●焼津市 石原隆弘市長戦略監
「私たちは、最終的には移住・定住人口を増やそうとしてますが、その前の段階として、そこににつながる『関係人口』の関係づくりをすすめています。例えばふるさと納税をした人とか、焼津市のものを買った人とか、焼津市に宿泊した人とか」
総務省によれば最近注目される「関係人口」とは、「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様にかかわる人々をさす言葉です。「『関係人口』と呼ばれる地域外の人材が、地域づくりの担い手となることが期待される」としています。
●焼津市 石原隆弘市長戦略監
「今回青木さんやSKEを通じて、関係人口作りをしたいな、ということでこのライブを企画しました。ライブを通じて焼津に来てもらうことは一番大事ですが、アンケートを取ることでいらっしゃった方の意見を聞き、それをこれからの取り組みに反映したいと思っています」
Q今回来場した方の7割が県外の人でした。
「名古屋を中心に県外の方がたくさんいらっしゃっています。そういう点では私たちの狙いが成功したと思っています。ネットの反応も好意的です」
Q無料じゃなくてもよかったのでは?
「関係づくり、情報収集をすることで、中長期的に見て焼津のファンを増やす、そういった取り組みなので、このライブで、市が利益を得ようとは全く考えていません。でも、こんなに評判がいいんだったら、有料でもお客さんがきてくれたのではと思います。(笑)」
ライブ会場の別室でワークショップ
来場者の意見を聞くために、ライブ会場では、訪れた人にアンケートを実施しました。アンケートは26問。「焼津市に住む、来るとしたらどんなものがあるといいと思いますか」「2地域活動(主な生活拠点とは別に特定の地域において地域活動を行うこと)をしたことはありますか」といった「関係人口」を意識した設問になっていました。「青木詩織さんが卒業することになりますが、今後、ファンとしてどのような活動・支援を期待しますか」という設問もありました。
そして、焼津市がもう一つ実施したのが「ワークショップ」です。
ライブ開始時間の3時間前。会場の焼津文化会館の別室には県外から訪れた20人が集合しました。ネットワークを通じて募集した、SKE48ファンの人たちです。焼津の印象、魅力、認知度などを、ファンならではの目線で語り合い、市の取り組みの参考にしたいという「ワークショップ」が実施されました。
参加者は3つのグループに分かれ、課題に臨みます。課題は「これまでの住んだ場所のいいところ、気になるところ」「私が推すきっかけと推しポイント」の2つ。ライブの前に観客がワークショップを行うというのも「異例」です。
ワークショップでは…
●参加者
「私が推している人も、アイドルとして完璧だから応援してるわけじゃないんです。未熟なところがあるから、成長する姿をみるのがうれしい。街も一緒で完璧じゃなくてもいいと思います」
●参加者
「私が応援している人は何をやるかわからない破天荒な所が魅力。街づくりもそういう要素があってもいいのでは」
ライブ前に行われたワークショップ。青木詩織さんをきっかけに焼津市を訪れるようになったという参加者たちは1時間半にわたり、焼津市について真剣に語りあいました。
焼津市が「関係人口」を増やすためのヒントに
●参加者
・男性(愛知県あま市 40代)
「焼津には何十回と来ています。今日もさかなセンターに寄ってから来ました。ライブは楽しみですが、ライブの前にこんなことをやるとは思わなかった」
・女性(愛知県豊田市 30代)
「ライブをやってくれることはすごくありがたい。ワークショップは最初は何でこんなことやるのかと思いましたが、実際参加してみたら面白かった。今回のライブは市の主催なので、市主催ならではと思いました」
・男性(愛知県豊田市 40代)
「県外の人がどう感じるのか意見が欲しいというので、できる限り協力したいと思いました。ライブは有料でもいいのにと思っていましたが、無料ですので、焼津市の役に立とうと思ってワークショップは真剣にやりました」
ワークショップで出た様々な意見は、焼津市が関係人口を増やすためのヒントにするということです。
卒業しても焼津市を応援してほしい
気になるのが、今後の青木詩織さんと焼津市のつながり。青木さんの進路は未定だということですが…。
●焼津市 石原隆弘市長戦略監
「これまでの長年の活動にすごく感謝してますし、寂しい思いもあります。彼女がSKEのファンに愛されて卒業するということで、今後の活躍を期待したい。SKE48を卒業しても、可能でしたら今まで通り焼津市の応援をしてもらいと思っています」