炭火を前に、鶏の声を聴く 素材への敬意と探求の一串 静岡市「とりこ」

静岡駅南、稲川。小さな飲食店から炭火の香りが立ちのぼる。扉を開けた途端、煙と脂の香ばしさに思わず胃袋が目を覚ます。店の名は「とりこ」。2年前の開店以来、焼き場を囲む客たちの目当てはひとつ。「おまかせ8種」。富士宮産の銘柄鶏「富士の鶏」を中心に、モモ、ムネ、肩、ぼんじり、やげん軟骨…と、様々な部位を炭火で焼き上げてくれる。炭は、遠赤外線でゆっくりと火を通す。モモ肉は外はパリッと、内は肉汁がしっとりと弾ける。噛むほどに脂の旨味が溶け出し、鶏の力強さを実感する一串。対してムネ肉はあっさりとした軽やかさ。そこにネギ塩ポン酢をひとたらしすれば、夏の夜にぴったりの清涼感が口いっぱいに広がる。そして驚きは、鶏の肩肉。モモの濃さとムネの軽やかさ、その中間にある“絶妙”。焼きが入り過ぎると固くなるこの部位を、絶妙なタイミングで焼き上げている。噛みしめたときのじわっとした旨味は、酒を呼ばずにいられない。

大とりこ盛り おまかせ8種類(1380円)
大とりこ盛り おまかせ8種類(1380円)

鶏もも肉
鶏もも肉

肩肉
肩肉

酒肴にも抜かりがない。くん製した鶏皮といぶりがっこを混ぜ込んだポテトサラダは、上に燻製卵をぽんとのせた逸品。香りと食感が折り重なり、ひと口で箸が止まらなくなる。

とりこの燻製ポテトサラダ(620円)
とりこの燻製ポテトサラダ(620円)

「肉味噌バリバリお野菜」は、鶏ミンチに麦味噌と甜麺醤を合わせ、旬の葉しょうがといただくのが粋。噛むごとにピリッと味噌が香り、野菜の甘みが引き立つ。

肉味噌バリバリお野菜(720円)
肉味噌バリバリお野菜(720円)

〆には、ただの“サンド”では終わらない「とりこのカツサンド」が待っている。モモ肉にカレーベースのソースを挟み、仕上げにミモレットを振りかける。口に含めば、チキン、スパイス、チーズ、それぞれが独立しながらも調和し、一体となって押し寄せてくる。

とりこのカツサンド
とりこのカツサンド

炭火を前に、鶏の声を聴く。焼きの強弱、味つけの方向性、出す順番――すべてが、鶏という素材への敬意と探求の結晶だ。鶏に惚れ込みたければ、ここに来ればいい。

炭火を前に、鶏の声を聴く 素材への敬意と探求の一串 静岡市「とりこ」

とりこ
静岡市駿河区稲川1‐1‐29コーポ前田1階
TEL 054‐266‐3883
営 17:00~23:00
  フードL.O.22:00/ドリンクL.O.22:30
休 火曜日
Pなし