派手さはないが記憶に残る 蕎麦への敬意と誠実な仕事 静岡市「そば切り 玄山」

静岡市駿河区下河原南、静岡徳洲会病院の近くにある「そば切り 玄山」。店主・漆畑壽(ひさし)は、36年間の会社員生活を経て、蕎麦の道を選んだ。「定年後、なにをして生きていこうかと考えた時に、一番好きだった蕎麦打ちを選びました」と、柔らかい笑顔で語る。その決意は穏やかだが、芯は揺るがない。蕎麦粉は、茨城県産の「常陸秋そば」を使用。香り、甘み、コシ、いずれも高水準でバランスがとれた、いわば“優等生”の品種だ。この時季ぜひ味わいたいのが「ゆずおろし」。大根おろしに、ミョウガ、カイワレ大根、刻み柚子、柚子こしょうといった薬味を混ぜ込んだ特製つゆに、しっかり締められた蕎麦を浸す。そこに添えられる鶏天が実に心憎い。香ばしくジューシーな鶏の天ぷらが、薬味と蕎麦の爽やかさに奥行きを与えている。一口ごとに、夏の重さがほどけていく。

ゆずおろし蕎麦(1250円)
ゆずおろし蕎麦(1250円)

とり天
とり天

蕎麦をストレートに味わうなら「二八せいろ」。枕崎産の本枯れ節、静岡県産の干し椎茸、北海道利尻の昆布を使っただしに、二種の醤油を合わせたかえし。薬味は、地元・梅ヶ島の本わさび。どこを切っても、素材への敬意と誠実な仕事がにじんでいる。

二八せいろ(840円)
二八せいろ(840円)

面白いのは、冷・温でゆで時間を変えていること。冷たい蕎麦は45秒、温かい蕎麦は23秒。わずか十数秒の差が、舌の上で大きな違いとなって表れる。温かい蕎麦の代表格が、「小海老天そば」。五尾のプリプリとした海老天が蕎麦を囲み、中央には刻んだ三つ葉。滋味あふれるつゆをまとった蕎麦が、海老の甘みと香りとともに口に広がる。派手さはないが、記憶に残る温かさがある。

小海老天そば(1250円)
小海老天そば(1250円)

天ぷらの盛り合わせも好評だ。ナス、レンコン、マイタケ、スナップエンドウ、サツマイモ、そして海老。いずれも揚げたてで供され、カレー塩や抹茶塩でいただく。噛むごとに素材本来の味が花開く。

天婦羅(940円)
天婦羅(940円)

「お客さんから長く続けてねって言われるんです。だから、80歳までは頑張りたいですね」。そう語る漆畑の横顔には、蕎麦を打つ人間の気概と、歳月に裏打ちされた落ち着きが同居していた。(敬称略)

派手さはないが記憶に残る 蕎麦への敬意と誠実な仕事 静岡市「そば切り 玄山」

そば切り 玄山
静岡市駿河区下河原南16‐2
TEL 054-270-7339
営 11:30~14:00/17:00~20:00※売り切れ次第終了
休 月曜日※祝日は営業、翌日休み
Pあり