蕎麦をベースに夏を遊ぶ 浜松市「手打そば 築」
浜松市中央区和田町の「手打そば 築(ちく)」は、そばの奥深さを軸に、自由な発想で季節を映す店だ。福井県産の丸抜き蕎麦の実と栃木県産の殻付き蕎麦の実をブレンド。香りと甘み、そして噛んだときの優しい粘りが心地よい。打ちたて、ゆでたて、削りたて——三拍子そろった“いま”の味わいがここにある。ランチの一押しは「生のりとしらすのかき揚げ丼セット」。舞阪産しらすと磯香る生のりをかき揚げに。外はカリッ、中はしっとり、噛めば潮風の香りが立ちのぼる。甘じょっぱいタレが白飯に絡み、そこにコシのある蕎麦が加われば、和のフルコースだ。

夏限定の「冷製トマトそば」も面白い。地元産の完熟トマトを6時間煮詰めたピューレに蕎麦出汁を合わせ、バジルと揚げた蕎麦の実を散らす。見た目はまるで冷製パスタ、だが味はれっきとした“和”。トマトの酸味と甘み、出汁の余韻が折り重なる逸品だ。

さらに「ぶっかけそば」は、辛味大根、小松菜、蕎麦の芽、かつお節と、薬味が主役を張る構成。浜松の農家に頼んで育ててもらっている紫の辛味大根は、刺激と甘みのバランスが絶妙で、そばの輪郭を際立たせる。

特筆すべきは「冷し担々麺」と書いて「ひやしたんたんにほんそば」と読ませる一杯。蕎麦出汁をベースに、カシューナッツ・アーモンド・クルミのペーストを溶き、鴨の甘辛挽肉をトッピング。辣油も自家製。辛さは控えめ、なのにコクは深い。夏バテ知らずの力強さが一杯に込められている。

「スパイスカレーそば」では、蕎麦出汁とスパイスの融合に挑戦。鶏肉と糸唐辛子を添え、飲めば汗がじんわり。だが、辛さの奥にある出汁の柔らかさが、和食の懐の深さを感じさせる。

店内には、店主・牧野築さんの長女、千尋さんが描いた版画や絵が飾られている。どれもユニークで優しく、蕎麦を食べながら眺めれば、食事が少しだけ詩的になる。


手打ちそば 築
浜松市中央区和田町153‐1
TEL 053‐464‐8801
営 11:30~14:30(L.O.14:00)/17:00~20:30(L.O.20:00)
休 火曜日・第3月曜日の夜
Pあり