【静岡高校野球2025】熱闘の中で光った原石たち~静岡大会注目選手総まとめ~

頂点に立った左腕エース・髙部陸

 聖隷クリストファーの初優勝で幕を閉じた静岡大会。今夏を彩った注目選手たちの活躍を振り返っていきたい。
 まずは、何と言っても聖隷クリストファーの2年生エース・髙部陸だ。準決勝では6者連続三振を奪い、決勝では1失点完投。圧巻の投球で他チームを寄せ付けなかった。
 最速147キロを誇るストレートは、ただ速いだけでなく、ホップして伸び上がるような軌道を描く。準決勝で対戦した藤枝明誠の光岡孝監督は「高めに手を出すなと指示をしたが、低めに来るボールが良すぎた。打てる球がなく、ファウルするのが精いっぱいだった」と振り返る。決勝で対戦した静岡の池田新之介監督も「こちらとしては捉えていた感触でも、あとひと伸び足りず外野に抜けていかなかった」と、独特の球筋に苦しめられた様子だった。
 髙部が春から掲げてきたテーマは「どうやって簡単に打ち取るか」。フォークを改良した“抜く系”の変化球などの精度も高く、相手打者を翻弄した。
 優勝後、「甲子園では何キロを出したいですか? 150キロとか?」と質問をぶつけると、「いや〜難しいですね…。150キロが出たらうれしいですけど、そんな簡単にはいかないと思うので、結果として抑えられたらそれでいいかなと思っています」と冷静に語った。
 スピードガンの数字に注目が集まりがちだが、制球力、変化球の完成度、スタミナ、メンタル。勝てる投手としての資質がすべて揃っているのが、髙部のすごさなのだろう。

優勝インタビューを受ける髙部陸(聖隷クリストファー)
優勝インタビューを受ける髙部陸(聖隷クリストファー)

今大会を彩った好左腕たち

 髙部に代表されるように、今大会は好左腕の活躍が目立った。
 静岡の吉田遥孔は本調子ではなかったが、要所を締めてチームを決勝まで導いた。日大三島との4回戦では10四死球を出しながら6安打完投。準決勝も序盤は制球に苦しんだが、5回終了時のクーリングタイム中に池田監督とフォームの修正点を確認し、後半は本来の力強い球で完封した。
 勝負どころでの気迫あふれる投球が光ったのが東海大静岡翔洋の小松原健志。4回戦では優勝候補筆頭と目された常葉大菊川を9回1失点に抑え、準々決勝は延長10回裏から登板し、3者凡退。そして、静岡との準決勝でも8回途中まで1失点の好投を見せた。
 「夏に入ってどんどん成長できた」と語るのが、御殿場西の杉本迅。しなやかな腕の振りが持ち味の本格派左腕で、序盤戦では最速143キロを計測。4回戦では前年度王者・掛川西を相手に3安打完封を果たした。冬から積み重ねた努力が実った。キャッチボールから指に圧をかける感覚を意識した結果、球の回転数が1400〜1600回転から2300回転までアップし、数字以上の伸びを手に入れたという。「ここからはフィジカルを鍛え、まだ決めきれていない変化球の精度を上げていきたい」。大学進学後、4年後のプロ入りを目指す。

春から夏にかけて急成長を遂げた杉本迅(御殿場西)
春から夏にかけて急成長を遂げた杉本迅(御殿場西)

プロ注目右腕の矜持

 日大三島の小川秋月、加藤学園の山田晃太郎。プロ注目の右腕2人も、その実力をいかんなく発揮した。
 小川は4回戦で静岡の吉田とエース対決。初回から146キロを計測するストレートに、変化球で緩急をつけた投球で勝負した。8回には連続タイムリーを浴びて4失点。それでも「最後まで自分のスタイルを変えずにやり切ったので、悔いはない」と胸を張った。
 山田は浜松開誠館との2回戦で12奪三振。9回1死満塁のピンチでは一度は外野に回ったが、再登板で自己最速となる148キロをマークし、反撃を封じた。
 その山田と4回戦で投げ合い、完封勝利を収めたのが桐陽の望月佑哉。140キロ前後のストレートに、鋭いスライダーとチェンジアップを組み合わせる巧みな投球で相手打線を翻弄した。
 また、41年ぶりのベスト8進出を果たした富士東・清水琉偉の安定感、3回戦でシード校を破った清水東・疋田岳土のサブマリン投法も記憶に残る。

下手投げから打者を翻弄した疋田岳土(清水東)
下手投げから打者を翻弄した疋田岳土(清水東)

スラッガー不在の中で光った遊撃手たち

 今大会は、本塁打数が昨年の27本から12本へと大きく減少。筆者自身、取材した試合で本塁打を見る機会はなかった。
 ナンバーワンスラッガーと期待された掛川西・石川大峨は、大会開幕直後の7月4日に左手有鉤(ゆうこう)骨を骨折。4回戦で1打席に立ったのみで大会を終えた。進路は「プロ志望」だが、春から夏にかけて十分にポテンシャルを示しており、スカウトの評価は揺るがない。今後は手術を受け、万全な状態で秋のドラフト会議を迎える。

故障の影響で三塁コーチャーや伝令役でチームに貢献した石川大峨(掛川西)
故障の影響で三塁コーチャーや伝令役でチームに貢献した石川大峨(掛川西)

存在感示した遊撃手

 そんな中で存在感を放ったのが県を代表する2人の遊撃手だった。
 静岡の石𣘺咲人は打球を予測する野球勘と、巧みなグラブさばきで観客を沸かせた。特に印象的だったのは準決勝の2回。三遊間への安打性の打球を逆シングルでつかみ、ジャンピングスローで打者をアウトに仕留めた場面だ。全国クラスのプレーといっても過言ではない。打っても1番打者として準決勝まで打率5割超をマーク。中堅から逆方向を中心に鋭く打ち返し、チャンスメークした。
 その石𣘺に負けず劣らずの輝きを放ったのが東海大静岡翔洋の本多渉真。柔らかいグラブさばきと強肩を生かした守りに、常葉大菊川戦との4回戦では10回に右翼方向へ同点タイムリーを放った。準決勝では3回に死球を受け無念の交代となったが、最後までベンチに残り、仲間を鼓舞し続けた姿が心に残った。

主将としてチームを決勝まで導いた石𣘺咲人(静岡)
主将としてチームを決勝まで導いた石𣘺咲人(静岡)

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取材・文=栗山 司
くりやま・つかさ 1977年、静岡県生まれ。スポーツライター・編集者。雑誌『野球小僧』の編集者を経てフリーに。2012年に地元・静岡に根差した野球雑誌『静岡高校野球』を自費出版で立ち上げ、年2~3回発行。ブログ『静岡野球スカウティングレポート』(http://tsukasa-baseball.cocolog-shizuoka.com/
) でも県内の野球情報を発信する。
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