串から広がる余韻、酒を誘う大人の時間 静岡市「炭焼き串処 かさい」
静岡市葵区研屋町にしっくりと馴染む「炭焼き串処 かさい」。カウンター越しに並ぶネタ箱は、その日の仕込みが整然と並び、訪れる者の期待を静かに高める。34年にわたって炭火串焼きと一品料理を出し続けてきたという店の風格は、暖簾の先にある火床の揺らぎが物語る。店の矜持は一本一本の串に宿る。毎日四十種類以上を串打ちし、遠赤外線のように表面を一気に高温で仕上げつつ、中身はふっくらと火を通す技は、長年の経験があってこそ。まずおすすめしたいのが看板の「阿波尾鶏の塩焼き串」。身の甘さを際立たせるのは、店がこだわる塩で伊豆大島の海水を汲み上げて作られた塩を用いている。鶏の脂とネギの甘みが噛むごとに溶け出し、塩がそれらをすっとまとめる塩梅は、まさに串焼きの手本だ。

この時季の呼び物はやはり「サンマの塩焼き」。太く脂ののった一尾を炭でじっくり焼き上げ、三枚にして大葉を芯にくるりと巻く変化球も。内臓はソースに仕立て、仕上げに垂らすことで苦味と旨味のコントラストが生まれるという工夫が、この店らしい。


季節の小さな楽しみも惜しまない。清水・八木間の銀杏は殻を叩いて割り、炭火で香ばしく焼き上げ塩で供する。万願寺ししとうは焼き上げた後に鰹節と醤油をかけて甘みを引き出す。えのきを豚の三枚肉で巻いた肉巻きも、脂が落ちてえのきの旨みが増す定番の1本だ。

万願寺ししとう串焼き(1串308円)※季節限定


炭床は均一の温度ではない──その目利きが串に命を吹き込むと、常連は頷き、初めての客は火の前で目を細める。夜が深まるほど香ばしさと湯気が混じり合い、一串一串に季節が刻まれていく。

炭焼き串処 かさい
静岡市葵区研屋町29-4
電話番号:054-273-3236
定休日:日・月曜日
営業時間:17:30-23:00 L.O.22:30
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