「プレミアムフライデー」はなぜ消えた? 静岡市が全国に先駆けて取り組んだ「プレ金」の軌跡と、いまも残る働き方改革への影響

皆さんは「プレミアムフライデー」を覚えていますか。月の最後の金曜日は仕事を早めに切り上げ、プレミアムな金曜日を過ごそう――。政府が提唱した個人消費喚起キャンペーンでしたが、最近はその言葉を耳にすることもなくなりました。(取材・文=三浦徹)

「プレミアムフライデー」は、2017年に経済産業省が提唱した消費喚起キャンペーンです。月末の金曜日は早く仕事を切り上げ、充実した週末を過ごそうという取り組みで、略して「プレ金」とも呼ばれました。

当初は「金曜日は午後3時に仕事を終える」という大胆なコンセプトでしたが、次第に「残業を減らそう」という現実的な内容へと落ち着いていきました。

このプレミアムフライデーに率先して取り組んだのが静岡市です。

静岡市は商工会議所や地元商店街などとともに官民一体で「静岡市プレミアムフライデー官民推進協議会」を設立し、積極的に取り組みました。「プレ金」に合わせて、コンサートや講演会など、市民が参加できるイベントも数多く企画しました。

提供:静岡市
提供:静岡市

静岡市は日本一のプレミアムフライデーを目指す

静岡市の広報紙「静岡気分」2017年12月号の1面には、「プレミアムフライデーをきっかけに毎日のくらしをもっと豊かに」という大きな見出しが掲げられています。同じページには当時の田辺信宏市長のコメントも掲載されており、力の入れようがうかがえます。

●田辺信宏市長(当時)のコメント
「今後もプレミアムフライデーの定着と拡大に取り組み、『健康に働き、豊かに暮らせる世界水準なまち』の実現を目指してまいります」

さらに次のページもプレミアムフライデーの特集です。さまざまな情報を掲載する自治体の広報紙としては異例のボリュームでした。

2ページ目には主に市民の声が載っているほか、当時PRを担っていた関ジャニ∞のラッピングバスが運行されたことも紹介されています。記事には「静岡市は日本一のプレミアムフライデーを目指す」と、はっきり記されています。

2017年3月には、当時の加藤勝信・働き方改革担当大臣が「先進事例」として静岡市を視察に訪れました。

広報誌「静岡気分 2017年12月号」(提供:静岡市)
広報誌「静岡気分 2017年12月号」(提供:静岡市)

「働き方改革」を前面に打ち出す

静岡市は、なぜここまでプレミアムフライデーに力を入れたのでしょうか。

当時、静岡市商業労政課でこの事業を担当していた渡邊伸樹さん(現在は総務課)に話を聞きました。

●静岡市総務課 渡邊伸樹さん
「静岡市だけでなく、商工会議所などと協議会をつくっていましたが、リーダーだった市長や商工会議所の会頭が非常に前向きで、みんなが一致団結できたことが大きかったと思います。経産省は『消費喚起』をメインにしていましたが、静岡市はそれよりも『働き方改革』を前面に打ち出していました。そのため、官民が連携しやすかったのではないでしょうか。『ワーク・ライフ・バランスの向上』という、経産省とは異なる切り口でプレミアムフライデーを進めてきました」

関ジャニ∞(当時)のラッピングバスも登場(2017年11月)
関ジャニ∞(当時)のラッピングバスも登場(2017年11月)

「プレミアムフライデー」の名前を耳にする機会は少なくなって…

 

定時退「茶」飴
定時退「茶」飴

当時の田辺市長は、確かにプレミアムフライデーに積極的に取り組んでいました。

定時退社とお茶を掛け合わせた飴「定時退茶飴」を自ら街頭で配ってPRしたほか、新社会人を対象にした「大名刺交換会」にも積極的に参加し、新社会人と名刺を交換していました。

しかし、それから年月が過ぎ、静岡市でもプレミアムフライデーの名前を耳にする機会は少なくなりました。

●静岡市総務課 渡邊伸樹さん
「取り組み自体はコロナ前の2020年初頭までは続けていました。しかし、最初のインパクトが強すぎたため、だんだん印象が薄れていったのだと思います。最初はテレビや新聞に取り上げられる機会も多かったのですが、そうした機会も徐々に減っていきました」

その後、2020年には新型コロナの感染拡大によって、そもそもの働き方そのものを見直さなければならなくなり、プレミアムフライデーは事実上の休止状態となりました。

2022年には静岡市の協議会が解散し、翌2023年には経済産業省の特設サイトも閉鎖されました。国主導の大規模なキャンペーンでしたが、十分に定着することなく幕を閉じたという印象です。

田辺市長(当時)も飴を配った(2018年2月)
田辺市長(当時)も飴を配った(2018年2月)

決して無駄ではなかった

 

新社会人を対象にした大名刺交換会(2018年4月)
新社会人を対象にした大名刺交換会(2018年4月)

最初の盛り上がりが大きかっただけに、「一過性のブーム」のような印象を受けるプレミアムフライデー。それでも、静岡市が熱心に取り組んだことは決して無駄ではなかったと話すのは、現在、商業労政課に勤務する知久直人係長です。

●静岡市商業労政課 知久直人係長
「プレミアムフライデーがあったことで、『早く帰るきっかけになった』『休みを取りやすくなった』という声は当時から聞かれました。ワーク・ライフ・バランスが浸透したことも、プレミアムフライデーの効果の一つだったと思います。もちろん、『働き方』に対する時代の流れもあったとは思います。

少し前まで市役所では、『水曜日や金曜日は残業せず、早く帰ろう』という運動も行っていましたが、これもその流れの一つです。また近年、リモートワークや男性の育児休業など、働き方の選択肢が広がっています。静岡市では、多様な人々が働きやすく活躍できるよう取り組んでいる企業を表彰していますが、こうした取り組みにもつながっているのではないでしょうか。

プレミアムフライデーという言葉自体はあまり聞かれなくなりましたが、市役所以外でも、その考え方や影響が残っている企業は多くあります。一定の成果はあったと思っています。」

田辺市長(当時)も参加
田辺市長(当時)も参加